第34話 かえってきたもの
フェイと由岐は、初めてであった岩場で座り込んで、色んな話をした。
由岐がフェイをまともに見ることはなかったが。
フェイの何度目かになる告白に、羞恥心メータが振り切れてしまったらしい。
始終、顔を俯かせたまま、由岐はフェイの話に相槌を打ち、自分のことや疑問に思ったことなどを質問したりした。
そんな由岐に、フェイはニコニコと笑みを崩さず疑問に答え、とても機嫌がよかった。
1時間以上は過ぎたころ、リーとローが木々の中から姿を見せる。
2人はとても疲れた顔をして、やって来る。
「帰ったか」
フェイの言葉に由岐も2人の帰還を知る。
2人のぼろぼろの姿に目を丸くする。
これといって破れているところなどは無いが、いたるところがくたびれていたり、汚れていた。
ついでに言えば髪の毛もかなり乱れている。
いや、グシャグシャといった方がよいのかもしれない。
「リーさん…ローさん…」
「――ただいま帰りました」
「遅くなり、申し訳ありません」
由岐の疑問だらけの視線に、そっと目線を落とすことで、お願いだから聞かないでくれと声無き声で伝えて、2人は膝をつく。
フェイは鷹揚に頷いて、由岐の方を振り向く。
フェイが振り向くとは思っていなかったので、咄嗟に視線を逃がすことも出来ず、2人の視線ががっちりと合う。
まだ恥ずかしさが残る由岐は、また顔を俯かせてフェイの視線からに逃げようとした。
が、フェイに顎を掴まれてしまい、視線を逃がすことに失敗する。
あっちへこっちへと動く目線を眺めて、フェイは優しく話しかける。
「そろそろ慣れろ。慣れないなら慣れるまでキスして、由岐の好きところを褒め称えてみようか」
話し方は優しくても、言動は全然優しくなかった。
「!わ、わわ分かった!頑張る!!」
「ユキはよい子だな」
「…」
もし小学校高学年にしか見えない姿で言われていたら、キレていたかもしれないが、フェイは今、由岐より年上の姿だ。
怒るよりも子ども扱いされたことにちょっと悲しくなった。
由岐の微妙な変化に気付いたフェイが口元にささやかな笑みを刻むが、何も言わなかった。
「ユキとの話は終わりましたか?」
「ああ。…いや、終わってはいないな」
「え?」
「…まだ会ってから少ししか経っていないんだぞ。お互いが満足できるほどの話をあれだけの時間で話し終えるなど、無理があるだろう」
「…」
「オレはユキをもっと知りたいし、オレのことももっと知ってもらいたい。どうだ、ユキ?」
「うん…私も…フェイのこともっと知りたい」
由岐の返答に目を細めて、もたれていた岩肌から離れて立ち上がる。
由岐の手を取り、由岐の身体も起こした。
チャリ…
フェイの胸元から金属の擦れる音が微かに聞こえる。
由岐の手を引っ張った体勢でぴたりと動きを止める。
音の正体を思い出してフェイは胸元を探った。
「ユキ」
「?…それ!」
「お前のものだろう?」
「うん!何処にっ」
「ユキが連れ去られてから、ユキの気配を辿る為に、この場所にもう一度訪れたときに見つけた」
フェイは、話しながら由岐の手のひらの上にのせる。
無意識に震える指でそっと手の上の物を触った。
チャリ…と、擦れる音。
固い感触と冷たさ。
由岐はその感触に瞳の奥が熱くなるのを感じた。
つうっと涙が一粒頬を滑り落ちる。
フェイから渡されたのはブレスレット。
由岐のものだ。
それは、ただのブレスレットではなく、母に16歳の誕生日に貰った特別なものだった。
色とりどりの――様々な種類の石が、1つだけ、他とは比べ物にならない大きさの石に寄り添うように配置されている。
石はただの道端に落ちているような石ではなく、全て、色も種類も違う宝石。
金額は教えてもらっていない。
でもそんなことは由岐にとってどうでもよいこと。
ただ――それは母が、母のお母さんから譲り受けたものであるということだけが大切なこと。
母――離亜は言った。
「次は…由岐が好きな人と結ばれて、子どもが出来て、その子が16歳になったときに渡してあげてね」
いきなりの出来事にすっかりその大切な存在を忘れてしまっていた罰当たりな由岐。
どうして忘れることが出来たのだあろうと自分を由岐は罵りたくなる。
自分の元にかえってきたブレスレットの重みに、確かに足りなかったものが戻ってきた喜びを今、ひしひしと実感していた。
手のひらの中に包んで、顔を寄せる。
その間、フェイも、リーも、ローも、口を挟まず由岐を見守っていた。
閉じた目元からポロリとまた涙が落ちる。
「フェイ…ありがとう」
目を開けて、由岐は感謝の意を述べる。
その時の顔をきっとフェイは忘れることは無いだろう。
ブレスレットを渡したときにきっと見せてくれるだろうと思った笑み以上の笑みが、その場に在ったのだから。
由岐は天使のような清らかな笑みを湛えていた。
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