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魔女の従者と永劫の契約と  作者: 華月瑞季
二章 白銀の幼女と母親の愛情と
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41話 『双子コーデと揃いの髪型と』

 買い物を終えると、災いに見舞われることなく帰路へ着く。街へ来た時と同じ要領で、アイリスにエスコートされながら、空中散歩を楽しむのである。


 氷の城まで帰ってくると同時に、クレアリスに誘われて、そのままの足で彼女の部屋へと移動するのだ。


「トリシャ」


 部屋の中へ入ると、クレアリスが改まった様子で名前を呼ぶ。


「なぁに?」


「服を買いに行った時に、トリシャの分も買ってみたのだが、一緒に着てくれるか?」


 気が付かない間に、トリシャが着る服を購入したと告げられる。彼女の申し出を断る理由は無い。寧ろ、彼女を抱きしめたいほどに嬉しい出来事なのだから。


「もちろん。今から着るの?」


「そうだな。一回着てみるのもいいかもしれない」


 そう言うと、クレアリスは今日購入した荷物の中から、2人分の服を取り出すのであった。


「これなんだが……」


 クレアリスから渡された服を手に取ると、空中で全体が見える様に広げてみる。ブルーラベンダー色に染まる服は、全体に白い細い線でストライプの模様が入っている

 首元が大きく開いた形をしており、ストライプの出発点には、垂直に接する半透明のレースが施されていた。その半透明のレースは袖口や裾にもあしらわれており、服の色合いと相まって涼しげに見える。

 リボンの数は少ないものの、一つ一つに存在感があり、落ち着いた色合いに溶け込むような工夫がなされているのだ。


「良い色合いの服だね。早速着てみよっか」


 とは言ったものの、この部屋には試着室など当然無い。着替えの際には、いつもアイリスに見られているので、クレアリス1人が増えた事を気にする必要は無いのだ。

 そう自分に言い聞かせて、トリシャはアイリスに着替えを手伝ってもらいながら服を着ていく。


「これ、胸元まで開きすぎじゃない?」


 実際に着てみると、首から鎖骨の下辺りまで素肌が露になっている。肩に細い紐が通っているので、ズレ落ちる心配は無いのだが、初めて胸元まで開いた服を着るトリシャは気になってしまうのだった。


「よくお似合いですよ。リボンを結びますので苦しく感じたら言ってくださいね」


 アイリスは後ろに回ると、肩から背中に垂れる紐を手繰り寄せ、肩甲骨の下辺りでリボンの形に結ぶのだ。肩紐は一度、服の中に入り、一番上に施されたレースの間を突き抜けて外へと出ている。

 それを中央に手繰り寄せる事でリボンの形に結ぶことが出来るのだが、1人では到底着こなせる服ではなさそうだ。

 服の一番上に施されているレースは、鎖骨の下から腕を通り、後ろは肩甲骨の下辺りまで一周する。肩まで肌を露出する、オフショルダーのデザインをした服は、トリシャにとって羞恥心なく着こなすには早計すぎた。


「苦しくありませんか?」


「うん、大丈夫」


 アイリスは肩紐を背中でリボンに結び終えると、続いて腰の位置にある紐をリボンに結び始める。

 ウエストラインに紐を通すと、腹部に布のたるみが出来る。上下同じ色のワンピースも、布の締まりとたるみを生むことによって、生地にアクセントを作るのだ。

 大きく結ばれたリボンも、結び目を左に寄せる事で、主張しすぎる事もなく、動作の邪魔をする事も無くなるのだろう。


「トリシャ」


 着替え終わった所で、クレアリスに呼ばれて振り返る。すると、ブルーラベンダー色の服に身を包む、美しくも幼い少女の姿が目に入るのだった。

 部屋の中には、形だけではなく色さえ全く同じ服を着た少女か2人、存在する事となる。そこで、一緒に着るとはどういう事なのか、ようやく理解するトリシャであった。


「お揃いで買ったんだね」


 鎖骨から肩にかけて露出する服装を身に着けていても、クレアリスから嫌らしさを感じることは無い。

 翌々考えれば、彼女が普段着ていた魔女の装いの方が大きく露出しているのだ。肌の露出を気に病む必要性は無いのだと知る。


「トリシャと同じ服が着てみたかったのだけど……嫌だったか?」


「ううん、そんなことないよ。寧ろ嬉しいかな」


「そうか、なら良かった」


 トリシャの言葉に安心したクレアリスは笑みを浮かべる。その表情は天使の様だと言いたくなるほど愛らしいものだった。


「あ、ちょっと待って。せっかくだから、髪の毛を結ってみようよ」


 トリシャは後ろに回り込むと、クレアリスの髪の毛に触れる。鎖骨を覆っている毛先を、結びやすい様に首の後ろに回す。

 彼女の髪の毛はトリシャの半分ほどの長さしかないので、自身の髪の毛に比べて扱いやすかった。

 自身の髪型は、アイリスが毎日ツインテールに結ってくれてはいる。しかし、常にアイリスが隣にいるわけでは無く、日常的に自分で結び目の緩みを直すことも多々あった。

 常日頃磨かれた手つきは、初めて結んだ時の様に拙い動きでは無かった。トリシャはアイリスから櫛と髪留めを受け取り、クレアリスの髪の毛を結っていくのである。


「少しこそばゆいな」


 他人に髪の毛を触られると、独特の感覚が首筋に流れる。寒気とは違ったその感覚は、気恥ずかしさの表れなのかもしれない。


 白銀に色めく髪の毛を、左右の耳の上で束ねていく。仕上げに両側の高さを均等に整えれば、幼さの残る少女の髪の毛は、トリシャと同じツインテールへと変貌を遂げる。

 髪の毛を結ってもへその位置まで伸びるトリシャの髪の毛とは違い、彼女の毛先は肩に少し触れる長さに留まっていた。


「これで良し」


「髪の毛を結ぶの、上手になられましたね」


「アイリスに教えてもらったからね」


 トリシャは上達ぶりを褒められて嬉しい気持ちになる。特に、毎日髪の毛を結ってくれているアイリスに褒められるとなると、その喜びは大きなものとなる。


「服も髪型も同じだと、嬉しいけど照れるな」


「そうだね」


 愛らしく頬を染めるクレアリスは、手鏡で自身の髪の毛の結い目を何度も見る。結び目には服に似合う様に、同系色のリボンで飾り付けた。

 服と一緒に購入したわけでは無いので、色に多少の差異があるのは仕方のない事だ。しかし、その微妙な差異が気にならぬ程に、クレアリスの装いは完璧だと言えるくらい似合っているのだ。


「まるで姉妹の様ですね」


 照れ混じりに笑みを浮かべる2人を客観的に見ていたアイリスが、その微笑ましい姿に感想を漏らす。


「カメラとかあれば写真を撮りたいんだけど――あったりする?」


「持ち合わせていませんね。今日の買い物で買ってくればよかったですね」


 生憎、写真を撮る事は出来なさそうだ。トリシャは、この世界にカメラの存在があるのか聞いたつもりだが、どうやらあるらしい。

 その存在を確認することが出来たので、今度街へ出かけた時にでも購入しようと決めるのだった。


「あ、危うく忘れるところだった。」


 何かを思い出したクレアリスは、鞄の中を探り始める。彼女が手にしたのは臙脂色の布で、それを近くの机の上に広げるのであった。


「リャーフィ」


 クレアリスが何か呪文の様な単語を呟くと、布の上に表面を革であしらわれたケースが現れる。


「その布すごいね。僕でも出したりしまったりできるの?」


「いや、私の声にしか反応しない様に保護をしているから、この布では出来ないな」


「そうなんだ」


 少し残念な気持ちも生まれるが、他人の道具なので仕方が無いと割り切る。


「これが今回の取り分だ。受け取ってくれ」


 クレアリスはケースの蓋を開けると、中から札束を1つ取り出し、そこから十数枚の紙幣をトリシャに渡すのであった。

 渡された紙幣は、この世界の文字で1,000と印字されていた。枚数を数えてみると、15枚を数えることが出来た。


「こんなに貰っていいの?」


「ん? 経費とか掛かるから、それだけしか渡せないのだが……」


 トリシャとクレアリスの感覚にズレがあるみたいだ。トリシャの感覚を言えば、ルミエーラから貰ったお小遣いよりも多いので、不満が有るはずが無かった。

 一方、クレアリスからしてみれば、ケースに札束が何十とある中、15枚しか渡さない事に理解を求めていたのだ。


「こんなにもらって良いのかなぁ?」


「お菓子作りを手伝ってくれたんだ。受け取ってもらわないと困る」


 たった半月ほど協力しただけで、これほど貰えるとは思わなかったトリシャは、若干申し訳なく思う。

 通貨の価値を正確に理解しているわけでは無いが、今まで貰ったお小遣いの合計よりも多くある様に思えた。


「これだけあったらカメラもカーペットも買えるかな」


「そうですね……カメラの価格は分かりませんが、購入できると思います」


 トリシャは受け取った紙幣を、お小遣いを締まっているポーチの中へと大切にしまった。


「一週間に一度、街に出かけているが、次も一緒に行くか?」


「付いて行って良いのなら行きたい」


 この城に来てからというもの、ルミエーラは自身の研究や仕事に没頭しており、街へ連れて行ってくれるどころか、魔法の練習にも付き合ってくれなかった。

 なので、クレアリスが連れて行ってくれるのなら、一緒に行きたいと思うのは、至極当然の事なのである。


「財布やマジックバックも欲しいと思ってたから、徐々に揃えていこうかな。でも、全部は買えないかもしれないから優先順位考えなきゃ」


「来週になれば、また報酬を支払うから大丈夫だと思うぞ」


「え?」


 クレアリスが言うには、一週間に一度、買い物を含めて商品の取引を行っているという。今日会った婦人は得意先で、週に一度の頻度で取引を行っていると言う。

 つまり毎週、今受け取った金額と同等の貨幣を受け取る事が出来るという事になるのだ。

 予想以上の大金が報酬として支払われる事に、トリシャは驚愕せずにはいられなかった。


「従業員がトリシャしかいないからな。アイリスに支払っても、どうせルミエの元に行くのだ。払わない分はトリシャの取り分に含めておいた」


「え、アイリスの分までは受け取れないよ」


「私の分も受け取ってください。私はトリシャの頼みで動いたのですから」


 アイリスに言われては拒否を示すことは出来ない。ここは、2人の好意に甘えて、報酬を受け取る事にしたトリシャであった。


「じゃあ、来週までにマントの使い方、勉強しとかないとね。アイリス、後で飛び方教えて」


「お任せください」


 トリシャの頼みを快諾するアイリスは、新たな役目が生まれた事に喜びを感じているに違いない。何故ならば、彼女の表情が、そう物語っていた。


「私にもか……お菓子作り手伝ってくれないと報酬少なくするからな」


「わかってるって」


 クレアリスは、マントの練習に時間を取られてトリシャと過ごす時間が減ってしまうと思ったのかもしれない。

 急に不機嫌そうな顔をする彼女を、トリシャは頭を撫でてなだめるのであった。



 翌日から早速、魔法のマントを使って空を飛ぶ為の特訓が開始される。外出は当然許可されていないので、氷の城の中庭で特訓に興じるのだった。


「これって、どういう原理で飛んでるの?」


「魔術を織り込んだ生地を使用しているので、魔法を行使するのと似たような原理ですね。使用法という事であれば、マナを感知する事で任意の方向に飛ぶ事が出来ますので、飛ぶ姿をイメージしていただければ良いかと思われます」


 トリシャが聞きたかった返答は後者だった。原理などと難しい言葉を使った所為で、アイリスに余計な質問をさせてしまう。


「イメージするだけでいいの?」


「はい、後は空中での体勢に気を付けてもらえれば……」


 アイリスが喋っている途中で、はやる気持ちを抑えられなかったトリシャは、体を宙に浮かせていた。


「お上手ですね。姿勢も安定していますし、慣れれば直ぐに移動も可能でしょう」


 褒められて上機嫌になったトリシャは、アイリスの指導の元、左右への移動と上昇下降を繰り返すのであった。


「おっと」


 中庭は広い空間だったが、時折態勢を崩したり速度を出しすぎたりすると、建物にぶつかりそうになってしまう。

 しかし、アイリスが側に付き添ってくれているお陰で、建物や地面と衝突することは無かった。


「姿勢を保つのって意外と難しいね」


「初めてにしてはお上手だと思います。慣れてから徐々にスピードを上げて行けば良いかと思われます」


 小一時間練習したところで休憩を挟む。地面は芝生の様な短い草に覆われているものの、雪が被さり緑と白のまだらな模様を描いていた。

 それ以外に花や木などは植えられておらず、殺風景な景色に見えるのだった。


「アイリスは初めて飛んだ時は苦労したの?」


「いえ、私は初めから飛ぶことが出来ましたので」


 中庭の隅にあるベンチに腰を下ろして話をする。座った時にはお尻に冷たさを感じたが、徐々に体温で気にならない程度に温まっていた。


「アイリスは初めから飛べたんだ。すごいね」


「私の場合は元より空中を移動できますので」


「え?」


 さりげなく話しているが、元から空中を移動できるとはどういう事だろうか?

 道具を使わない移動方法など、あるとすれば魔法くらいなものなのだが、そんな魔法など知らないトリシャは驚きを隠せない。


「魔法か何かって事?」


「はい、魔法を使った移動術ですね」


「それって難しいの?」


「そうですね――道具を使った方が簡単なのは確かです。それにマナの消耗も全然違いますので」


 例えば、陸地を移動する場合でも、単純に走る場合と、自転車など道具を使った時とでは、速度も疲労感も桁違いに変わる事だろう。それが長距離の移動となれば尚更だ。

 アイリスが魔法で空を飛べるとしても、道具をわざわざ使用するのは、そういった理由からなのだろう。


「僕にも出来る?」


「道具を使わない分、難しくなるので直ぐには無理かと思われます。しかし、マントを使って安定して飛べる様になれば、魔法を覚える時に役に立つのではないでしょうか」


 氷の城に来てから魔法の練習を殆ど行っていないトリシャに、空を飛ぶという高度な魔法が簡単に習得する事など出来るはずがない。大人しく目の前の事柄に手中した方が無難である。

 アイリスの言う通り、マントという道具を上手く使いこなせれば、いずれ空中を移動する魔法を覚える時に役に立つのかもしれない。


「じゃあ、もっと上手く飛べる様に練習しないとね」


「はい、お手伝いさせて頂きます」


 急に立ち上がると、トリシャは再び特訓を開始する。アイリスの指導の元、見る見るうちに上達していく。

 いつの日か自力で空を飛べる事を目指して、マントでの飛行練習に精を出すトリシャであった。


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