7
桂と竹之内は小木曽励の自宅の前にやって来ていた。午後五時を過ぎた頃である。
自宅前には黒のソリオが停めてある。桂はふとあのペンションにも似たような車が停まっていたのを思い出す。それから、小木曽が自分の母親の車だと勘違いしたと話したのを思い出した。
桂はインターフォンを鳴らした。「はい」と、女性の声がした。
「警察ですけど……」と桂が一言いうと、すぐに玄関の扉から小木曽励の母親が出てきた。
「何の御用ですか?」と、彼女が訊いた。
「励くんはいらっしゃいますか?」
桂が母親に訊く。
「はい、おりますけど……」と彼女は言って、「励! ちょっと来て!」と大声で奥の部屋にいる彼を呼んだ。
「母さん、何?」と、奥の部屋から彼が言ってやって来た。
「警察の人たちがあなたに話があるんだって」
彼は二人の刑事に気付くと、ペコリと頭を下げた。
「それで、お話というのは?」と、小木曽少年が訊く。
桂たちは玄関に入る。竹之内が扉を閉めた。
「実はですね……」と、桂が口を開く。
「今回の殺人事件の犯人が分かりましてね。犯人は小木曽励くん……君だと言うことです」
桂がそう言うと、励の母親は驚いた。
「え? 何をおっしゃるんですか! うちの子が? そんなはずがあるわけないでしょ!」
彼の母親は激昂して言う。「第一、この子はまだ小学生なのよ!」と、彼女が続ける。
「ええ、ですが……」
桂が言おうとして、小木曽少年がすぐに口を開いた。
「犯人は……僕です……」
「え??」
息子の言葉に、母親は困惑する。
「そうなの? 励……嘘よね??」と、彼の母親は慌てて息子に訊く。
「お母さん、本当だよ……」と、小木曽少年は言った。
「うそ……」
彼の母親は落胆する。
「やっぱり君か」
竹之内が口を開く。
「どうして君はあの男を殺害しようと思ったんだ?」と、竹之内は訊く。
「それは……あのペンションから出るためです」と、小木曽少年は答えた。
「なるほど」
「はい。僕は誘拐したあの男を殺せば、あそこから出られると考えました」
「因みに、君はあの男を知っていたのかな?」
今度、桂がそう訊いた。
「はい……」と、小木曽少年は頷く。「あの男は父さんを殺したんだ。いや、あの男は……僕たち家族をハチャメチャにしたんだよ!!」
小木曽少年が喚くように言った。
彼の言葉に、母親も目の色を変える。
「そうともいえますね」と、桂はぽつりと言う。「しかし、あの男――芹沢――からしてみても、人生を変えられてしまったんですよ。君のお父さんの事故で……」
「父さんは生まれつき『色盲』だったんだ! だから、信号の色が分からなくて故意に信号無視しちゃったんだ。父さんは悪くない。全部色盲のせいだ!!」
小木曽少年は訴えるように言う。
「ははあ……」
桂は五年前の新聞記事を読んだ時のことを思い出す。確かに記事には小木曽匠が事故を起こした理由として、彼が「色盲」であったことが書かれていた。
「しかし、どうであれ、君のお父さんが事故を起こしたことには変わりない」と、桂は話す。
「偶然だと思いました」と、小木曽少年は言う。「まさか、僕を襲った男が僕が憎いと思っていた男だったから……」
「いや、違う。その男はわざと君を狙ったんだ! 君の父親に恨みがあったからだろう。息子を殺害された気持ちは芹沢の胸にずっとあったんだ。本当は君の父親を殺害したかったんだろうけど、もう死んでいた。悔しかったんだと思う。むしゃくしゃしていたのかもしれないね。そこで、芹沢は君の家族について調べた。すると、君の父親に子どもがいることを知った。すぐに芹沢は誘拐を思いついた……」
そこで、桂が一度口を閉じる。
「…………」
小木曽少年は黙っている。
少しして、桂は再び口を開く。
「誘拐犯が君たちみたいな子どもを誘拐した理由は、おそらく『子供が欲しい』という思いがあったからだろう。芹沢は五年前の交通事故で自身の子どもを亡くした。その上、彼は奥さんとも離婚し、独り身だった。だから、それが寂しかったんだろう。だんだん子どもが欲しいと思うようになった」
「だから、アイツは僕たちのような子どもを誘拐したのか……」と、小木曽少年が納得して言う。
「そう。最初は一人のつもりだった。だが、もう一人、さらにもう一人と誘拐を企てた。君は五番目に誘拐されたんだったね?」
「はい」
「おそらくだけど、芹沢は君を誘拐してようやく満足した。しかしながら、あのペンションの二階の部屋は六部屋あった。それならと、芹沢はもう一人誘拐することにしたんだろう」
「そして、六人の誘拐に成功した!」と、竹之内が口を挟む。
「そう。その後、芹沢は本気で君たちを殺害しようと思っていたのかもしれない……」
桂はそう言って黙った。
「僕がやったことは、正当防衛というところでしょうか?」
しばらくして、小木曽少年がそう言った。
「よく知ってるね。まあ、そうとも言える」
そう言って、桂はにこりと笑う。
「それじゃあ、僕は逮捕されないですよね?」
小木曽少年がそう訊いた。
桂は彼を見る。
「悪いけど、君は人を殺してしまった。それは分かってるね?」
桂がそう言うと、小木曽少年は頷いた。
桂は続ける。
「たとえ未成年であっても、そうじゃなくても殺人はダメなことだ!」
今度、桂は母親を見て言う。
「お母様には申し訳ないですが、励くんを逮捕します」
「そんな……」
彼の母は困惑した顔で言う。
「一旦、取り調べなどをした上で、検察官や裁判所に対応をしてもらいます。それから、少年鑑別所へ行ってもらいますけど、最悪な場合、「少年院」へ行ってもらうこともあります。都度、ご連絡は差し上げます」と、桂は話す。
「はい、分かりました……」
彼の母親は静かに頷いた。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
いかがでしたでしょうか?
今回のミステリーのテーマは、「誘拐」です。誘拐ミステリーもよくある作品だと思います。
誘拐と言ったら、子どもが多い印象があります。今回は、児童誘拐をテーマに書きました。
そして、もし子どもたちが次々に誘拐されたら……。
実際にあったら、とても恐ろしいだろうというのが、作者も正直に思います。
もし、あなたが誰か見知らぬ人間に誘拐されたら、どうするでしょう?
やはり脱出したいと思うはずです。
警察は捜査をするとは思いますが、中々来ない……。そうなったら、自力で脱出するしか方法がないかもしれません。もしそんな状況に立ったら、誘拐犯に見つからずに、皆さんはどのように脱出するでしょうか?
二階から飛び降りる? 誰か助けを呼ぶ?
それもあるかもしれませんね。しかし最終的には、誘拐犯を殺害するしか助かる道はないのかもしれません。そんなことをしなくても、他にいい方法があるのかもしれません。
気が付けば、誘拐犯は殺されてしまいます。展開は一気に「クローズドサークルミステリー」へと変貌するわけです。(これがやりたかったわけです)
一体、誰が誘拐犯を殺したか? 皆さんの推理が始まる訳です。
遅れて、いよいよ二人の刑事たちが出てくる。そこで事件の全容が露わになる。
話は代わりますが、今作のタイトルを見て(聞いて)、見覚え(聞き覚え)がある方がいらっしゃったかもしれません。そうです。朝倉秋成先生のあの作品です(笑)
ですが、ここだけの話、狙ったつもりはありません。どちらかというと、以前読んだ冲方丁先生の『十二人の死にたい子どもたち』という作品タイトルに影響を受けているんですよ。あのミステリーも素晴らしいです。
改めてここまでお読み頂き、ありがとうございます。
感想やいいね、誤字脱字報告等して頂けると嬉しいですし、励みにもなります。




