課した誓いの効果
各国領主たちが帰ったその日、話があると7つ星の騎士団だけは残った。
5人揃った外套を身につけた7つ星の騎士団は、アラスカ以外はみんなフードを被っていて顔を見せていない。
ダイニングルームで夕食を済ませると、アラスカが要件を話し出してくる。
「今回は本当にめでたい席に招いてくれた事に感謝します。 さて本題ですが、どうにも聞き逃せない話を聞かせてもらいました」
「ドラウ進軍の事か?」
お父様に頷いて答えて、どうするつもりなのかを聞いてくる。
「ん、ああ、その件なら全部ララノアに任せてるから、ララノアに聞いてくれ」
まだ成人まで僅か達していない私に全てを任せている事に一瞬だけ驚いた顔を見せたけど、アラスカは真剣な表情で私に話しかけてくる……
耳が尖っているアラスカは英雄セッターの娘で、本来であればとうに死んでいておかしくない。 のだけど、英雄セッターはエルフと結婚したため、産まれた子供はハーフエルフとして成長して、成人の時に人間とエルフ、どちらかを選ぶ時にエルフとして生きる事にしたため、長命となった。
もっともこれはアラスカの事を言っているのではなくて、この世界の習わし。 だからこの世界にハーフは存在しないんだって、昔アルナイル先生に教わったこと。
「ではプリンセス ララノア、貴女にお聞きします。 ドラウ進軍の話は本当ですか?」
「その事でしたら私より詳しい人がいます。 ルロス、お話ししてくれる?」
名前を呼ばれたルロスがドラウの進軍について話し始める。
いつそれが始まるかとかはルロスもわからないけれど、そう遠くないうちにドラウの神と称するアラクネーの命令で起こる事を説明していくのだけど、当然そこまで詳しいルロスを不思議に思う人も出てくる。
「なるほど、ドラウだからこそわかる情報というわけですね」
ズバッとアラスカがその回答を導き出すと、その場にいる大半が驚きの声を上げてルロスを見つめる。
アラスカが知っている事に不思議なはずはない。 だって……
「そろそろこちらも明かすべき時だろう」
合図をすると7つ星の騎士の1人がフードを退けると、やっぱりフィンだった。
「やっぱりフィンだったのね!」
声を出して喜ぶ私にフィンは申し訳なさそうに頭を下げてくる。
「お前今までどこに行ったかと思えば、姫様の護衛を投げ捨てて7つ星の騎士団になったのか!」
マクシミリアンが驚きと怒りの籠った声を上げた。
「いろいろとそちらの事はあると思うが、それは後にしていただきたい。 私は彼からその女性がドラウで、転生者である事は既に聞いている」
転生者。 その言葉でまたざわつきだす。 なぜなら私が生まれた頃にあった大戦の主犯が転生者だったから。
「ふーっ、いい加減この格好は疲れたよ」
7つ星の騎士のもう1人がそう言ってフードを退かすと、まだ幼い少年が顔を出す。
「やぁ! 懐かしい顔ぶれも見えるね。 僕はキャス。 【魔法の神エラウェラリエル】の代行者だよ」
驚きと懐かしがる声が上がって、すっかり蚊帳の外になっていく私。
「不安がらなくていいよ。 彼女は既に神々の……サハラの観視下に置かれているからね」
そこまでわかっていればもう隠す必要は無いだろうって、ルロスもローブを脱ぎ捨てると元のドラウの姿になる。
「可哀想にね。 僕は人として転生したからまだよかったけど、君はまさかドラウだもんね。 想像を絶する辛い日々だったと思うよ」
【魔法の神エラウェラリエル】の代行者キャスも転生者だった事をわざとらしく伝えながら言ったため、ルロスの事が大した事ではなくなったような状況になってしまう。
さすがだなぁ……
この世界には他にも転生して別に世界の記憶を持つ人が誕生する事をキャスは話して、その全てが邪悪とは限らない事を説明しいく。
「さてさて、これでルロス? が危険な転生者でもドラウでも無い説明になったよね?」
そう言って、はいどーぞって軽い感じでアラスカに続けるように振るのだけど、同じ代行者のアリエルとのギャップに驚いちゃう。
「それでだ。 こちらのキャス殿の話では、ドラウとの戦いには神々は力を貸す事はできないそうだ。 となれば見て見ぬ振りをするわけにいかず、我らも少数ながらしばらくこちらに滞在しようと思うのですが、いかがでしょう、プリンセス ララノア」
蚊帳の外のような状況だった私に突然振ってくる。
「ね、願っても無い申し出です。 ですが7つ星の騎士団はそれでいいのですか?」
「現評議会最高議長であるキース卿の判断です。 もっとも先の大戦でかなり7つ星の騎士団も痛手を被っているためたったの3名だけですが」
3人……アラスカとまだ素顔を見せていない2人なんだろうけど、フィンは含まれていないんだ。
「彼の事、ですか? フィンは7つ星の騎士団ではありません。 今回は特別に正規7つ星の騎士団の外套を着て貰っただけです」
私の考えを見透かしたようにアラスカが答えてくる。
「そうなんですか。 それでは宜しくお願いします! 出来たらヴィロームに滞在してもらえると助かります! ……あ」
勝手に滞在してもらいたい場所まで指定したため、慌てて口をふさぐ。
「ふふ、了解した。 最前線に我らを置いてくれるとは光栄な事です」
「あ、いえ、今のは間違いで……」
「いや、我らが来ていて遅れをとったなど許されない。 その配慮にはむしろ感謝する」
一騎当千とも謳われる7つ星の騎士団が3人、しかもそのうち1人は星剣7つ星の剣を所有する英雄セッターの娘が、ヴィロームに滞在する事が決まるとヴィローム領主が私に感謝を述べてくる。
「今回の避難所に続いて7つ星の騎士団の滞在までしていただけるとは、プリンセスには感謝してもしきれません」
「うううん、国と民を守るのは私の役割なんだから当然よ」
そのやり取りを聞いていたアラスカが微笑みながら私の事を見ている。
「えっと……?」
「いや何、次期女王も期待出来そうだと思っただけです。 それより気になる事が1つ、なぜメビウス連邦共和国にあの様な処遇をしたのか聞かせてもらえると嬉しいのですが?」
その質問にその場にいる全員が頷いてくる。 なので私が理由を話すことにした。
「今回のドラウの一件は、神が絡むと神同士の戦いになる為手出しはできないのだそうです。 そんな時にメビウス連邦共和国が攻め込んできたら、挟み撃ちにあってしまいます」
そこで気まずそうな顔をログェヘプレーベが見せて、
「その昔、ガウシアン王国がやった事の再来でやがりますね」
「なるほど、しかし約束したとはいえ裏切る可能性だって今のあの国ならあり得るし、人種同士の争いには神々は関与しない」
メビウス連邦共和国という大国が未だしっかりまとまっていない為、7つ星の騎士団が手伝い、目を見張っているからこそわかる事を言ってくる。
「大丈夫だ。 神々は誓いを受け入れた。
やってくれたなララ」
一体どこから、いつの間にかサハラが姿を見せていた。
「マスター!」
アラスカがサハラをマスターって呼んで、僅かに嬉しそうに頬を染めるのを見た私は、ちょっとだけ、そう、たぶん本当にちょっと、うううん、思い切り嫉妬する。
「一体どういう事だサハラ」
お父様がわけがわからんとでも言いたげに聞くと、私が誓わせた事で、もしメビウス連邦共和国がドラウ進軍最中にマルボロに攻めてきた場合、誓いに基づいて神々のルールである“人種同士の争いに関わらない”が適用されなくなるのだそう。
「つまり、もしドラウ進軍最中にメビウス連邦共和国が攻めてきたら、神々がこの国には近づかせない。 無視すれば神々を敵として相手をする事になったわけだ」
この場にいる誰もが私を見て驚きの表情を向けてくる。 だけどこれはサハラが私に神々のルールの話をしてくれたから思いついた方法だったのだけど、ここまで凄いことになるとは想像していなくて一番驚いているのは私だった。
これでこの章、戴冠式が終わって、次話から恋愛話になります。




