悲鳴、悲鳴、悲鳴、そして私は泣いた。
「……っ?」
身体を強張らせて、恐怖で目を瞑るけどいつまでたっても何も起こらない。
恐る恐る目を開けると、私とチェンマイのお互いの秘部のほんの僅かな隙間に矢が刺さってるのが見えて、その矢のおかげでチェンマイの動きが止まっていた。
「お……おいおい、なんだよこりゃあ……」
ひきつったような驚きの声をチェンマイが上げた瞬間、次の矢がチェンマイの脚に突き刺さって、その痛みで私から離れて悲鳴をあげながら転げ回り出した。 その悲鳴が合図だったかのように部屋の外からも騒がしい声が聞こえてくる……
でも私は今起こった事を理解するよりも、恐怖で全身の震えが止まらず、身を守るように自分を自分で抱きしめるしかできなかった。
バンッ!
扉が開いて数名の足音が聞こえたと思うと、1人が私を解放して優しく抱きしめてくる……
「もう大丈夫、大丈夫でありんすから。 気がつかなくておゆるしなんし。お姉ちゃん失格でありんすね」
「ブリーズ……お姉様……」
そこからはホッとしたのか私は意識が遠のいて、次に目が覚めた時はベッドに寝かされていた。
見回すと心配そうな顔をしたお父様、お母様、ブリーズお姉様、ルロス、その他大勢の人が私の事を見守っている。
「目が覚めたか!」
「ここは……! 私、私は……」
「ララ、大丈夫だ! ギリギリセーフだった!」
ボコォッ!
「うごぉぉぉぉおお! みなぎるぜぇぇぇぇ! じゃねぇ! こんな時に何するんだ!」
「……あなた、デリカシーなさ過ぎ」
お母様がお父様を殴ったようで、聞いたことのない低く強い声で怒った。
「す、済まなかった」
今のやり取りを見てなぜか落ち着いた私は、どういう状況だったのか把握したくなって身体を起こすんだけど、裸のままなのに気がついて慌てて横になって布団で隠す。
「え、えっと、事の成り行きが知りたいんだけど……」
なんで私は助かったのか、チェンマイたちがどうなったのかが気になって聞いてみるんだけど、なぜかみんなこぞって気まずそうに黙り出した。
「その……聞いたらマズいような事態になってるの?」
黙っているみんなの視線がルロスに集まっていて、私もルロスを見ると諦めた様子で咳払いを一度する。
「怒らずに聞いていただけますか?」
この中で一番状況を詳しく話せるらしいルロスが私に聞いてくる。
聞くと私が怒るようなことみたいだけど、どうしてもどうなったのか知りたかった。
ゴクッと生唾を飲み込んで覚悟を決める。
「怒らない、怒らないから話して」
それではとルロスが話し出し始める。
それは私が部屋でまだ寝ていた頃から始まって、いつまで経っても私が起きてこないから、ルロスが起こしに部屋に向かっていた時のこと。
私の部屋から魔力を感知したルロスは、私を起こすのをやめて術者が誰なのか探る為に、その魔力の行方をそっと辿りはじめたんだそう。
その魔力を辿っている途中でアルバロとジークフリートと出会って、その事を話すと2人も一緒について来ることになった。
魔力を辿って行った結果、魔法を使っていたのはキュモヲタだったそうで、秘術視っていう魔法を使って私の寝顔を覗き見ようとしたみたい……
うぬぬ……昨日誓わせたばかりだというのに……っは!
怒ったらダメ、怒らない怒らない。
それでルロスがキュモヲタの部屋に詰めかけて捕らえようとした時、突然、キュモヲタがあっと声を上げた。 そして私がメビウス連邦共和国の領主の子息たちに絡まれているってルロスたちに言ったらしいわ。
それって……着替えも見られてたって事よね……
最初は当然言い逃れをするための嘘だと信じなかったらしいんだけど、あまりにも慌てた表情で私が危ないって叫びだすものだから、状況を詳しく聞くことにしたらしいのだけど、その時、ちょうど私が引っ叩かれたところだった。
更に私が1人の領主の子息と部屋に入ってベッドに押し倒されたって話したところで、ジークフリートが急に走って何処かへ向かいだして、アルバロもすぐにお父様とお母様に報告しに、ルロスは私を救出しに部屋に急いで向かったらしいわ。
ジークフリートは私の部屋が覗ける場所を探して走ったみたいで、アルバロはダイニングルームにいるお父様とお母様に報告すると、その場にいた人全員が急いで向かいだした。 ルロスは部屋の前まで辿り着いたけど、領主の子息たちに邪魔をされて押し問答になっていたそう。
それでジークフリートがやっと私の部屋が覗ける場所を見つけて、ひいお祖母様から貰った弓を構えると、私がベッドの上でチェンマイによってまさに貞操の危機だったところに急いで矢を放った。 1射目は私の貞操を守る為に放ったそうで、2射目はチェンマイを引き離す為に脚を撃ち抜いたんだって。
部屋の中から悲鳴が聞こえたことでルロスも実力行使に移って、邪魔をする領主の子息たちと交戦覚悟で無理矢理部屋に入ろうとしたところで、お父様たちが辿り着いて私が救い出されたらしいわ。
「そうだったんだ……お父様、お母様、みんな、ありがとう」
それで肝心の領主の子息たちなんだけれど、今現在7つ星の騎士団に捕らえられているんだとか。
身分がどうであれ、一国の次期女王に対して行った行為は大罪に当たるそうで……私の意識が戻りしだい私が断罪しなくてはならないらしいわ。
それを受けて、メビウス連邦共和国の領主たちは緊急に話し合いをしているところなんだって。
メビウス連邦共和国内ではなく、大陸の全有力者にこんな痴態を晒してしまっては、現メビウス連邦共和国の代表の子息の行った行為から代表を続けさせるわけにはいかないとかそういう話らしいわ。
「落ち着いたら早めに来てくれ」
お父様がそう言って部屋を出て行くと、次々とそれに習うように出て行ったんだけど、アルバロとルロスだけが残って、3人だけになるとまずアルバロが口を開く。
「今回はさすがにキュモヲタを許したらダメです! 絶対死刑です! ギルティです!」
「なんで? 確かに覗き見した事は悪いことだけど、おかげで私は助かったんだよ?」
と、そこでジークフリートがキュモヲタを連れて戻ってきて、私の前に突き出してくる。
顔じゅう血まみれで意識を失っているキュモヲタを見て、まさかジークフリートがやったのって怒ってジークフリートを見ると、首を振って否定してきた。
「私たちが離れた後もこの男は覗き見を続けていたようでして……」
ルロスが言いにくそうに、でも侮蔑した顔でキュモヲタを睨みつけながら答えてくる。
「今現在は大量の鼻血を吹き出して気絶しているところです」
それってつまり……私がチェンマイにされている事全てを見ていたって事よね……
「ぃいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」
頭を抱えて悲鳴を上げた私の声でキュモヲタが目をさますと。
「な、なになに? ここはどこ? ぼ、僕は!」
私と目が合うと血まみれのキュモヲタが、顔をニマーっとデレさせながらまた鼻血を流し出す。
「ぃいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」
「貴様死刑だ!」
「ギルティーー!」
「死んで詫びなさい」
とまぁ、何度かこれを繰り返して少し落ち着いたところで、私が息を荒くしながら尋ねる。
「き、昨日誓ったばかりだよね? なんでキュモヲタは私との誓い守ってくれないの?」
「ぼ、僕はララノアたんのものを盗ったりはしない誓いは守ってるんだな」
呆れて物が言えないとはこの事で、私が無言になった事でジークフリートがスラッと剣を抜き放った。
「貴様……死んで詫びをしろ!」
問答無用の勢いで剣を振り上げるけど、アルバロもルロスも止めようとしない。 だから私が慌てて飛び起きて、ジークフリートの剣を持つ手を止めるしかなかった。
「ダメよ! ジークフリート。 例え覗きが悪い事であってもキュモヲタのおかげで私が助かった事に変わりはないわ!」
「止めないでくださいプリンセ……ス……」
ん? って私自身を見ると、慌てて止めに入ったせいで、裸だった事を忘れてた。
「もう、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!」
慌ててシーツを手繰り寄せて身体を覆うけれど、時すでに遅く、ジークフリートだけではなく、アルバロ、キュモヲタにまで見られた。 目をそらす事なくばっちり見られた。
「う……うう、うわぁぁぁぁん。 もうやだぁぁぁ」
嫁入り前なのにこんなに短時間で男の人に肌を晒しまくった私はさすがに泣いちゃったよ。
その後、アルバロとジークフリートから凄く謝られて、なんとか落ち着きを取り戻した私は3人ともこれで同罪という事で許したんだけどね……
ちなみにキュモヲタは生まれ持って魔法を使えるソーサラーなんだけど、その扱える魔法の大半が、姿を消したり、視界を飛ばしたりと言った変態的行為に便利なものばかりだった。




