月のない夜
「随分やられたんだね」
店の店主、森近霖之助は自分と同じ服を着た二人の少女に話しかける。
黒髪に大きな赤いリボンをつけた少女、博麗霊夢は言い訳のように言う。
「あんなのノーカンよ! そもそもスペルカードルールじゃなかったんだから!」
それに重ねて金髪の少女、魔理沙も言う。
「そうだそうだ! 弾幕勝負なら負けやしないぜ!」
「二人とも、言ってて悲しくない?」
うっ、と二人揃って黙り込む。
霖之助は二人の着ていた服を直しながら言う。
「まぁ幻想郷のルールを守らなかったならそのうち八雲紫が制裁にいくだろうし、余り気にしない方がいいと思うよ」
「・・・そうもいかないのよ」
霊夢は珍しく深刻そうな顔をしている。霖之助も魔理沙もそんな霊夢を見て思う。
((まさか偽物!?))
二人に気づかず霊夢は続ける。
「あいつ、私の『夢想天生』を打ち破ったのよ」
「え?」
『夢想天生』、霊夢の使うスペルカードの中では最強クラスのスペルだ。
色々と究極奥義で霊夢はありとあらゆるものから宙に浮き無敵となる。
もしこれが遊び(時間制限付き)でなければ、誰も勝つ事が出来ないと言われるほどのだ。
「しかも相手がルール無視ならこっちもやってやるって感じで時間制限なしよ」
それを打ち破った。つまり無敵のはずの霊夢に攻撃を当てたのだ。
霖之助は手元に目をやる。赤い巫女服はボロボロに焼けている他に、切られたような部分があった。
「あいつが出す炎も全部効かないから余裕ぶっこいてたらこれよ。良くわからない黒い剣で攻撃されて、このざまよ」
「おいおい霊夢がこれじゃあ幻想郷で勝てる奴いないんじゃないか?」
「だめだったら紫の奴月にでも送るんじゃないの?」
雑談する二人を見て、霖之助は呆れていた。
(なんでこの二人はそんなに気楽に出来るんだか)
チラリと店の奥を見る。
(最悪、八雲紫にあれを渡す必要があるかな)
そんなことを思いながら、そうならないようにとも祈りながら霖之助はせっせと仕事をしようとする。
「ねぇ霖之助さん」
「どうかしたかい霊夢」
「昨日って新月だったわよね?」
「そうだね」
霖之助は聞き流しながら手を動かす。そのため聞き逃しそうになった。
「・・・じゃあ何で今日も月が出てないのかしら?」
空には星々が光る中、一部が黒く塗りつぶされていた。
「なーんか静かだと思ったらそういうことか」
永遠亭の庭で朔は一人納得する。
朔の頭には月の輝きに比例して月から命令が飛んできていた。昨日が新月、今日は少しは月が輝いているはずだった。
しかし空には綺麗な星空があるだけで月はどこにもなかった。
「これが異変か? だが月を隠してメリットのある奴なんて俺くらいだろ」
とはいえ考えても出ないものはあまり考えない。さっき起きたばかりだがもう一度寝よう。
そう思った朔は部屋に戻ろうとする。
その時風が吹き、桜が舞った。
「・・・は?」
ここは竹林の中で、桜なんてどこにもない。
なのに、何故桜が舞っている?
「こんばんは」
朔の後ろにいつの間にか緑髪の男が立っていた。
その存在を認識した時、分かってしまった。
違う、何かが違う。
人の形をしているのに、妖怪でも人間でもない。何かが完全に違っている。
動揺を隠して、男に向き直る。
「誰だあんた」
「ん? 俺の名前か。竜峰流だよろしく」
「何しに来た」
「・・なんでそんなに警戒するんだよ。俺が何をしたってんだ」
やれやれと溜息を吐きながら男は続ける。
「現状を確認しに来ただけなのによー。ったくどいつもこいつも・・・」
ブツブツと文句を言っているのを見るだけだと普通の人なのだが、とてもそうとは思えない空気を放っていた。
「もういいよ確認できたし聞きたくないかもしれないけど助言もしてやる」
「助言?」
「・・・すまん、やっぱ無理だ」
「なんでだよ」
「だって」
スッと流は後ろを指差して言った。
「『魔王』が来ちまった」
轟ッ! と火柱が上がり、怒りを含んだ声が聞こえた。
「みぃぃつけたぁぁぁ!!!」
更に一つ火柱が上がった。
「さあ! 死ねない身体を恨めや! やごころぉぉぉ!!!」
火柱が蛇のようにうねり、朔に襲いかかった。




