生への執着
ギィン! と鉄を削る音が鳴り響く。
続いて来た刀も滑らせるようにして受け流す。
既にこんなやり取りも数十回やっていた。妖夢のとてつもなく早い斬撃を朔は自身を二十倍まで加速させて弾き、受け流す。
「はぁ・・ぜーはー・・・・」
自身を二十倍に加速させるということは、使う体力も二十倍に増えているのだ。当然そんなに体力が持つはずもない。
(くそっ! 何かないか、この状況を打破できる方法が!)
白と黒がぶつかり、朔は刀を受け止めてしまった。
「まっず!?」
半人半霊と力比べをしても、人間である朔が勝てるわけもなく、ボールのように吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。
「かはっ!」
内臓が潰れるような錯覚が朔を襲う。目の前には既に妖夢が二本の刀を高く振りかぶっていた。
「っそが!」
横に転がり刀を避けて立ち上がる。妖夢は地面に食い込んだ刀を引き抜きこちらへ向き直る。
「おいおい妖夢! 殺害云々にしてもちと早くないか!? まだ夜明けには早いぞ!!」
「・・・・・」
妖夢は何も言わない、語らない。ただその紅い瞳は朔を捉え続けていた。
「っ、そろそろこっちも攻めさせて・・?」
ガクッと、突然身体に力が入らなくなる。
「!? まさか自分でも気づかないくらい限界が来てたのか!?」
妖夢は動かない朔にゆっくりと近づいてくる。朔は必死に身体を動かそうとするがまるでいうことを聞かない。
妖夢が黒い刀をゆっくりと振り上げる。
(・・ま、いっか)
わけもわからず死ぬが、どうせ死んでも生きてても結果は変わらないのだろう。
(なんかあったなら紫さんが何とかするだろ)
そう思うとなんだか随分と楽になった気がした。実際は現実逃避に近いものなのだが本人が気付くことはない。
刀が振り下ろされるのを、しっかりとその眼で見た。
『おう、じゃなくて約束してください! 生に執着すると! 簡単に死を受け入れないと!』
「っ!?」
ガギン! と黒と黒がぶつかった。
朔は何もしていない。なのに朔の刀が勝手に動き、妖夢の斬撃を受け止めたのだ。
「・・・はぁ、めんどうな」
黒一色の刀には、白い桜の装飾が施されていた。刀をしっかりと握りしめ。
「だぁぁら!!」
気合と共に振るい、妖夢を吹き飛ばす。
「・・・ま、約束したもんな。せいぜい執着させてもらいますよっと」
黒の刀と白の刀を、強く握り締める。
(・・・さて、どうしよ)
身体は自由に動く。だからといって状況が好転したわけではない。結局普通の人間の身体で勝つのは難しいのだ。
と、ここでなぜか、昔紫に教えられた創作物の内容を思い出す。
(いや、普通に駄目だろ)
失敗すれば確実に死ぬし、何より恥ずかしい。かといってそれ以外思いつかないし危険になったからってやったら意味がないのだ。
(・・・ええい! 何でもいいやくそったれ!!)
覚悟を決めて構え、突撃する。
二本の刀を高く振り上げると妖夢もそれを受け止めるように刀を水平に構えていた。
朔はその二本の刀を、振り上げる勢いのまま投げ捨て、肉体を加速させ一気に妖夢に近づいた。
「!」
妖夢が朔を斬るべく刀を構え直そうとするが、間に合わない。
朔は妖夢に腕を伸ばし、
そのまま『抱き寄せた』
「・・・よーしよし。怖くなーい怖くない。大丈夫だ」
朔は妖夢の頭を優しく撫でながらそう言ってやる。
ただし妖夢には見えないが朔の顔はなんとも言えない顔になっていた。心臓もばくばく鳴っている。
(・・・やっぱやらない方が良かった! 恥ずいよこれ! てかこれで死んだらやばい!?)
からん、と何かが地面に落ちた音がした。見ると妖夢の手から刀がなくなっていた。
「お、おお?」
(うまくいった、んだよな?)
「・・・・ひっく」
「え?」
しゃくりあげる声が聞こえた。いつの間にか妖夢も朔の背中に手を回して、泣いていた。
「ひっく・・・うぁぁ・・・ 」
「・・・なんか良く分からんが、大丈夫だ。俺はお前の味方だからさ」
ついにはわんわん泣き出した妖夢に、朔はずっと頭を撫でていた。




