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魔女の従者と永劫の契約と  作者: 華月瑞季
二章 白銀の幼女と母親の愛情と
26/92

24話 『透けた服と濡れた体と』

 翌日も魔法の練習をするために、昨日と同じ森の入り口付近の開けた場所へとやって来ていた。違いは昨日、買い出しへ行っていたアリアが居る事だ。

 アイリスは昨日と同じように、森の入り口で障壁を張っている様だが、アリアはルミエーラの隣の位置に立っている。


「復習がてらに昨日教えた魔法を使ってみろ」


 ルミエーラは腕を組むと目の前にいるトリシャに向かって言い放つ。しかし、決して強い口調ではなく、この様な言い回しは彼女特有のものだろう。

 トリシャは彼女の言葉を聞くと、前日と同じように両手で拳銃を構えるポーズを取る。マナを指先に集め魔方陣を空に描いていく。エメラルドの様に緑色に淡く光る円形の模様を介して魔法を行使する。

 指先から放たれた空気の塊は風を纏い他の空気を押し退けながら突き進む。少しだけ魔法の使い方に馴染んだのか、昨日より飛距離が伸びている気がした。


「よし、昨日教えた事はもうできる様になったな。次は防御魔法を教える。ぶっちゃけこっちが本命だ」


トリシャが教えた魔法を扱える様になった事を確認すると、ルミエーラは何やら地面に描き始める。魔法陣を描いているみたいだが、昨日の魔法陣とは違うものを複数描いていく。


「こんなものかな。こっちが魔法に関する防御術式、こっちが物理系で、そんでこれが精神系になる」


 ルミエーラが指さした魔方陣を見ると、形に差異は感じられなかったが、魔方陣に書かれている文字に違いがあった。


「最終的にこれら3つを組み込んだ術式を覚えてもらうことになるんだが、最初は魔法防御から覚えるか」


もう一度魔方陣に目を通す。円形の模様という点は昨日と同じだか、中央の印が星形になっている。


「真ん中の星ってどういう意味があるんですか?」


「基本的に魔法陣の中心は五芒星になる。宗派によって五光星になったり六芒星になったりするが、私が教えるのは基本五芒星だと思ってくれ」


 この星の名前が五芒星という情報は覚えた方が良さそうだ。


「昨日教えてもらった魔方陣とは何が違うんですか?」


「昨日の魔方陣は属性魔法の中の風魔法。本来なら五芒星に重ねる様に描くところだが、属性魔法を扱う時は五芒星を省略する事の方が多いな」


 少しずつだが、魔方陣の構造を理解出来てきた気がする。これからも魔法を教えてもらう事もあるのだろうから、ただ言われた通りに習うのではなく、頭で理解しながら学ぶ必要がある。


「この防御術式を組み込んだ防御魔法を使いこなせれば並みの魔術師が使う程度の魔法なら楽に防げるだろう。防御魔法は高度な術式を使用すれば高い効果を発揮してくれるが、術者の能力にも大きく左右されるから、昨日の魔法以上に完璧に覚えてもらうぞ」


 ルミエーラから今までは無かった圧力をかけられる。最初に昨日の風魔法より防御魔法の方が本命と言っていた。そのことからも分かる様に、彼女がトリシャに教えたかった魔法は防御魔法なのだ。

 トリシャは気を引き締めて魔方陣に書かれている術式を覚える事にした。まずは地面に術式を書き出してみる。

 【虹彩の羽衣にて魔の法則から我が身を包まん】これが魔方陣に書かれている術式と言っていた部分だ。


「魔法って術式さえ知ってれば、誰でも使えるものなの?」


「術式を知っているだけで使える初心者はいないだろ」


 トリシャの疑問に妥当性のある答えが返ってくる。泳ぎ方が分かれば誰でも泳げるわけではないのと同じで、魔法もただ知っているだけでは使う事は出来ないのは当然といえよう。


「私くらいになれば術式を見ただけで、それなりに使う事は可能だが、少なくともトリシャには無理な話だ」


 ルミエーラがどれほど優れた人かは分からないが、そう簡単に魔法が合うかえない事だけは分かったトリシャであった。


「魔方陣を記憶出来たら実践といこう。アリア、防御しろ」


「かしこまりました」


 ルミエーラはアリアに指示を出すと距離を取る。30メートルといったところだろうか。彼女はアリアの方に向き直ると、何の合図も無く魔方陣を展開するのだった。

 驚くトリシャを余所に、ルミエーラが放った雷撃は真っ直ぐアリアに向かって進むのであった。


「あぶない!」


 トリシャが声をかけた直後、雷撃はアリアに命中してしまった。かに見えたが、アリアは平然とその場に立っていた。


「今のが防御魔法だ」


 驚きのあまりトリシャは言葉を失う。ルミエーラの放った魔法は、確かにアリアに直撃したように見えたが、何事も無かったかのように説明を続ける。


「きちんと起動できれば今くらいの魔法なら簡単に防げる。私初歩的な魔法で攻撃するから防いでみろ」


「ちょ、ちょっと待って! もし直撃でもしたらどうするんですか?」


 平然と続けようとする彼女がトリシャには信じられなかった。いくら簡単に防げるといっても、雷撃を身に受けてしまえば大丈夫では済まされない。見ていた限りでは、スタンガン程度の威力は軽く凌駕されている。

 トリシャは身の危険を感じて抗議するのであった。


「大丈夫、大丈夫。アリアに内側から防御魔法をかけてもらうからさ。万が一、防ぐのを失敗しても多少吹き飛ぶだけだ」


 アリアが守ってくれるなら安心……とはならない。もし、失敗した時のリスクを考えると、やってみようという気にはならなかった。

 失敗したら吹き飛ぶと聞いて、トリシャの顔は青ざめる。


「吹き飛ばされるのも嫌なのですが……」


「しょうがないなー。だったら攻撃に使うのは水魔法にしといてやる。これなら失敗しても濡れるだけだからいいだろ?」


 最初に使う予定だった魔法は恐らく風魔法だろう。となると、火魔法なら燃える、土魔法なら土の塊でも飛んでくるのだろうか? この中で比較的安全と言えるのは濡れるだけで済まされる水魔法なのかもしれない。

 トリシャは消去法でルミエーラの妥協案を受け入れる事にした。


「水魔法で良いので手加減してくださいね」


「任せろ。加減するのは得意ではないが、初級魔法は簡単だから出力の調節も楽にできるだろう」


 彼女の言い回しに少し不安な気持ちになる。それでも、死ぬほどの魔法が飛んでくることは無いだろうと、トリシャは覚悟を決めるのであった。


「では防御魔法を使ってみろ」


 ルミエーラの指示で、トリシャは防御魔法を初めて起動させる事となる。どのような状態になったら成功なのか分からないが、風魔法エアショットと同じ要領で魔法を発動させてみる。


「それじゃ小さすぎだ。全身を包むようなイメージでやってみろ」


 彼女からの指摘を受けると、トリシャは修正に掛かる。そこで魔方陣に書かれていた術式を思い出す。

 術式は【虹彩の羽衣にて魔の法則から我が身を包まん】と書かれている。トリシャは羽衣という単語と包むという単語に注目する。

 ルミエーラが全身を包むと表現していたように、体を布で覆うイメージを持って再び防御魔法を使ってみる。


「良いぞ、その感じだ」


 トリシャからすれば成功しているか失敗しているのかは分からなかった。ルミエーラの言葉を聞き、トリシャは自身の体の変化を確認する。

 一見、何も変化が無い様に感じる。しかし、目を凝らしてよく見ると全身を透明な何かで覆われていた。何故透明なのに覆われていると感じるかといえば、時折虹色に表面が淡く輝くからである。

全身を包む虹彩の羽衣を視認することが出来れば、防御魔法が成功したと言えるだろう。


「それじゃあ、魔法を使って攻撃するから、防護魔法を維持するんだ」


 防御魔法を使えたことに感動しているのも束の間、ルミエーラは攻撃態勢に移る。トリシャが慌てて身構えると、彼女の手から水魔法が放たれるのであった。

 空中に水の塊が出現したかと思えば、その塊が真っ直ぐトリシャ目掛けて飛んでくる。どのような原理で、その様な事象になるのか理解しかねるが、魔法というものはこういう現象を起こすものなのかもしれない。

 トリシャは水の塊を体で受け止めるが、痛みどころか体が濡れる事すらなかった。体に触れる寸前で水が弾け、実際はトリシャに触れる事は無かったのだ。

 防御魔法が及ぼす効果に、トリシャは素直に驚きを露わにする。


「防御魔法の仕組みは分かったか? 残りの魔法も、この調子で覚えてもらうぞ」


 この後、物理防御と精神防御の魔法を覚える。前述したような魔法で攻撃されるようなことは無く、トリシャは合計3つの防御魔法を教え込まれるのだった。


「よし、後はこれら3つの魔方陣を組み込んだ魔術を覚えるだけだな」


 ルミエーラはそう言うと、再び地面に魔方陣を描き始めた。3つの魔方陣が三角形の頂点になる様に描かれた図形は、これまで教えてもらった魔方陣を繋ぎ合わせた形となっている。


「こんなものかな。ちゃんと1つに繋ぐことが出来なければ全ての魔法が起動しないからしっかり覚えるんだぞ」


 トリシャは言われた通りに魔方陣を覚える。ここで三角形の中央に新しい魔方陣が追加されていることに気が付く。


「ねぇ、この中央にある魔方陣は何ですか?」


「ああ、それは防御魔術の強度を上げる式だ。そこに属性を付け加えたり、魔法式を付与したりすれば魔術の各が一段階上がる。まぁそれも後々教えるよ」


 よく見ると、中央の魔方陣は五芒星も魔法式も書かれていなかった。という事は、外枠だけしか無いという事になり、このままでは何の効果も無い事が伺える。

 より、複雑になっても覚えにくいだけなので、素直に今教えてもらった分だけを覚える事にした。


「覚えたら先ほど同様に起動してみろ」


 ルミエーラに促されトリシャは防御魔術を起動させる。術式が複雑になり、起動させるまでに少々時間がかかる。後々はこれも直ぐに起動できるようにならないといけないのだろう。


「よし、じゃあ今度は少し威力を上げた魔法で攻撃するから防いでみろ」


「え?」


 トリシャの抗議を受け付ける暇も無く、ルミエーラはすかさず攻撃態勢に移る。人間1人を軽く呑み込めるほどの水塊にトリシャは畏怖するも、そんな事を気に留めるルミエーラでは無かった。

 水塊が頭上から降りてくると、トリシャは身構える。次の瞬間にはトリシャを包む量の水塊が降り注ぐことになる。


「あれ?」


 ルミエーラは頭に疑問を抱く。自らが教えた防御魔術が起動しなかったからである。


「うわー。びしょ濡れだ」


 トリシャは全身が水浸しになり、身に着けている服も髪の毛も全てが均等に濡れてしまった。体から水が滴り、ブラウスが透けて下着の形や色が浮き彫りになる。ブラウス越しに透けた肌とレースやリボンの付いた水色の下着が、少女の体を艶めかしく色づける。


「術式を見せてみろ」


 ルミエーラはトリシャに近づくと、魔方陣に書かれた術式を確認する。


「魔方陣を繋ぐ術式が少し間違っているな」


「嘘?」


 ルミエーラが指さした個所を見るが違いが分からなかった。すると、トリシャの術式の上からルミエーラが術式を上書きする。よく見ると、一部の文字が形の似ている違う文字に代わっていた。アルファベットでいうところの小文字のdやb、hやnなど形が似ている文字がある。その様な些細なミスが魔術の発動が行えなかった原因になっていたといえよう。


「もう一度攻撃するから今度は間違えるなよ」


 ルミエーラはそう言うと距離をとり、再び攻撃態勢に移る。今度も先ほどと同じ量の水塊が降ってくる事になるが、彼女に術式を訂正されたこともあり、無事に防ぐことが出来た。


「上出来だ、上出来。これで一先ず教えたいことは教えられたかな」


 水塊を防ぐことに成功すると、ルミエーラが再びトリシャに近づいてくる。びしょ濡れになったトリシャは若干の寒さを感じ始める。


「へくしゅ」


 濡れた体が風に晒されたことで体温が急速に下がり始めた。体温が下がったことで寒さを感じたトリシャはくしゃみをする。


「ルミエーラ、このままではトリシャが風邪を引いてしまいます。今日はここまでにして入浴させた方が良いと思います」


 トリシャの体調を心配したアリアがルミエーラに発言する。心配そうな顔をしてルミエーラを見つめるのだ。


「そうだな、防御魔術も一応使える様になった事だし今日はこの辺で辞めとくか」


 彼女はアリアの提案を受け入れる。自身の目的は、ほぼ達成したと言っても良い。これ以上時間を取ってトリシャに体調を崩された方が厄介だと考えた為だ。


「アリア、アイリスを呼んできてくれ」


「かしこまりました」


 ルミエーラに頼まれると、アリアは駆け足でアイリスの元へ赴く。少女の後ろ姿を見やるトリシャは住居へ帰るまでの間、寒さに耐える。

 ルミエーラは彼女に指示を出すと、住居でもある飛行艇を用意する。何もない空間に、突如飛行艇が現れる光景はいつ見ても不思議に感じる。


 アリアとアイリスが側まで来ると、飛行艇へと乗り込むことになる。その際、事情をほとんど知らないアイリスに心配されるのであった。


「トリシャ、どうして濡れているんですか?」


 事情を説明するとアリアは落ち着きを取り戻す。


「それでは直ぐに入浴の準備をしないといけませんね」


 アイリスはトリシャの冷たくなった手を握る。アイリスの手は温かく、触れているのは手だけだったが、全身が温かくなる様な気さえした。

 飛行艇に乗る際に、強い風が吹き、より一層寒さを感じる事になる。トリシャは、まだ濡れて冷えている体を擦りながら寒さに耐えるのであった。


初投稿から1か月が経ちました。


累計PV6000 ユニーク2000を突破する事が出来て嬉しく思います。

ブックマークや評価を入れてくれた方々に感謝です。


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