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魔女の従者と永劫の契約と  作者: 華月瑞季
二章 白銀の幼女と母親の愛情と
27/92

25話 『外出の許可と交渉と』

 外から帰ってくると早速、お風呂場へと直行する。まだ湯が張られているわけでは無かったが、このままでは本当に風邪を引きかねない。

 服の上の方は少しずつ乾いてきているのかもしれないが、スカートの裾など重力によって水が溜まり動くたびにビチャビチャと音を立てる。飛行艇に乗る前に裾を絞って水を切ってきたのにもかかわらず、衣服は重量を増したままだった。

 濡れた服に気持ち悪さを感じていたトリシャは、脱衣所に着くなり自らの手で衣服を脱ぎ始めた。


「あ、お着替え手伝いますね」


 トリシャの行為に気が付いたアイリスは、急いで服を脱ぐ手伝いを始める。濡れた服は纏わりつく様に水分によって体に張り付いているので、彼女の補助は絶大な効果を発揮する。

 1人で着替えていたら肌に張り付いた服に手間取っていたのかもしれない。しかし、アイリスが服を脱がすのを手伝ってくれたお陰で、短時間で済ませることが出来た。


「アイリス、ありがとう」


「いえ、お礼など火露ありません。私の役目ですから」


 お礼を言うも、アイリスにとってそれは必要のない行為だったみたいだ。トリシャからのお礼に対しては素直に嬉しい気持ちを抱くのだが、彼女にとってわざわざお礼を言われる様な行為をした自覚は無いのである。


 水塊によっていまだ水分を含んで重たくなった衣類を脱ぎ終わると、トリシャは浴室へと入るのである。

 この日はまだ浴槽にお湯は張られていない。先ほどまで外出していたので当然の事だ。アイリスはトリシャの後に続いて浴室へと入ってくる。まだお湯の張られていない浴槽の方へ向かうと、温度の調節をしながらお湯を浴槽に注ぎ始めた。

 浴槽より手前にある椅子に腰かけると、トリシャは体を洗い始めた。適温に調節したシャワーのお湯は冷え切った体を少しずつだが温めていく。


「お湯が溜まるまでの間、お背中流しますね」


 アイリスはそう言うと、トリシャの背中側に腰を下ろす。液体石鹸を手に取ると、泡立たせ始めた。


「1人でも洗えるよ?」


 照れ隠しからか、トリシャは遠慮がちに疑問形で返事をする。アイリスの行為に嫌悪感を抱いたわけではないが、彼女の行為を遠回しに退ける。


「私がしたいのですが、ダメ……ですか?」


 彼女のこの問いに弱いのだとトリシャは自覚をする。何度この様な質問を受けてきたのかは分からないが、この言葉を投げかけられると最終的にいつも拒めないのである。

 自覚したところで拒否感を表すことは当然無く、結局はアイリスの行為を受け入れてしまうのだった。


「今日だけだからね」


 と言いつつも、これからも同じシチュエーションになれば受け入れていくのだろう、と安易に想像がついてしまう。その光景を思い浮かべてしまうと、トリシャは口元が緩んだ。自身の口調とかけ離れた心の持ちように、アイリスに気が付かれないように静かに笑うのだった。


「それでは体から洗わせてもらいますね」


 アイリスは手の平で泡立てた液体石鹸を使ってトリシャの体を洗い始める。そっと包み込むように触れられると、こそばゆさを感じて体がビクッと小さく動いてしまう。

 他人に体を触られると、分かっていても反射的に反応してしまうのは仕方のない事なのだろう。背中を向けて、彼女の手元を見ていないのだから尚の事、体が勝手に反応してしまうのだ。


 アイリスに体を洗われ、髪の毛を洗い終える頃には浴槽のお湯は十分に溜まっていた。体に付いた泡を流し終え湯船に体を浸からせる間に、アイリスは脱衣所の方へ向かっていた。

 1人になったトリシャは、まだ寒さの残った体を浴槽の中へ浸かることで温めていくのであった。


 入浴が終わると、トリシャは部屋着へと着替える。この日は短い袖の付いた白いワンピースを着る事となる。いつぞやの夜に着た透け感のあるいやらしさを感じるワンピースではなく。フリルやリボンの付いた可愛らしい服だった。

 髪の毛をいつも通りツインテールに結んでもらうと、夕食の時間まで部屋で寛ぐのだった。


「この本に出て来る果物って手に入らないかなぁ」


 トリシャは今読んでいる本に登場する花が気になった。高い斜面に生える木になる実での甘い果汁が絶品だと書かれていたのだ。


「何という果物ですか?」


 アイリスに尋ねられて答えるも、トリシャは果物の名前を理解していなかった。何故かといえば、字はある程度読めるようになったが、果物の名前など固有名詞を読めるほど理解出来てはいないからだ。


「何て言うんだろ? ミカンに形は似てるけど……」


「これはハニークインスですね。柑橘類の一種です」


 本を広げているトリシャの横から覗き込むと、アイリスは果物の名前をトリシャに伝える。


「ハニークインスって言うんだ」


「この果実は実際に食べる事は出来ますが市場に出る事も少ないですね」


 アイリスの言葉にトリシャは落胆する。手に入ることが出来れば、本と同じように食べることも出来るが、それが敵わないと知ったからだ。


「取りに行くことも可能ですが場所が場所ですし、ルミエーラの許可が出ないと思います」


 本には高所にある木に実っている果実で、本の登場人物も取りに行く際怪我をしている。なんにせよ実際に口にするのは叶わないと諦めるしかない。

 そんな話をしている間に夕食の準備が整ったみたいで、アリアが部屋へと呼びに来る。トリシャは渋々果実を食べる事を諦めると食堂へと足を運ぶのであった。



 翌日も翌々日もルミエーラによる魔法の練習は行われた。時々アリアの姿が無い事があったが、その時は買い出しに行っているのだ。

 防御魔法を中心に魔法を習っていく。一度攫われた経験もあり、トリシャは二度と同じ経験をしない様に魔法を覚える事に真剣に取り組んだ。

 とはいっても、することといえばルミエーラの攻撃を防ぐか魔方陣の書き方を教わるくらいしか無いので、トリシャは魔法の扱い方に慣れてくると魔法を防御するときにも余裕が生まれてきていた。


「ねぇ、身の危険を感じた時に、こう対処できる魔法とかありませんか?」


「対処と言うと?」


 トリシャが思い描くのは、ルミエーラが浸かっていた雷撃の様に、身の危険を感じた時に相手を撃退する魔法だった。


「相手を返り討ちにするような魔法とか」


「ああ、そういう事か。教えても良いんだが1つ言っておく事がある。町中では基本魔法は禁止されている。もし襲われても許可書を持っていないと使えないから注意な」


 よくよく考えたら当然の事かもしれないが、魔法を町中では使えないらしい。仮に町中の人が魔法を好き勝手に使えるのだとすれば、今まで通り悠長に買い出しが出来るはずがない。


「ルミエーラはその許可書というものを持っているんですか?」


「私は当然持っている。無いと色々困るんでな」


 彼女が許可書を持っていると聞いてトリシャは内心驚いた。魔女をイメージからは人から許可をもらって魔法を使う姿を想像できないからだ。自由気ままに生きているルミエーラのイメージにそぐわない様な気さえした。


「防御魔法は基本的に人に危害を及ぼすものでは無いんでな、町中だろうが使用の許可がいる事が無い。だから優先的に教えているんだ」


 トリシャは色々な種類の魔法を覚えたい気持ちでやまやまだったが、今教えてもらっている魔法をきちんと覚えようと思うのだった。

 彼女はルールを破らない範囲でトリシャに魔法を教えている事が分かったのだ。魔法の習得度合いを見て、その都度新しい魔法を教えてくれるだろうと感じたからだ。



 その後も午前中は文字の勉強、午後は魔法の習得と、トリシャの生活は同じような毎日を過ごすこととなった。

そんな生活を続けて1週間経過した頃だろうか、ある日の夕食にて


「明日は留守にするから、仕事はしなくても大丈夫なんだが定期的にしとかないと依頼も来なくなるんでな」


 ルミエーラは久々に仕事をするために1人で外出をするみたいだ。前回我儘を言って買い出しに付いていった時も彼女は仕事で出かけていた。何の仕事をしているか知りたい気持ちはもちろんあったが、それよりも優先すべきことがあるのだ。


「ねぇ、また外出したいと言ったら怒りますか?」


「外出なら今日もしたじゃないか」


 彼女が言っているのは魔法の練習をしていた森の入り口付近の事を指しているのだろう。それも一応は外出と呼べるかもしれない。しかし、トリシャが想像している外出とは違ったものだった。


「そうじゃなくて、こう買い物したりとか街を探索したりとか……」


「また、そういうことを言って、トリシャ、お前は自分が危険に巻き込まれやすい体質だって自覚は無いのか?」


 確かに拉致されたり、ゴスロリの少女に目を付けられたりと、トラブルを呼び寄せている事実はあるのかもしれない。しかし、一番の身の危険はルミエーラに魂の召喚や契約という名の拉致監禁を受けた事である。

 トリシャは多少の危険は承知の上で外出を行いたいと思っていた。そのために魔法を覚えたと言っても過言ではない。


「それでも、外出はしたいし、自身に降りかかった一番の災いはルミエーラに捕まった事だと思うんですが」


「それを言われると頭が痛い。いつまでも禁止させるわけにはいかないし防御魔法も実践レベルまで使えるみたいだからアリアとアイリスを護衛に付けるという条件なら許可してやろう」


 条件付きとはいえ外出の許可が出た事にトリシャは喜んだ。その条件も元々アリアやアイリスと一緒に外出したいと思っていたところなので支障は全く無い。


「ところで行きたい場所というのは決まっているのか?」


「決まってないですけど……」


 具体的な事は何も決まってないけど、見切り発車で外出の許可を取るために動いてしまった。どこに行くかという事よりも、外出や買い物といった行為そのものを楽しみにしているのだろう。トリシャはルミエーラの質問に言葉が詰まってしまった。


「呆れた、どこに行くか決めてなかったのか」


「だって、外の事あまり知らないし……」


 トリシャは言い訳をする様に呟いた。最近は魔法に関する知識を吸収しているところだが外の世界の常識すらほとんど分からないでいた。そんな中、行きたい場所を決められるはずが無かった。


「ハニークインスを取りに行きたいです」


 トリシャはまだ諦められなかったみたいで、果敢に主張してみる事にした。


「良く知ってるな。でもダメだ。あれを取りに行くことは許可できんな」


 トリシャの望みも虚しくルミエーラから許可を得る事は叶わなかった。


「決まってないのならそうだなぁ……ブルンタージャに行ってはどうだ?」


「ブランタージャ?」


 落胆するトリシャを余所に、今度は彼女から提案される。いきなり街の名前か地方名かもわからない単語を出されても頭には疑問符ばかりが浮かんでしまう。


「違う、ブルンタージュだ。あそこはチーズとワインが美味しかったなぁ。アリア、ついでに駆って来てくれ」


「かしこまりました」


 ルミエーラは上機嫌にアリアにお使いを頼むが、どんな場所か検討の付かないトリシャの気持ちが昂ることは無い。


「ブルンタージュってどんな所なんですか?」


「そういえば美味しいお菓子もあった気がするなぁ」


 この人は食べ物の記憶しかないのだろうか。トリシャは必要な情報を得られなくて落胆する。


「食べ物以外は無いんですか?」


「頻繁に行く場所じゃ無いしなぁ。気になるなら後でアリアかアイリスにでも聞いておくといい」


 トリシャは彼女からは必要な情報を聞き出すことはできないと諦めるのであった。彼女の言う通り、後でアリアかアイリスに聞くのが妥当だと言えよう。


 夕食を終え部屋に戻ると、トリシャは明日向かう場所についてアイリスに聞くことにした。


「ブルンタージャだっけ、明日行く場所ってどんな所?」


「また間違えてますよ。ブルンタージュです。古い町並みが綺麗な自然豊かな場所ですよ」


 アイリスはトリシャの間違いを訂正すると質問に対して答える。ルミエーラと違い食べ物以外の情報を聞いたトリシャは、まだ見ぬ地を想像して心が躍る。イベント事の前日の日や旅行の計画段階を楽しむあの感覚に近いだろう。


「どんな場所だろう」


「明日が楽しみですね」


 トリシャの楽しそうな姿を見てアイリスは笑顔になる。


「何か買えるように出かける前にお小遣い貰えるように相談しようかなぁ」


「そんなことしなくともルミエなら買ってくれますよ」


 彼女のなら余程の理由が無い限り何でも買ってくれそうな気さえした。しかし、トリシャは何でも彼女に強請って購入するのは気が引けてしまう。自身の小遣いの中でやりくりをする方が気兼ねしなくて良いと踏んだのだ。


「自分が自由に使えるお金を使いたいじゃん。お手伝いとかしたら貰えるかなぁ」


「そういう事でしたら明日のお使いもお手伝いの内ですよ」


 アイリスの言う事も一理ある。護衛が2人もついて、その肝心のお使いもアリアが担当するはずだ。これがお手伝いの内に入るかどうか分からないが、交渉材料としては使えそうだとトリシャは思う。

 実際の内容よりも形を重視しているのだ。内容はどうあれお小遣いを貰う事が出来るかが重要になってくる。

 明日の外出に備えてトリシャはルミエーラをどう口説くか真剣に考えていた。アイリスの知恵も借りて2人でどうルミエーラを攻略するか考えるのであった。

 まるでいたずらを企てる子供の様にアイリスと秘密のトークを重ねていく。


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