食文化の違い
その日の夜のうちに【魔法の神エラウェラリエル】は神界に戻ってしまって、翌朝にはアリエルとブリーズお姉様が私が起きるより早くに旅立って行っちゃった。
置き手紙が残されていて、すぐに羊皮紙を開くとブリーズお姉様からのものだったわ。
ララちゃんへ
別れの挨拶もなく立ち去る身勝手なお姉ちゃんでゴメンなんし。
顔を合わせちゃうと別れがつらくなると思ってこな風に逃げ出すように出て行く事にしんした。
あと1つだけララちゃんに嘘をついてしまいんした。 来年、実はコンサートは開かない事になっていんす。 なんで次回ララちゃんに会えるのはララちゃんが15歳になりんした時、戴冠式の時には必ず戻りんす 。
公の場で次期女王を公表する時の立派な晴れ姿、楽しみにしていんすね。
ララちゃんのお姉ちゃん、ブリーズ=アルジャントリーより
涙目になりながらブリーズお姉様の置き手紙を読んでいると、いつの間にかサーラが来ていて私の頭を撫でてくれるの。
「アルにガッカリさせないようにしないといけませんね、ララ」
「うん、うん……」
サーラの胸を借りて少しだけ泣かせてもらって、スッキリしたところで赤帝竜がいない事に気がついてサーラに聞くと、
「もうとっくに朝食を取りにダイニングルームに行きましたよ」
呆れた顔で言ってきて、2人で顔を見合わせて笑っちゃったわ。
ダイニングルームに行くと私たちが最後で、お父様、お母様、赤帝竜にアルバロにジークフリート、そしてルロスが私たちが来るのを待っていたわ。
「遅い! 我の腹がもう少しで背中に張り付くところだったぞ!」
そういう赤帝竜は既につまみ食いをしているようで、口の周りに食べカスが付いていたのだけど、あえて突っ込むのはやめておいたわ。
昨晩は気がつかなかったのだけど、朝食を食べているとルロスが声を押し殺して泣きながら食べていて、お父様もお母様もそっとしておいているようだったわ。
でもこういう時に必ず空気を読まずに聞いちゃう人魚がいるのよね。
「ねぇルロス、父様が亡くなって悲しいのはわかるけど……」
「これは……違うのです!」
クローロテースの言うように父親が亡くなって悲しんでいるとばかり思っていた私たちは、当然それじゃあどういう理由で泣いているのか尋ねるわよね?
「ご飯が……とても美味しいのです」
一瞬の静寂が訪れたあと、失礼にもお父様が盛大に笑い声をあげたわ。
「そうか! ここのメシがそんなに美味いか! 泣いてまで美味いなんて聞いたら、料理を作ってる連中も大喜びするぞ!
それにしても地下世界じゃ一体どんな物を喰って育ったんだ?」
このお父様の疑問を聞いたのが失敗だったとすぐに気づかされる事になるの。
「巣では主に地下世界に生息する巨大な虫をちぎって食べて、巨大な芋虫をすり潰してスープにしたものを温かいうちに飲み、コケとキノコのサラダと訳のわからない生物だったものをぶった切った肉などで、大半は生きたまま生で食べます。
火などを使うと匂いが出てしまって、地下世界に住まう住人たちに居場所を教えてしまう事になるので使う事はありません」
ルロスの答えにその場にいた全員が凍りついたのは言うまでもないわ。 たった1人を除いてね。
食欲がなくなって食事の手が止まってしまい、お父様がみんなに謝っていたわ。
食事が終わるとジークフリートがそれではと頭を下げて出発する準備に入ろうとして、お父様の計らいで荷物と馬を一頭用意されるわ。
王宮の門の前まで見送りに一緒に行くと、ジークフリートが私の前まで来て片膝をついてくるの。
「次にお会いできるのはおそらくプリンセスの戴冠式の時になると思います。 それまでしばしの間お別れです」
「うん、ジークフリート頑張ってね」
ハイと返事をするのだけど立ち上がろうとしなくて、アレって思ったらサーラが耳打ちするように手を出すように言ってくるの。
すっかりそっちのマナーを忘れていた私は、なんだろうって手を差し出すとジークフリートが手に触れてきて、そっと口づけをしてきたわ。
「うひゃ!」
びっくりして声をあげちゃってジークフリートの方も驚いていたみたい。
「あ、ゴメンねジークフリート。 私実は手に口づけされたの初めてなんだ」
「そうでしたか!」
なんだか嬉しそうだったから良かったのかな?
こうしてジークフリートもお父様に任された任務を遂行しにヴェニデへ向かい、そしてヴィローム向かう事になると思うわ。
ジークフリートと入れ替わる形でフィンが馬に乗って姿を見せたのだけど、普段の武装とは違ってまるで冒険者みたいな格好をしていたの。
「フィンおはよう。 どうしたのその格好は?」
馬から降りると膝をついて思いつめた表情で私を見上げてきたわ。
「姫様、しばらくの間お暇をさせていただく事をお許しください」
どういうことか説明を求めると、自分の無力さに改めて痛感したフィンは、修行の旅に出るって言い出したの。
「宛でもあるのですか?」
サーラの問いかけにフィンは首を振って、冒険者にでも身を落として魔物を相手にしてみるようなことを口にするわ。
「冒険者の事をバカにしすぎているよ、フィンは。
成り立ての冒険者はね、お使いが良いところで、実績がなければ仲間にも入れてもらえない。 軍のように訓練とは違って勝つか負けるかではなくて、生き残るか死ぬかなんだよ!
魔物だって生きるために襲ってくるから必死なんだよ!」
冒険者だったアルバロが怒鳴るけど、フィンは私を見つめたままグッと歯を食いしばっているわ。
不意にサーラがフィンの腕を掴むと、私たちに見えないように羊皮紙を渡すの。
「もし、その気持ちが本気ならそこへ行け」
私たちに聞こえない声でサーラが何かフィンに言うと、その場を赤帝竜と一緒に離れていったわ。
フィンも立ち上がって私に頭を下げた後、馬に乗って行こうとするわ。
「フィン!」
「必ず……必ず、姫様のお役に立てるようになって帰ってきます……はぁっ!」
返事を返す間もなくフィンは馬を走らせて走り去って行っちゃった……
なんだかみんな私の元からいなくなっていっちゃう……




