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魔女の従者と永劫の契約と  作者: 華月瑞季
二章 白銀の幼女と母親の愛情と
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45話 『日傘とサイドテールの少女と』

 一度気になりだすと、今まで気にもとめなかった事まで意識し始めてしまうものだ。味方を押し倒した事自体は、スポーツをしていたら起こり得る事かもしれない。

 しかし、少女の乳房に触れたとなっては、意識せずにはいられなくなってしまう。


 球技においてボールとは何よりも注視しなければならない中心的存在といえよう。アイリスがボールに触れる時は、必ず彼女が視界へと入ってくる。

 それは、必ず彼女の身体が目に入る事を意味し、今まで気にならなかった彼女の体――揺れる胸部に集中力を乱されてしまうのであった。


 そんなトリシャが良い動きを見せるはずもなく、第2試合はクレアリス、クラリスチームの勝利に終わる。


「負けてしまいましたね」


「ああ、うん」


 負けてしまった悔しさを感じないほどに、体の熱に犯されてしまっていた。アイリスの顔をまともに見られないトリシャは、素っ気ない返事をしてしまうのである。


「被写体はトリシャに決定だな」


 ルミエーラの様に腕を組んでいるクレアリスは、文字通り勝ち誇っている。


「いや、まだ1対1で引き分けだから罰ゲームは無しだからね」


 試合前に決めたペナルティを無かった事にしようとするトリシャは、屁理屈を並べてそれを回避しようとする。、


「では、もう1回戦だ」


「今度は3人ずつでしようよ。アリア連れてくるからノエルって子でも出しといて」


 そう言うと、トリシャはアリアの元へと向かう。まだ熱の冷めない状態で試合をしても、彼女たちに勝てるとは思わない。

 そこで、3人対3人に持ち込む事で、勝率を少しでも上げようと考えたのだ。その為には、アリアが参加する事が前提条件になるのだが――


「アリア、はぁはぁ」


 走って来たせいで息が上がってしまう。砂浜という土地柄、走る時に余分な力を使ってしまったみたいだ。

 話す前に息を整える必要がある。


「どうされました?」


「はぁはぁ。いま、クレアリスと勝負してるんだけど、助っ人としてチームに入ってくれない?」


 トリシャは息を整えながら状況を話す。彼女が加わってくれなければ、余計な体力を使ったトリシャに勝ち目は薄い。


「ですが・・・・・・」


 当然ながらアリアは難色を示す。今まで散々誘ったが断られているのだ。すんなり事が運ぶわけがないのである。


「行ってきたらどうだ」


 この件に今まで無言を貫いていたルミエーラが始めて口を開いた。何処で手に入れたか分からないサングラスをかけ、デッキチェアで寛いでいた。


「良いのですか?」


「後はレジーナの帰りを待つだけだからな。遊んできたらいい」


「ほら、ルミエーラの許可も出たし行こ」


 主自らの許可が出たのだ、アリアにトリシャの誘いを断る事は出来るはずが無い。トリシャは踏ん切りのつかない彼女の手を引いて、皆のいる場所まで戻るのであった。



 アリアが加わったお陰で、3試合目はトリシャチームが無事に勝利を収めることが出来たのだった。

 クレアリスは散々悔しがった後、充電が切れたのか自身の従者をしまうと、その場に大人しく座り込んでしまう。


「私はクレア様を運んで来ますね」


 アイリスはそう言うと、クレアリスを背中に乗せる。はしゃぎ疲れて大人しくなったクレアリスは、まるで子供の様に見えてしまう。


「私が運んだ方が良いのでは?」


「クレア様との親密度を考えれば私の方が適任よ。アリアはトリシャの傍に居てあげて」


 クレアリスを抱えたアイリスは、ルミエーラのいるテントの方へ向かう。

 彼女の言葉を聞いて、以前クレアリスが白猫はダメだと言っていた事を思い出す。白猫というのは十中八九アリアの事だ。

 強く拒否感を示す相手に運ばれるよりも、多少なりとも気を許しているアイリスに任せる方が確かに適任の様に感じる。


「どうしましょうか?」


「1回砂の城を作って見たかったんだよね。クレアリスの家みたいな立派な城は作れないと思うけど、手伝ってもらえないかな?」


「かしこまりました」


 トリシャの頼みを快く引き受けるアリアは、何処と無く嬉しそうに見える。

 波打ち際から少し離れた場所に移動すると、地面にしゃがむと同時に砂をかき集め始めるのであった。


 トリシャとアリアが砂浜で城を作り始めた頃。クレアリスを背負って来たアイリスは、テントの中にある空間へ彼女を下ろすのだった。

 ただ疲れて眠気に襲われているだけなので、暫くの間仮眠を取れば大丈夫だろう。


 アイリスは、瞳を閉じかけたクレアリスに水分補給をさせてから、主の元へと向かう。


「アイリスも遊んでて良いんだぞ」


「いえ、私は十分楽しみましたので、アリアの代わりに仕えさせていただきますね」


「なら、レジーナが帰ってきたら片づけを頼むよ」


「かしこまりました」


 終始笑顔を浮かべて返答をするアイリスは、正しい姿勢で腰の辺りで手を組んでいる。主との会話が途切れると、その視線は砂浜にしゃがみ込んでいる2人の少女に向けられているのであった。



「みぃつけた」


 突然、後方から少女の声がする。振り返ると、そこには厚手の服装を身に纏う少女が2人いた。

 ピンク色を基調とした服を着た少女は大きな赤いリボンを付けた日傘を携えていた。服にも日傘同様に赤いリボンが付けられており、真っ赤な靴と同様、白とピンクで纏められた色合いに花を添えていた。

 胸元まで伸びる黄色味がかった薄茶色の髪の毛は、途中から外側に向かって広がっており、毛先の方でもう一度内側に来弧を描いていた。


 もう1人の少女は、少しだけ赤味のある金髪をサイドテールに纏め、水色とピンク色の2色のリボンで結んでいた。

 服装も白と水色で纏められた服に、ピンクのリボンが所々にあしらわれており、髪留めの色合いに似た服装を着ている。


 どちらの少女も裾の広がったレースとリボンが多くあしらわれた服装をしている。その恰好は、トリシャたちが普段着ている服よりも、洋人形やロリータファッションに近い服装をしていた。

 何よりも、夏の砂浜で見かけぬであろう服装は異彩を放っていると言っても良いくらい不釣り合いに見える。


 そんな少女の1人は、日傘の陰から覗く赤味の強いオレンジの眼で、ルミエーラとアイリスの事を静かに凝視しているのだった。


「貴方、金色ね。私が一番に遭遇しちゃった」


「私もいるんだけど」


 嬉しそうに話す日傘を持った少女に、サイドテールの少女は不満げな口調で呟く。


「私に何か用か?」


「そうね。自己紹介がまだだったわね。漆黒の使者と言えばわかるかしら?」


 少女は不敵な笑みを浮かべながら問いかける。その言葉を聞き、ルミエーラとアイリスの表情は険しくなった。


「ほう、私の事を知った上で姿を現したのか?」


「そうよ。金色さん」


「貴方も遊びに来たんでしょう? だったら、私たちと遊んで頂戴」


「主抜きで良い度胸だ。ここで葬ってやる」


 ルミエーラは立ち上がると、側に置いてあった荷物を手に取る。それを手に取るや否や、鍔の広い三角帽と、紫黒に染まる羽織を身に纏う。

 一瞬で魔女装束に着替えた彼女は、目の前の可愛らしい恰好をした少女2人を鋭い目つきで睨みつける。


「あら、怖い、怖い」


「だって、1日も待っているなんて退屈じゃない」


 口々に喋る2人の少女は、どちらも楽しそうに笑う。何故なら、彼女たちはこれから起こる事柄を遊びだと解釈している。

 魔女に睨まれても臆することなく、笑みを浮かべる余裕すらあるのだった。


「アイリス、アリスを頼むぞ」


「ですが……」


「こいつらなら私1人で大丈夫だ」


「――分かりました。無茶をしない様に」


 アイリスは主の言葉を受け止めると、テントの中で横たわっているクレアリスの元へと向かった。


「あら、1人で大丈夫?」


「私があの子とやろうと思ってたのに」


 日傘を持った少女は、残念そうに指を咥える。


「いいじゃない。私たちが有利になるだけだし」


「そうね。魔女相手って初めてだから、わくわくしちゃう」


 そう言うと、彼女たちは手を翳して魔方陣を浮かべる。その様子を見たルミエーラは、すかさず魔方陣を描き、2人の少女に対抗するのであった。



 アリアは早々に主の異変に気付く。彼女に言わせてみれば、主のマナの流れの変化に気づかない分けが無いのだ。


「どうしたの?」


 急に動かなくなったアリアを見て、トリシャは首を傾げる。先程まで笑顔を見せていた彼女は、無表情でテントの方に視線を送っていた。


「トリシャ、この場を離れましょう」


「え?」


 アリアはトリシャの手を引くと立ち上がらせる。訳が分からない状態のトリシャは、アリアが視線を向けていた先に目をやり、ようやく異変に気が付いた。

 遠目に魔女装束を身に着けたルミエーラの姿が確認できた。その様子から、好ましくない事が起こっているのだと容易に想像が付く。

 トリシャは素直にアリアの言う事を聞くことにした。



 密度の高い空気の塊と、純水を使った塊が正面から向かってくる。ルミエーラは、これらの投擲物を防御魔法で防ぐと、すかさず雷撃を2発放った。


「おっと、危なーい」


 日傘を持った少女は前に出ると、その日傘の傘の部分で雷撃を一蹴する。簡単にあしらわれてしまったが、雷撃は決して弱い分けでは無い。

 前にトリシャが無法者集団に拉致された時に見せたものと同等の魔法を使用した。

 それなのにも関わらず、ルミエーラの目の前にいる少女たちは、平然な顔で防いでしまった。


 その時、高い魔力が集まるのを少女たちは感知する。ルミエーラから迸る魔力は雷へと形を変え、少女たちを襲う。

 先程の雷撃は陽動だったのだ。少女たちが防御に気を取られている間に、高威力の魔法を準備していた事になる。


 激しい唸りを上げながら、根にもとまらぬ速さで駆ける雷は、これまでの比では無い。辺りの砂を巻き上げながら飛来した雷によって地面には幾つかの小さな閃電岩が生まれる。


「今のは本気で危なかったわ」


 砂埃が落ち着いてくると、中から大きな球体が姿を見せる。球体はピンク色をしており、赤い大きなリボンを付けていた。

 その球体は縮小すると同時に、中から漆黒の使者と名乗った少女2人が現れる。


「あの威力の魔法が防げるって、その傘すごいのね」


「まぁね、防ぐのは私の得意分野だしぃ」


 ルミエーラの雷撃を防げた少女は、危機感があったにもかかわらず得意げになる。

 そんな彼女たちのやり取りに耳を貸さないルミエーラは、すかさず雷撃を2発放つ。


「そんな急かさないでよー」


「私たちとじっくりたっぷり遊びましょ」


「お前たちと遊んでやる程、私は暇では無いんでな」


 ルミエーラは再び魔方陣を描きながら次の攻撃の準備をする。


「今度は私達の番よ」


 日傘を携えた少女は、その場で軽快に1回転する。すると、少女を中心に空気の流れがうまれ、風となり突風として押し寄せてくるのだ。

 よく見ると、少女の足元には緑色に輝く魔方陣が浮かび上がり、その風が魔法によって生み出されている事が見て取れる。


「鬱陶しい」


 ルミエーラは既に描き上げた魔方陣を右手に残したまま、左手で新たに魔方陣を描く。その魔法は風の流れを打ち消す様に、新たな風を起こして相殺するのだった。


「あらら、私の魔法が打ち消されちゃった」


 風が止むと、すかさず雷撃を放つルミエーラだが、少女は日傘を球体の形に変更し塞ぐのである。

 そこまでしなくても防げた攻撃を、わざわざ球体になり防いだのには意味がある。それは、突風で注意を引き付けている間に、もう1人の少女が魔法の準備をする為であった。


「私の魔法を受け止めて」


 渦巻く水塊が柱の様に一度天に昇ると、ルミエーラに向かって急降下する。その水流の勢いは留まる事を知らず、周りにあるビーチパラソルやデッキチェア、テントまでを巻き込みながら地面へと叩きつけられるのだ。


「遅くなりました」


 水流を防いだのはルミエーラでは無く、クレアリスの側に居るはずのアイリスであった。


「アリスはどうした?」


「心配はありません。途中で目覚めたので、クラリスを呼び出してもらいましたから」


 アイリスの言葉を聞き、ルミエーラは胸を撫で下ろす。水流によってテントは見るも無残に壊れてしまっていた。

 既に避難した事が分かると、ルミエーラのギアは一段階上がるのであった。


「あらぁ?」


 水流が通過した場所にはアイリスの姿だけが映る。そこにルミエーラの姿は無く、2人の少女は彼女を見失う。


「遊びは終わりにする」


「あっ」


 気が付いた時には、既に日傘を持った少女は吹き飛ばされていた。それが何の魔法によってか考える暇も無く、少女は受け身を取るので精一杯になる。


 続いてルミエーラは、サイドテールの少女に向かって雷撃を3つ放った。威力、速度共に今までの魔法と変わりはないが、内2つが不規則な軌道を描きながら少女へと向かっていく。


「くっ」


 防御魔法で辛うじて防ぐも、雷撃の勢いを殺せずに、そのまま海の中へと身を沈めてしまう。


「あーあ。服が砂だらけになっちゃったじゃない。最悪」


 日傘を持った少女は立ち上がりながら服に付いた砂を払い落とす。その表情はからは笑みが消え、不機嫌そうな目をするのであった。


「めんどくさいけど、あれやっちゃおっか」


 少女は再び足元に魔方陣を浮かべる。しかし、先程の様に突風は発生しなかった。

 その間にルミエーラが雷撃を放つが、少女は日傘を使わずにそれを跳ねのける。放たれた雷撃2つとも少女に届くことなく、空中で散在したのだった。


「ちっ、こいつは直ぐには片付きそうにないな」


 ルミエーラは舌打ちをすると、雷撃を放つのを止めて後方に注意力を向ける。何故なら、海には先ほどの水柱よりも巨大な水塊が、地上へと押し寄せて来ているからである。


「ルミエ!」


 アイリスはルミエーラを防御魔法で守る為に近寄ろうとするが、それを実行する事が出来ない。

 何故ならば、目の前を見えない壁によって防がれていたからである。周囲360度全てを覆われており、近寄る術を奪われてしまった。


「アイリスは自分だけ防いでろ!」


 押し寄せる水塊は、高波となり浜辺全体に押し寄せる。夕刻時という事もあり、今までの騒ぎで浜辺には他の人の姿は無い。

 傾いた日を隠す高波は、うねりを上げて荒波として浜辺を海水で犯すのであった。


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