半人前の
魂魄妖夢は半人前だ。
彼女に剣を教えた師である祖父が教え半ばに消えたのもあるが、妖夢自身の実戦の経験が少ないのもある。
妖夢は半人前だ。ただし忘れてはならない。彼女は祖父が消えてから何もしなかったわけではない。毎日の欠かさない鍛錬は、基礎を徹底的に鍛え上げた。
『後は技だな』
白玉楼にいた元と名乗る男の子はそう言った。
『そしてお前の爺さんの技を、俺は知ってる。まあ本人はまったく覚えてないだろうがな』
男は刀を構えながら言った。
『今からお前に必要な技を教えてやるよ。どうするかはお前が決めろ』
こうして妖夢は技を手に入れ、半人前ではなくなった。
それでもまだ、経験が足りなかった。
「はあああ!!」
気合と共に繰り出された斬撃は、空間を無視して男に迫る。男は斬撃を軽々と撃ち落とし、反撃に巨大な剣を振るう。妖夢は剣をくぐり抜けて一息に男に近づき全力で斬りかかる。
「ほっと」
刀を片手で受け止めた男は、そのまま刀ごと妖夢を地面に放り投げる。
ゴガッ! と巨大なクレーターを作り出しながらも妖夢は斬撃を繰り出す。その瞬間には既に男はそこに存在せず、妖夢の背後に出現した男は横に蹴り飛ばす。
「っ!」
妖夢はわざと勢いを殺さずに飛び、男と距離をとる。
男の声が妙に耳に響いた。
「あのさぁ、いくら何でもお前はない。吸血鬼とか辺りならまだ遊べるか、お前は一番ない」
「・・・・・・・・・・・・」
「帰ってくれねえか?殺すのも面倒だしあいつが怒ってそこから大逆転されるのはかなり困る」
「・・・招魂」
妖夢の呟きと共に半霊が形を変え、妖夢と似た形をとる。
男はため息を吐きながら巨大な剣を振るう。ゴウッ! と空気を切り裂いて迫る剣は、半人前の妖夢では受け止め切れる物ではなかった。
『半人前』なら。
斬ッ! と繰り出した妖夢の斬撃は、巨大な剣を弾くどころかバラバラに斬り裂いた。
「・・・私一人で半人前なら」
妖夢は言う。
「もう半分でようやく、一人前です!」
バキャボキャメキ!と巨大な黒の剣が、音を立てながら煙となり崩れ落ちていった。
男はその光景を間近で見ながら楽しそうだった。
「なるほど、半霊を分身として使うんじゃなくて自身に纏わせたのか」
見れば妖夢の身体は、薄っすらと白く光っていた。
「この状態であれば、貴方に引けをとることもありません」
「なるほどなるほど?」
男は楽しそうに、心底楽しそうに笑みを浮かべる。
「もって五分か?その状態」
「・・・・・」
妖夢は何も言わない。だがその沈黙が全てを語っていた。
「本来離れた物は二度と繋がることはないのに無理矢理繋げてるな。無茶をするねぇ」
斬ッ! と空間を超えた斬撃が繰り出された。男はいつの間にか手に以前よりも更に黒い剣を持っていて、その剣で斬撃を叩き落とした。
「ならば五分以内に貴方を倒せば済むことです!」
その言葉を放った時には、音を置き去りにして妖夢は男の背中に回っていた。
(とった!)
繰り出された斬撃は、男の身体を軽々と斬り裂いた。
無傷の男が妖夢を蹴り落とした。
「うあっ!?」
骨が折れたような音がした。痛みを気合いで制して妖夢は正面から男に斬りかかった。
男の身体が切れた。ゴウッ! と切り傷から炎が噴き出し妖夢を飲み込もうとする。
「っせい!」
妖夢は炎を斬り裂いてもう一度男を斬ろうとする。肉が切れる感触を感じた時には妖夢の背中は切られていた。
血が舞う。人ならば即死する量の血を噴き出しながらも妖夢は戦う。
肉を斬った。無傷の男に斬られた。
炎を斬った。炎から更に炎が噴き出し妖夢は焼かれた。
剣を斬った。黒く巨大な剣は何事もなかったかのように再生して妖夢を斬り裂いた。
それでも戦う。戦い続ける。
「妖夢! おいどうした妖夢!?」
妖夢は空中で石にでもなったかのように動かなくなっていた。巨大な剣を斬ったと思ったら、妖夢はピクリとも動かなくなった。
「馬鹿だなー。普通の武器で心を斬るなんてな」
そう言う男の顔は、とても苦しそうだった。心を斬られた反動かもしれない。
朔はサタンに向かって吠える。
「何をした!?」
「幻術みたいなものだ。剣を斬られた時に溢れた心に少しだけ指向性を与えただけのな。ああそうそう早く何とかしないと五分で死ぬぞそこの半人半霊」
「っ!」
朔は妖夢に近づいてその手を握り、一万分の一に減速させる。サタンはニヤニヤとその光景を見ているだけだ。
「『おいおい、いいのか?』『そのままだと俺様にやられちゃうぞ?』『ははっ、僕にその力なしで勝てるだなんて』『思っているのかしら?』『だとすれば私はどうするべきですかね?』『もう、放置で、よく、ない?』『だめです。障害は排除せねばなりません』」
「・・・?」
そこにいるのは一人の男だ。なのにその声にはまったく別の人の存在が入り混じっているように感じた。
「『おいてめえら、混乱しちまってるじゃねーか』『あらあらまあまあ、ごめんなさいね騒がしくて』『ごめん、ね』『何故皆さんはこれから殺す相手に謝るのか理解不能です』『どんな相手にも礼儀を怠ってはいけません』『そんなものなのかな?』お前ら一回下がれよもう!」
ふっと、別の存在が消えた。
(いや、引っ込んだのか・・・?)
「多重人格者?」
「説明する必要はねえな」
ブン!と大剣を一振りし、朔に向けてくる。
「さーて、そろそろ終わりにしよう。こっちも心ぶった斬られて疲れてんだ」
「・・・もうちょっと遊ぼうぜ」
「『『『『『『断る』』』』』』」
七つの声が朔の耳に届くより早く、大剣は振り下ろされた。




