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魔女の従者と永劫の契約と  作者: 華月瑞季
一章 金色の魔女と従者の契約と
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8話 『桜の形の宝石と』

 港を目指す途中、驚くべき光景を目にすることになる。今まで買い物や食事をしていた場所は巨大な崖に面していたのだ。

 ほぼ垂直に面した崖が、数十キロメートル先まで連なっている。その壮大な光景にトリシャは心を奪われるのであった。

 崖の下に臨む開けた場所が、海か川なのかトリシャには判別がつかない。だけれども、そんな些細な疑問が吹き飛ぶほど、眼下に広がる広大な水面は絶景なのであった。

 上空を見上げれば、街へ降り立った時に見た飛行艇が何隻も街に出入りしているのが確認できる。

 反対に、崖の上から港を見下ろすと、大小様々な大きさの船が水辺に漂っていた。そんな船の半数は港に着け、街が賑わっているのが遠目からでも察することが出来るのだ。


「うわー、すごい」


 またもや目の前に広がる絶景に見とれたトリシャは、崖の先端に付いている柵から身を乗り出す。

そんなトリシャは、真下が崖だという事を忘れ、上下に顔を動かしながら街の風景を目に焼き付けるのだ。


「よそ見をしすぎるとコケるぞ」


 無邪気にはしゃぐトリシャとそれを窘めるルミエーラは、まるで親子や姉妹のようにも見える。

 トリシャはルミエーラの言葉を気にも留めず、目の前の光景にのめり込んでいく。そんなトリシャを見守る様にアリアは側に寄り添って歩く。

 崖沿いに伸びる階段を、時折路地を挟みながら下っていく。路地に入ると住宅地が多いのか、洗濯物を干している家も数多く見受けられた。

 建物は2階や3階建てが多く、白い壁には影が差していた。それと相反するように、頭上に臨む朱色の屋根は、太陽の日差しにより鮮やかに色づいている。


 港に到着すると、午前中同様に食材と備品の買い出しを続ける。

 鮮やかな赤い鱗をした魚や青や緑の鱗をした魚を躊躇なく購入している時は、さすがに毒を所有した魚じゃないかと目を疑った。

 ルミエーラは誰とでも気兼ねなく接することができる性格の様で、店主のおじさんと仲良く談笑し、おまけに魚1匹を余分に獲得していた。

 その様子をみると、彼女が意外にも常識や対話力が高いのだと、徐々に認識を改めていく。

 こうして傍から見ている分には、人目を惹く様な美女にしか見えないと、胸の内でそう感じるトリシャであった。


「さてと、後は知り合いの店にちょっと寄ってから帰るかな」


 どうやら、食材や必要な日常品の買い物は終えたみたいだ。

 ルミエーラは次の目的地を口にすると、港を離れ来た方向とは反対に位置する路地へと入っていく。

 入り組んだ道を左右上下に突き進むと、川のほとりに佇む美しい街並みが目の前に現れた。


 アルザスの木造軸組構法のようにフレーム上に組まれた木材と光を照り返すほどに白い壁が美しく、童話の世界に迷い込んでしまったような気分にさせる。

 川の水も澄んでいて、生活水が流された形跡も見受けられない。川幅はそれなりにあり、小型の船なら離合できそうにも見える。

 そして、川に架かった橋を渡りしばらく進むと、ルミエーラが知り合いの店だという場所へとたどり着いたのだ。


「よう、待たせたな。」


 ルミエーラは扉をいきなり開けると殴りこむような形で建物に入る。扉は開くと同時に大きな音を上げ、彼女は開口一番、それに負けない音量で声を出すのだった。

 後ろにいたトリシャは、恐る恐る中を覗く。すると、扉の内側にいる人たちは目を丸くして驚きを隠せない様子だ。

 それも当然の反応だろう。常識的に考えて、この様な訪れ方をする人は彼女しかいないのだから。


「ルミエ、あなたはいつも急にやってきて、もう少し落ち着いて入ることはできないの?」


 そうやって怒るのはごもっともだ。ルミエーラの場合、もう少し強めに言わないと行動を改めることは無いのだろう。

 三つ編みにしたお下げをした女性は、その束ねた髪の毛を左右に振りながら駆け寄ってくる。それを見る限り、毎度の出来事にご立腹の様子だ。

 このやり取りを毎回しているのだと思うと、彼女の苦労は測りかねる。


「いやー悪い、悪い。それより飛行艇の整備と補給を頼むよ」


 そんな彼女に悪びれる様子はなさそうだ。形式的な謝罪の言葉は本来の意味をなしていないのだから。


「はー。もういいから、必要な物出して」


 半ば呆れ果てている三つ編みの女性は、柿の様な色味をした髪の毛を片手で抑えながら気持ちを切り替える。

 人の話を聞かない人の相手を、いつもしてきたのだろう。何度も譲歩してきた光景を想像すると、彼女の事を気の毒に思う。


「すぐ終わると思うから、その間店番しててよね」


 三つ編みの女性はルミエーラから物を受け取ると奥の部屋へと消えていった。


「そこで突っ立ってないで中に入ったらどうだ?」


 目まぐるしく移り変わる状況に置いてけぼりのトリシャは、店の中に入る事もせずに、アリアと一緒に入り口で立ち止まっていた。

 ルミエーラに促されて中へ入ると、店内を見回してみる。木目が際立つ床の上には、雑貨店のように様々な物が店中に混在していた。

 青や黄色など様々な色に明かりを放つ照明道具に、宝石を散りばめたアクセサリーや鞄などの服飾品、壁の上に掛けられている時計まで、幅広い道具が店内を覆いつくすように置かれていた。


「何か部屋に必要なものがないか見てみるといい」


 ルミエーラは先ほどまで三つ編みの女性が座っていた椅子に腰かける。他のお客さんも彼女がやってきてから動きが止まっていたが、次第に各々の時間に戻っていく。


 店に入った時から店内の品々が気になっていたトリシャは、アリアと一緒に店内の物色を始める。

 まず初めに、壁に掛かった時計や、縦長く先端の鋭利な水晶を扱った照明器具を見て回る。時計と間接照明は必要だと考え、部屋に合いそうな物を探し選んでいく。

 そうやって店内を一周する間に、部屋に置くインテリアを探していくのであった。


 一通り店内を見て回った後、宝飾品が置いてある場所に辿り着く。

 赤、青、緑と、様々な色に光り輝く宝石に瞳を奪われる。その空間には、腕輪や指輪、イヤリングまで豊富な種類が置いてあったのだ。

 その中で一際トリシャが惹かれるのは、ペンダントトップに大きめの水晶をぶら下げたものだった。

 水色から紫色にグラデーションした水晶の中には、桜の形をした宝石が入っている。

 どういう仕組みで水晶の中に宝石が入っているか分からなかったが、馴染み深い桜の様なデザインをしたペンダントに一目ぼれしてしまっていた。


「ルミエーラ、このペンダント買ってもいい?」


 お店のカウンターに身を乗り出してルミエーラに許可を求める姿は、まるで玩具をおねだりする子供のようだった。

 ルミエーラはこれを断るはずもなく、二つ返事で購入を許可する。


「急に可愛くなったな。そんな風に頼むんだったら、何でも買ってしてやるぞ」


 そう言うルミエーラにトリシャは内心、これは使えそうだと感じた。

 今の仕草は偶然の副産物になるのだが、現在の姿沿う様な可愛らしい仕草をすれば、ルミエーラを篭絡することも可能ではないかと考えるのだ。

 かといって、必要以上に媚びを売ろうとは考えない。必要な時にだけ使ってみようと心の内で考えるのであった。


 そんな風に店内を物色していると、先ほど奥の部屋に消えていった三つ編みの女性が帰ってきた。


「お待たせ。これが預かっていた物ね」


「おー早かったな。助かるよ。ババアはまだ元気か?」


 ルミエーラは預けていた物を受け取ると腰に下げている鞄へとしまう。彼女の持っている鞄も、アリアと同じ魔法の鞄なのだろう。


「お生憎様、お祖母ちゃんはまだまだ元気よ。最近は花と曾孫を愛でているわ」


「前来た時と変わらないな。よろしく言っといてよ。後これらの会計も頼む」


 二人は雑談を交えながらやり取りをする。ルミエーラはトリシャが選んだ商品を含め会計を済ませると、来た時と同じように颯爽とお店を後にするのだ。


「あ、ちょっと待って。そのペンダント買ったのね。うちの新商品で魔力を込めると灯りになるから、暗い場所を通るときに便利よ」


 店を出る瞬間、三つ編みの女性に呼び止められると、トリシャが気に入ったペンダントの機能について説明を受ける。

 ペンダントの機能も魔力の込め方も分からなかったので、少しだけレクチャーを受ける事にした。

 魔力の概念や魔力の込め方はわからなかったが、宝石に自体が魔力の影響を受けやすいらしいので、思ったよりも簡単に灯りをともすことができた。

 魔法ではなく、灯りを付けるぐらいなら誰でも簡単にできるのだという。


 魔力が上手く込められると、中央の桜の形をした宝石が輝き始める。すると、周りの水晶に広がりを見ゼ、ペンダントトップ全体が光を発する。

 より一層美しく輝く宝石を見て、買って貰って良かったと、心の底からそう思えた。

 この世界で初めての宝物を手に入れて、トリシャの心は舞い踊るのだ。


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