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光ある国  作者: 深縁
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第37話






日は完全に落ち、闇に満ちた世界を月の光が淡く照らし、人の用意したランタンが道端の所々を照らしだすだけとなっている。

大半の人々は、明日のために早々に寝床に着いており、夢の中だ。

今はそんな時間帯。


しかし、すべての者が夢の中を彷徨っているわけではなく、やはり起きている者もいるわけで…――。



駒鳥亭の一室。

小さな明かりが部屋の中をぼんやりと照らす。

部屋の中には2つの影があった。


「で、どうされるおつもりですか?」

「どう…とは?」

「彼女のことです。この国の者ではないとは思っておりましたが、この世界の者ではないとはさすがに想像外というか」

「オレにとっては瑣末なことだ」

「…フェイ様にとってはそうでしょうが、これから王城にお連れするのに――」

「異なる世界の者だと言っても、誰も本気にはしないだろうな。―何か他に思惑があるかと勘ぐられる可能性は高い」

「―どうするおつもりですか?」


そう、部屋の中にはフェイとローの2人が居た。

由岐とリーの姿がないのは、もう寝床に入っているからだった。


いや、先に寝に行かせたというのが正しい。


今後の予定を話した後、食事をして身を清め、明日も早いといって寝ることを促したのだ。

由岐もいろいろあったせいか一気に疲れを思い出し、抵抗することなくベッドのある部屋へと移動していった。


―おやすみなさい―


フェイに眠そうな笑顔と言葉を残して。

笑顔を返して頷き、リーに共に行くように目配せをして部屋をさがらせた。

リーも文句を言うわけでもなく由岐についていった。

それも当然だった。

前回のようなこと―1人で寝かせていて拉致されたことがもう一度、起こらないようにとの保険だった。

と、いうことで今起きているのは2人だけだった。


ローの再度の問いかけにすぐに答えることもなく、フェイは口を閉ざしていた。


「フェイ様」


少し強く名前を呼ばれて視線をローに移す。

ローはジッとフェイの答えを待っていた。


「…異世界の者だということは隠すしかないだろう」

「はい」

「どうしたって外から連れ込む事実は変わらないのだから、勘ぐられるのも仕方あるまい」

「そこなのですが、1度俺たちの家に来ていただいて、それなりの肩書きを整えてから王城のほうへ上がってい―」

「嫌だ。待てない」

「…」


言葉を最後まで言う前に否定される。

なんと我侭なと、ローは呆れる。

ムスッとした表情は、現在の幼い外見に似合いすぎててきっとこの場にリーがいたら大騒ぎだったことだろう。


「それに、ある意味ちょうどいいかもしれないぞ」

「どういう事です?」

「第3継承権を持つオレが身分のない娘を妻にしたいと言えばどうなる?」

「そ、それは!」

「事態はさくさくと進みそうじゃないか」

「ユキを起爆剤にでもするおつもりですか!!」

「そうなるか?」

「フェイ様っ!?」

「うるさい。喚くな。ユキが起きてしまったらどうする」

「…」

「ユキはオレが守る。何か不安があるか?」

「…」


不安だらけですと、目は口ほどにものを伝えていた。

しかし、フェイは無言の抗議を鼻で笑う。


「そろそろこの茶番劇をどうにかしたい。オレにはやるべきことがあるしな」

「…」

「セイのやつをせっついて解除魔法を作らせなきゃならん」

「セフォイド様ですか…」

「ユキとの婚姻を認めさせるために、ぜったい邪魔するだろう兄上を迎撃する準備をせねばならん。姉上も」

「…やらなきゃいけないこといっぱいですね」


乾いた声で応えるローに真剣に頷きながら、フェイは今後のことを思う。

由岐とのバラ色の生活を送るためには物事を早めに進めるに越したことはない。

考えれば考えるほどに、フェイを急かす気持ちは溢れ出てくる。


「まぁ、だからと言ってユキの側にいることが最重要事項だ。…他の事は…適当に何とかするさ」

「そう…ですか」


あれこれと言ったにもかかわらず、最後には『適当に何とかする』。


ローは思う。

フェイならばきっと最後のこの言葉の通りにどうにかしてしまうのだろうと。

そしてその『適当に』で、自分とリーが馬車馬のごとく働かせられるのだろうと確信と共に笑いがこみ上げてくるのだった。

馬車馬のごとく働かせられると分かっているのにもかかわらず、それを嫌とは思わない自分が可笑しくて。


「どんだけフェイ様が好きなんだろうな、俺たち…」


ポツリと言葉を零す。


「?何か言ったか」

「いいえ…忙しくなりそうですね」

「ああ、お前等の働きに期待している」

「人の使い方が上手すぎですよ、フェイ様」

「何年一緒だと思ってるんだ」

「ははは」


夜は更けていく。

フェイたちのいる部屋ではまだ少し、話し声は途切れることはなかった。







読んでくださった方、ありがとうございます!

少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

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