思惑
凄まじい衝撃と共に朔は宙を飛んだ。
「っが!?」
「・・・あら? あれれ?」
サタンは不思議そうにしながら剣を何回か振るう。その度に首を傾げている。
「おいおい、誰だよ止めた奴は? あーあー口々に喋るな頭が痛いから‼︎」
「くっ、そ」
吹き飛ばされたものの、朔はまだ妖夢の手を握っていた。その事実にほっとし、そんな場合じゃないと身構える。
サタンは何かブツブツ呟くだけで何もしない。
(・・・いけるか?)
知らず知らずに手元に刀を呼び戻して思う。今ならいけるか? と。
妖夢から手を放して全力で斬りにかかろうとした、その時呟きが聞こえた。
「駄目だ、一度分解しよう」
バギィ! という音と共に剣が七つに割れた。それらの剣の破片は形を変え、七つの破片は七つの色の剣へと変わった。サタンは黄色の剣を取りながら言う。
「うーん?結局誰だよ止めた奴」
「さあな。案外誰もとめねーんじゃねえのか?」
二つ目の声が、黒の剣から響いた
「ぼく、ちがう、よ?」「私も違います。そもそも止める理由がありません」
「私も同じです。まあ予想はできましたが」「まあね」「そうですわね」
それぞれの剣から声が音の形で飛んできた。明らかに剣が喋っている。剣の色は赤、黄色、空色に青紫、橙色、白と黒だ。
「おーお、不思議そうだな。どういうことなのか知りたいか?」
「・・・・そうだな、せっかくだから教えてもらいところだ」
時間を稼ぎながら情報を手に入れようとした。ここで死ぬわけにはいかないからだ。だが。
「嫌だね!」
青紫の剣から少年のような声が出て、高速で剣が飛んできた。
「っ!」
「何だってお前みたいな奴にわざわざ教えなきゃいけないんだよ。死ねばーか!」
「おいおいおいおい!! 殺すな殺すな!」
青紫の剣は朔の前の地面に突き刺さっていた。サタンは慌てて青紫の剣を引っこ抜く。
「まだそいつは使えるから! 殺すのは後から決めるから!」
「一応先読みして断ると言っておこう」
「いやいや断るなよ! そしてこら暴れんなよ!」
ギャーギャーと場違いに騒いでいるが、これは勝利を確信しているからの余裕だろう、と朔は思う。
(さて、と・・・・)
ずっと手を握ったままの妖夢を見る。人形か何かのように動かない妖夢を見ながら考える。
(いまいち理屈がわからないけど、心で云々言ってたからこれもこいつでどうにかできるのか?)
まだ手放していない刀を知らず知らずに強く握っていた。
(問題は片方だけてどうにかなるのか、だな。必要ならもう片方拾わないといけないんだが・・・どこだよ?)
「んじゃ、少しばかり雑談しようか。お前だって気になるんじゃないのか?」
向こうで何か話し合いでもあったのか剣は喋らす静かに黙っている。朔は言う。
「・・・そうだな。人のこと殺そうとしておいて殺すなとか言う奴の話を聞いてみたいものだ」
「それも言ってやるよ。んでもって全部聞いた上で判断しろ」
「何を」
「・・・・仲間になるかならないかを」
霧雨魔理沙は里の近くを飛んでいた。
「誰だよあんな所に穴あけたの・・・」
魔理沙の視線の先には塔があり、その根元には大きな穴が空いている。ただの穴ではなく、空間の穴だ。妖精が中に入って地面から出てきたり上から落ちてきたりしている。
「あの穴が塔の中に繋がってるわけじゃなさそうだな。誰かがぶち抜いただけか?」
とはいえ、あんな面白そうな物を放っておくわけがない。魔理沙は妖精を吹き飛ばして穴を独占しようとして、
「・・・?」
ふと、何かを感じた。それは声のような物で、上から伝うようにやってきていた。
顔を上げる。そこに広がるのは星の海。そしてその中に、異物が混じっていた。
それは人の形をしていた。ただ人の形をしているだけで、それは人ではなかった。
「こんばんは、魔法使いさん」
声で判断するならば、まだ十歳程度なのだろう。だが言葉の重みが違う。
魔理沙は警戒しつつも尋ねる。
「誰だよあんた」
「月読。何者かは自分で調べてね」
「・・・おいおい随分大物だな。夜の神様か?」
「正確には月だけど、大差はないよ。夜の世界で最も輝くのは、月だからね」
「その月、今は出てないぜ」
夜空には星々が輝く中、月だけは完全に消えている。それを指摘すると月読は困ったように言う。
「だから何とかしてもらいたいんだよ。人間である貴女に」
「神様の関係の話は良い記憶がないからお断りしたいところだな」
「それについてはどんまいと信じてしか言えない。もちろん報酬は払うよ」
報酬、という言葉に明らかに目の色が変わり出す魔理沙。何かブツブツと「神様か・・・・何か貴重な魔法道具を貰えるか・・・・?」とか呟いている。
しばらくブツブツ言って数分、魔理沙は顔を上げて言う。
「わかった。その仕事、引き受けてやるぜ!」
「助かったよ。ようやくこれで世界が進む」
「は? 世界?」
「こっちの話こっちの話」
ふわりと人の形が魔理沙に近づく。その見た目は、声と同じく十歳程度の男の子だった。
月読は笑って囁く。
「じゃ、まずは力を与えるところから始めようか」




