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ボードゥアン4世を救え!  作者: 登録情報がありません
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#6<アンジュー帝国>

第一次十字軍遠征によって、エルサレムは十字軍のモノとなった。

ボードゥアン4世(1161-)はそのエルサレムの国王だ。


9歳にしてその才能は既に現れており、家庭教師を驚かせている。

13歳で王位に就き、14歳でサラディンを屈服させる軍略を見せている。

16歳の時「病気持ちの王」(ミシェル・ル・シリアン年代記)の記述がある。

すでにこの頃からレプラ(らい病)に冒されていたものと思われる。


エルサレム国王ボードゥアン4世はアンジュー帝国(1154~1337)の血筋である。

アンジュー帝国とは、イングランド全土からフランス西部に渡る領土をいう。


アンジューとは、フランス王の臣下である大貴族であり、大領主の名前だ。

この時代、国家よりも強力な個人がいたのである。


話は50余年前にさかのぼる。

1120年アンジュー伯のフルク5世は十字軍に参加し、エルサレムに至った。

フランスには息子のジョフロワ5世が、居残って良政を敷いた。


1127年第一次十字軍遠征が終了。

帰国しようとしたフルク5世は、エルサレム国王に引き留められた。

この時の国王がボードゥアン2世だった。


国王ボードゥアン2世には世継ぎがおらず、彼を娘と結婚させようと考えていた。

だがこの結婚が養子縁組であることにフルク5世は難色を示す。

結局共同統治する事で話はまとまった。

このように紆余曲折があったが、2人は結婚した。


この2人に息子が出来た。

ボードゥアン3世とアモーリー1世である。

アモーリー1世の息子が、次代の王ボードゥアン4世であった。

つまり、エルサレム国王はアンジュー家の分家なのだ。


フランスには息子のジョフロワ5世が残り、領土を統治している。

このジョフロワ5世の長男がアンジュー伯アンリだ。


彼こそイングランド王ヘンリー2世となる人物だった。


時は30数年ほど遡る。

イングランド王ヘンリー1世はスコットランド王の娘と結婚した。

その2人の間に生まれたのがマティルダ王女だ。


12歳で神聖ローマ皇帝と結婚し、神聖ローマ皇后となる。

その後夫が死ぬとイングランドに返された。


今度はフランスに送られ、アンジュー伯ジョフロワ5世と結婚する。

その2人の間に生まれたのがアンジュー伯アンリだ。

後のイングランド王ヘンリー2世である。


このヘンリー2世の3男が獅子王リチャード1世である。

つまりイングランド国王リチャード1世はアンジュー家そのものだ。


エルサレム分家にヨーロッパ本家が派遣したのが十字軍だった。

エルサレム王はイングランド王と親戚であった。

エルサレム王はフランス大貴族とも親戚であった。


複雑怪奇な血縁関係でヨーロッパとエルサレムは繋がっていた。

こういう縁起で中東の小国に過ぎない王国には強大な発言力があった。


エルサレム王国「助けてくれ!」

欧州「よし、わかった!」


エルサレム王が欧州に一声掛ければいい。

欧州から大軍団がやって来るのだった。

・

・

・

だがエルサレム王国は強かった。

中東の覇王サラディンを手玉にとっていたからだ。


ボードゥアン4世は戦(いくさ)の天才だった。

エジプトの支配者サラディンと幾度も死闘を繰り広げた。


サラディンがエルサレム攻撃の為にモンジザールに至った時だった。

僅か300名のエルサレム軍が、26000名のイスラム軍を打ち破ったのだ。


多勢に無勢、26000vs300である。

敵の数を侮っていたエジプト軍は略奪に耽っていた。


そこにエルサレム軍が、少数で突っ込んできたからたまらない。


当時の正規軍兵士のほとんどが奴隷兵であった。

奴隷兵士は機械のように動く。

申し分のない戦闘マシンである。


だが軍隊の構成は正規軍だけではない。

遊牧民の騎兵や雑多の民兵が含まれている。

彼らの目的は進軍ではなく略奪だ。


軍隊の命令遂行には一貫性と意思統一が必要だ。

だがここにはそれがない、いや希薄だった。


少数の敵軍が突撃してきたのさえ全軍の反撃にならなかった。

反撃も何も、状況把握が出来ていない。


エジプト兵「略奪品の奪い合いだ!」

エジプト兵「白人奴隷兵(マムルーク)の反乱だ!」

エジプト兵「黒人奴隷兵(アブド)かもしれん!」


統率する隊長も、指揮する軍団長も、突然の乱戦に烏合の衆と化していた。

だが突然、事態は急転直下で判明した。


醜い傷と爛(ただ)れを覆う包帯。

面覆いの王、ボードゥアン4世がイスラム軍を圧倒しているのだ。

その鬼神の如き殺戮が、イスラム兵をパニックに陥れた。


雪崩を打って総崩れとなるサラディン軍。

26000人が起こす土煙で一寸先も見えなくなった。

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