10
リビングの時計は午後九時五分を指していた。
俺はシャワーを浴びた後、キッチンの冷蔵庫から缶ビールを取り出すと、すぐにリビングへ入った。忘れずにその部屋の鍵を閉め、鍵をズボンのポケットへ入れた。
ソファに座り、ビールを飲み始めた。
ぷはーと息を吐く。ビールは冷えていてうまかった。
家の中は静かだった。二階には子どもたちがいるのだが、もう皆、寝ているのだろう。
ビールを飲んで俺は安堵する。ようやく六人全員をここへ連れてこられたからである。
六人の子どもを誘拐した。俺はもう満足している。もうこれで十分だ。
いや、本当に十分だろうか……。せっかくここまで来たら、六人全員始末するべきではないか。この手で……。
凶器はキッチンにある。それを持って来ようと俺はソファを立ち上がる。鍵を開けようとズボンのポケットをまさぐっていると、ふと、俺は扉の下に一枚の紙きれがあるのを発見した。何だろうと思い、拾ってみる。見ると、ノートの切れ端のようであった。
俺はその紙に何かが書いてあるのに気が付いた。
『具合が悪いから、五番目の部屋に来てください』
そう書かれていた。どうやらこれは五番目の部屋にいる子どもからの手紙のようであった。
一体どうしたのだろうと、すぐに俺は鍵を開けてその部屋を出る。それから、階段を上がり、五番目の部屋の扉の前まで行く。扉をノックする。
「おい、手紙見たけど、大丈夫か?」
俺は部屋の中の子どもにそう言った。しかし、中から反応が全くなかった。再び声を掛ける。
「おい!! 大丈夫か? 入るぞ!!」
そう言って、俺はすかさずその部屋の扉を開ける。それから、その部屋を見回した。けれど、そこに子供の姿はなかった!
「くそっ! 誰もいねえじゃねえか!」
俺は腹が立った。
それから俺は気付く。あの手紙はフェイクということだったのか!
この部屋に本来いるはずの子どもは、一体どこへ消えたというのだろうか?
「まさか……」
すぐに俺はあることに気付く。手紙を発見した後、俺はリビングの鍵を閉めずにのこのこ二階へと上がってきてしまった!
もしや、その子は初めから一階にいたのではないか! そして、その子は俺が部屋を出た後すぐにリビングに侵入したのではないか!!
俺は急いで下へ降り、リビングに戻る。その部屋に子どもがいるかどうか探した。しかし、リビングに誰もいなかった……。それが分かると、俺は一度ホッとする。
しかしながら、あの手紙は一体なんだったのだろう。しばらく俺は考える。けれど、全く何も思いつかなかった。俺は考えるのを諦めて、凶器のあるキッチンへ向かう。今度はちゃんとリビングの鍵を閉めた。
キッチンへ行こうとして廊下を歩くと、トイレの明かりが点いていることに気が付いた。子どもがトイレに来ているだけだろうと俺は思った。その後――
〈オエエー……オエエー……〉
トイレ内で子どもが嗚咽しているのが聞こえた。それに、俺はビックリした。
俺は先ほどの手紙を思い出す。具合が悪い五番目の部屋の子。そこにいるのは、その子ではないか? 心配になって俺はトイレの方へ行く。
「おい! 大丈夫か?」
トイレの前で俺は声を掛ける。「具合悪いのか?」
「は、はい……」
少年の声が言った。再び彼は吐くような声を出す。しばらくそれが続いた。
俺は心配だったが、ここには薬も無ければ、誘拐犯である以上病院へ連れ出すこともできなかった。
「……水でも飲むか?」
扉越しに俺は少年に訊いた。
「……お願いします」と、彼は言った。
俺はすぐにキッチンへ行き、テーブルの紙コップを一つ取り、水道水を注ぐ。そして、すぐにトイレの前へと戻った。
「おい、持ってきたぞ!」
俺は扉越しに言った。
「……ありがとうございます」
少年はお礼を言い、扉を開けた。俺は少年に水を差し出す。それから、彼はその水を一気に飲んだ。
「ぷはー」と、彼は息を吐く。
「どうだ? 少しは楽になったか?」
俺がそう訊くと、「……はい。少しは……楽になりました」と、彼はホッとした顔で言った。俺は胸を撫で下ろす。
「今日は早く寝ろよ!」
そう言って、俺はキッチンへ向かう。
その途端、俺は背後から何か刺されたような感じがした。その後、俺は……。




