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魔女の従者と永劫の契約と  作者: 華月瑞季
二章 白銀の幼女と母親の愛情と
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44話 『柔肌の感触と』

 太陽が上空に高々と登る中。トリシャたちは昼食を取る為に海水をかき分けて砂浜へと上がるのだった。

 といっても、遊びに夢中になっていた彼女たちは当然、昼食の時間を忘れていた。ルミエーラの指示で呼びに来たアリアによって、現在の時刻を知らされる事となる。


「随分楽しそうに遊んでいたな。日焼けとかしないのか?」


「何を言っているんですか。アイリスにそういう魔法かけてもらったじゃないですか」


 トリシャたっての希望で気温の影響を受けない魔法は使って無い。何故ならば、夏を感じる為に海へ赴いたのだから、暑さも夏の楽しみの一つだと捉えていた。

 それとは別に、紫外線により日焼けをするのは好ましくない。なので、日焼け止めの対策をアイリスに伺い、肌を日に焼かない為の魔法をかけてもらったのである。

 そのやり取りを横から見ていたルミエーラが知らないはずが無いのに、日焼けを気にするのを不思議に思うトリシャであった。


「いや、アリスの肌が赤くなっているから気になって」


「クレアリスは日焼け対策とかしてないの?」


「日焼けとは何だ?」


 クレアリスの肌をよく見ると、肩から腕にかけて少しだけ赤くなっている気がする。城からほとんど出ない生活を続けていた彼女は、日焼け事態を把握していない様子だった。


「長時間、強い太陽の光を浴び続けると、肌が焼けちゃうんだよ」


「焼けるとは、肌が黒く焦げたりするのか?」


「うん。肌が荒れるから焼き過ぎると痛いよー」


 トリシャは含みを持たせながらクレアリスに注意を促す。


「い、痛いのか?」


「当然。服が触れるだけでヒリヒリするし、お風呂に浸かれば激痛が走るから入れないしねー」


 トリシャが大袈裟なリアクションを付けながら話すと、彼女は不安げな表情をする。


「それは嫌だな。アイリス、私にもその魔法をかけてもらえないだろうか」


「もちろん、構いませんよ」


 激痛という言葉に焦ったクレアリスは、アイリスに魔法を掛けてもらう様に頼む。そして、アイリスが魔法を掛けたことによって、クレアリスは安心した表情を浮かべるのである。


「それでは、お昼ご飯にしましょうか」


 アリアの声と共に昼食の時間へと移行する。

 到着した時にはデッキチェア1脚とビーチパラソル1本しかなかった場所にも、トリシャたちが海で遊んでいる間に、日差しを遮る簡易型のテントと机、人数分の椅子が用意されていた。

 テントは四方が囲われている種類のものだったが、1面だけは出入口用に開閉が可能なものだった。


 全員が椅子に腰掛けると、アリアが蓋付きの籠を持ってくる。

 蓋を開くと籠の中には、色とりどりの具材が挟まったサンドイッチが入っている。それらを挟むパンも白い生地と黒っぽい生地の2種類存在していた。

 白い生地の方は長方形に切り取られ、黒っぽい生地の方はパンの耳をそのまま残した楕円形をしている。

 具材もそれらパンの形に合わせて挟まれており、お肉に野菜にチーズなど豊富な具材によって、見るからに美味しそうな色合いを見せていた。


「いただきます」


 行儀よく、食前の作法を行ってから籠の中の食材に手を伸ばす。

 パンの柔らかい触感。野菜の瑞々しい触感。お肉の歯ごたえのある触感。それらが一口で一遍に味わえる。

 噛むたびに味が纏まるサンドイッチを運動後の空いたお腹へ入れていくのであった。


「あれ、それって」


 トリシャはクレアリスが鞄から取り出した円柱の容器が気になった。何故なら、その容器の中には、鮮やかな緑色の液体が入っていたからだ。


「ん? ああ、外でも飲めるようにソーダを持ってきたんだ」


 クレアリスが容器の蓋を開けると、プシュッと音がした。彼女は容器の端に唇を付け、鮮やかな緑色の液体をゴクゴクと喉を鳴らしながら飲む。


「いいね。僕も持ってくれば良かったかな」


「いるならトリシャにも分けてやる」


「良いの?」


「何本か持ってきているからな。味はどれがいい?」


「んー。オレンジ」


 クレアリスは再び鞄の中から円柱の容器を取り出すと、それをトリシャへと手渡す。

 容器の中には橙色の鮮やかな液体が入っており、その液体を口の中へ入れると、炭酸のシュワシュワとした感覚が口の中から喉まで駆け巡った。



 昼食を終えると、小一時間休憩をしてから、再び海へと向かうのだ。

 テントから出る前にアリアを誘ったが、彼女は頑なにその場所を離れようとはしなかった。彼女の主であるルミエーラが動こうとはしないので仕方の無い事なのだが、それをトリシャは不満に感じる。


「アリアは遊びたくないのかな?」


「本心では遊びたいと思っているかも知れません。ですが、私たちにとっては遊ぶ事よりも、従者としての役割の方が大切なのです」


 そういうアイリスも、トリシャの護衛兼お世話係という名目が無ければ、アリアと同じ様に陸地に留まっていたのかもしれない。


「あ、ボールある? それで遊ぼうよ」


「鞄の中へ締まっているので取ってきますね」


 トリシャの要求に応えるために、アイリスは一度砂浜へ上がり、鞄の中に入っている荷物を取りに行った。


「ボールを使って何をするんだ?」


「ビーチバレーでもしようよ」


「バレー?」


 水着と一緒に購入したボールは、普段は手で握れる程のサイズしかないのだか、数回強く握ると頭より大きいサイズに膨らむ。

 その素材は水風船の様に柔らかく、ゴムの様に弾力があった。


「取ってきました」


「何回握ったら良いんだっけ?」


「3回強く握れば、この位の大きさになりますね」


 アイリスは胸の前で丸い円を描くような動きをする。トリシャは言われた通りに強く3回握るのだった。

 握る度に指が沈み込み球体は、形をスライムみたいに自在に変形させる。3回強く握った後に指を離すと、手のひらの上で大きく膨らみ始める。

 膨らむ様子を眺めながら待つと、トリシャが望む大きさまで膨らむ。大きくなったボールは、柔らかさだけでなく程よい弾力が生まれるのだった。


「じゃあ、ビーチバレーでもやろっか」


「だから、バレーとは何だ?」


 アイリスがタイミングよく戻って来た事もあり、クレアリスの疑問を解消していない。


「えっと、なんて説明したらいいんだろう。簡単に言えば、このボールを地面に落とさない様に繋ぐ遊びかな」


「地面に落とさなかったら良いのか?」


「うん。試合をするなら細かいルールもあるんだけど、取り敢えず落とさない様に繋いでみようか」


 この3人がいきなり試合をして形になるとは思えない。まずは3人で三角形の形を作り、トスを繋いで遊ぶ事にした。


「いくよー、それっ」


 トリシャは掛け声と共にボールを宙に浮かす。しかし、要領を抑えてない3人が集まったところで繋がるはずもなく、良くて10回繋ぐのが精一杯だった。


「この遊び、意外に難しいな」


「膝を上手く使わないと狙った所に行かないよ」


「そうなのか?」


 トリシャにバレーボールの経験やビーチバレーの知識がある訳では無い。それこそ、何処かで聞いた事のある台詞を言ってみただけに過ぎなかった。

 アイリスはトリシャの動きを参考に、見る見るうちに上達していく。寧ろ、慣れ始めてくれば、トリシャよりも上手にボールを扱っていくのだった。


「こうか?」


「そうそう、いい感じ」


 暫く練習すればクレアリスも慣れてきたみたいで、ボールを繋ぐだけならば、それとなく形になっていた。


「一旦、休憩してから試合しようよ」


「試合?」


「そう、2チームに別れて落とした方が負け。細かいルールは休憩中に話すよ」


「面白そうだな。待てよ、また2対1で私を虐めるつもりだな」


 午前中に行った水の掛け合いを根に持っているのか、クレアリスは抗議の声を上げる。


「アリアを誘おうと思ってたんだけど、断られたらクラリスだっけ? あの子とか入れたらどうかな?」


 彼女の従者が加われば、2対2となり公平な試合が出来る。

 試合をするには最低でも4人は必要だと考えるトリシャは、アリアに断られた時の為に、保険をかけることにした。


「そうだな。クラリスと一緒に今度はまとめて倒してやる」


 やはり、午前中の事を根に持っているみたいで、やる気を見せるクレアリスだった。


「後はネットが欲しいところだけど、無くても良いかな」


「ネットとはどの様なものでしょう?」


「二本の棒を立てて、その間に編みを張るんだけど――棒の長さはテントの入口位かな」


「では、休憩中に準備しますね。クレア様、クラリスを借りても宜しいでしょうか?」


「ああ、構わん」


 トリシャの説明を聞いたアイリスは、ネットを用意する為にクラリスを呼び出すよう要求する。

 クレアリスが左手に身に付けた腕輪が光ると、青藤色の髪の毛をした少女が姿を現す。その幻想的な登場の仕方はともかく、クラリスと呼ばれる少女は、何故か水着を着用していたのだった。

 紺色の水着には胸元と腰周りにフリルのあしらわれたビキニタイプの物だった。胸の中心と腰骨辺りに白いリボンが付いており、紺色との対比が美しく感じられる。


「何でクラリスは水着着てるの?」


「こういう事もあろうかと、予め着せておいた」


 トリシャが気づかない内に、試着を済ませ、購入していたと、鼻高々に彼女は言う。

 ここは用意周到だと褒めるべきなのだが、彼女が余りにも誇らしげに言い放つものだから、掛ける言葉を失ってしまう。

 トリシャが呆気に取られている間に、アイリスはクラリスを連れて何処かへ行ってしまった。

 気を取り直したトリシャは、クレアリスと一緒に水分補給する為に、みんなのいるテントへと向かうのであった。



 十分な水分補給を済ませた後、トリシャ、アイリスチームとクレアリス、クラリスチームに分かれて試合を行う。

 トリシャは休憩中にアリアを誘ってみたのだが、あっさりと振られたのである。それは、彼女が従者としての役割を大切にしているという事なので、トリシャは強引に誘う事が出来ない。


 試合はというと、トリシャ、アイリスチームが優勢であった。

 最初はぎこちない動きを見せていたクラリスだったが、彼女もアイリスと同様に慣れてくるとトリシャよりも上手くなっていった。

 しかし、序盤に開いた点差が決め手となり、トリシャ、アイリスチームが1勝したのだった。


「やりましたね」


「僕たちの勝ち」


 トリシャは顔の近くでVサインを作ると、アイリスに向ける。嬉しそうなトリシャたちと違い、負けたクレアリスは悔しさを顔に滲ませた。


「もう一回、もう一回勝負だ」


 まだ元気の有り余るクレアリスは、泣きの一回を要求する。


「良いよ。でも、クレアリスが負けたら後で写真を撮らせてよね」


「じゃあ、トリシャが負けたらトリシャを撮ってやるからな」


 売り言葉に買い言葉。こうして、お互いの水着撮影を掛け、もう1試合する事になったのである。


 弾力のあるボールは腕に触れると少し沈み込む。僅かに溜める様にボールに触れると、沈み込むボールを狙った所へ狙った高さに打ち上げることが出来る。

 トリシャがボールを拾うと、そのボールをアイリスが高い位置へ放物線を描くように上げる。

 そこへ、助走を付けて跳躍をしたトリシャが、腕と共にボールを強く振り落とす。勢いの付いたボールは、そのまま一直線に地面へ触れるのであった。


「あ、アタック初めて決まった」


 2回戦が始まる前にアイリスと打ち合わせをしたトリシャは、試合中に試行錯誤しながらようやく決める事に成功したのだ。

 喜びの余りにアイリスとハイタッチするトリシャと違い、クレアリスは呆気に取られていた。


「今のは何だ! 魔法は禁止じゃ無かったのか?」


 試合前のルール説明の中に魔法の類は禁止事項に加えていた。魔女と魔人の中に、1人素人が混ざっているのと同じなのだから、魔法を禁止するのも当然と言えよう。

 そもそも、魔法を使ってしまうと、ビーチバレーのルールを見直さなくてはならなくなるだろう。

そこまですれば、全く別の競技に変わったと言える。純粋にビーチバレーを楽しむ為には必要な禁止事項であると言えるのだ。


「魔法は使ってないよ。技というか技術だよ」


「クラリス、今の技とやらを私たちもするぞ」


 負けず嫌いなクレアリスは見様見真似で再現しようと試行錯誤を繰り返す。

 その間に、トリシャ、アイリスチームは順調に得点を重ねていくのであった。


「クラリス!」


 クレアリスの放ったボールが高々と上がる。そこへ助走を付けたクラリスが勢いそのままに跳躍し、腕を売り下ろすと共にボールを地面に叩きつけるのである。

 身長の低いクレアリスは、自身がアタックをする事を諦めたのだろう。勝負に勝つために、彼女より身長の高いクラリスにボールを託したのだった。

 そのボールは、トリシャが打つよりも早い速度でアイリスへと向かって突き進む。


「きゃっ」


 短く悲鳴を上げるアイリスは、辛うじてボールを拾う事に成功する。

 しかし、ボールの勢いに押されて、その場で尻餅を付いてしまうのであった。


 ボールは上空へ高々と上がって行く。トリシャはボールを拾う為に、落下点へと移動するのであった。

 しかし、真上を見る余り足元を見ていなかったトリシャは、立ち上がろうとしたアイリスと衝突してしまうのである。


「うわっ」


「きゃっ」


 再び短い悲鳴を上げるアイリスを押し倒し、トリシャはその場に倒れてしまう。

 肌と肌が触れ、水着の上から胸と胸が重なり合う。汗ばむ肌は巻きあがった砂だけでなく、汗と熱を含んだ、少女の柔肌へと触れてしまったのである。

 アイリスのレシーブは真上に上がっただけなので、それを拾おうとしたら当然こういう結果になる。


「大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫」


 アイリスの声を聞いて、トリシャは急に上体を起こす。水着を着用しているとはいえ、これほどに露出が多い格好で密着すれば、裸で抱き合っているのと同様と言えよう。

 その羞恥に耐えかねたトリシャは、直ぐに離れようと起き上がろうとしたのである。


 ムニュ。


 上体を起こす際、体を支える右手が柔らかい感触に包まれる。視線を落としたトリシャの目に入ったのは、自身の指が食い込む事で形を変えるアイリスの乳房だった。


「ごごご、ごめん」


 トリシャは素早く身体を彼女から離すと、上体を縮めながらアイリスに謝る。

 それと同時に、彼女の柔肌の感触が手の平に残り、微かに熱を帯びていくのを感じてしまうのであった。


「謝る必要はありません。トリシャになら触られても平気ですから」


 そう言う彼女は、体制を整えると手で胸を覆う仕草をする。その照れ混じりの笑顔は、余計にトリシャの心を打つのだった。

 例え、アイリスが気にしなくとも、トリシャの方は気にせずにはいられない。何故なら、この心臓の高鳴りは、激しい運動をしただけでは説明がつかないからだ。


「それよりも、水着が外れなくて良かったですね」


 アイリスは照れくさそうに笑った後、トリシャより先に立ち上がる。彼女に言われて確認すると、2人の水着には砂が付着してはいるだけで歪んだりはしていなかった。

 もし、水着が外れて恥部が露になっていたら、今以上の羞恥に見舞われていたに違いない。


 自称元男のトリシャは気にする必要が無くとも、魔人とは言え女の子のアイリスが傷つくのは目に見えている。

 アリアが尻尾の付け根を見られる事を恥ずかしがるのだ、アイリスが恥部を露呈して羞恥してしまうのも当然といえよう。


 少しずつ冷静さを取り戻すトリシャは、アイリスの水着の中が人目に触れなくて良かったと、胸を撫で下ろすのであった。

 暫くして立ち上がるトリシャだったが、アイリスの顔をまともに見られなくなったのは言うまでもない事だろう。


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