普通の人
朝目が覚めると一番に感じたのは音だ。上の方から音がする。
妖夢は素早く着替えを済ませようとして、なんで自分はここで寝てたのかを思い出しかけた。
それを振り払い自身の武器、『白楼剣』と『楼観剣』を持ち外に出る。
一見して周りの風景には変化はない。ただ上の方で二つの霊力を持つ何かが動き回っているのが分かった。
「妖精ではないんですかね・・っ!」
独り言を呟き上を向こうとした瞬間、ゾッとするほどの膨大な霊力を感じ取り、その場に倒れそうになる。
楼観剣と白楼剣を引き抜き、杖代わりにして立ち上がり、今度こそ上を見た。
「いっつあぁぁぁぁっっっっ!!!」
上、空から朔が叫びながら落ちてくるのが見えた。
「朔さん!?」
驚きながらも半霊を落下地点に移動させてクッション代わりにする。
受け止めれるか少々不安だったが、何とか受け止めることができた。
「よ、妖夢ありがとな」
「朔さんどうしたのですか!?」
「いやー悪い悪いうっかり本気出しちまった」
空から昨日見た男が降りてくる。
妖夢は男に向かって怒鳴るに近い声を出す。
「誰ですか貴方は! 何でもない一般人にあんなバカみたいな力を使うなんて、貴方は朔さんを殺すつもりですか!?」
男は不敵な笑みを浮かべて言う。
「・・・だったらどうする」
「決まっています。貴方を排除させていただきます!」
「おーい妖夢? なんかおかしな話になって・・・」
「いいぜやってみろ半人半霊!」
「おい!?」
朔が何か言っていたが、集中した妖夢の耳にはもう届いていなかった。
隠すつもりもない殺気が空気を満たす。男は余裕のつもりなのか構えすらとらない。
ならばそのまま死ぬがいい。
「はぁっ!」
低く高速で一気に男の前に飛び、男の首に向かって楼観剣を振るう。
ガキンッ! と何かに楼観剣が弾かれた。
何かが動いたのは分かった。だが何をしたのかは理解できない。
「どうした? 半人前」
「っ!まだまだ!!」
妖夢は二本の刀を存分に使った乱舞を開始する。
嵐の如き斬撃は、それでも男の何かによって全て的確に防がれ続ける。
「はぁぁっ!」
自身の力を振り絞るように叫び、己の武器を振るい続ける。更に、もっと速く。
「むっ」
見えてきた。男の持つ武器が。
男は腰に下げた刀を使い、高速で攻撃を弾き鞘に戻していたのだ。
ついに見えた。鞘に戻す暇など、与えない
「魂符『幽明の苦輪』!」
妖夢の周りを漂っていた半霊が形を変え、二本の刀のような物を持つ人となる。
「はぁっ!」
上から斬る、と見せかけて後ろに回り込む。男が妖夢に気を取られていると後ろから半霊が襲いかかり、防いだ所に合わせて妖夢も斬撃を入れる。
「ちっ!」
男の手には更にもう一振りの刀が現れていた。二本の刀を使って四本の刀を防ごうとする。
妖夢はここを好機だと思い、半霊と同時に攻撃を繰り出す。
ガガガガガガッ! と刀と刀がぶつかり合ってるとは思えない音を鳴らす。
半霊と合わせ、完璧に同じタイミングで斬撃を与える。
「はぁぁぁっっ!!」
二本は防がれた。残りの二本は防がれることなく男の身体に吸い込まれるように動いていく。
勝った。と妖夢が確信した瞬間、男が呟いた。
「術式解放」
男の身体を切り裂く手前で、莫大な霊力が男から生じた。
「っっ!?」
霊力は津波のような勢いで刀を弾き飛ばし、その勢いで妖夢も勢い良く吹き飛ぶ。
急いで立ち上がろうとした妖夢の前には、刀を振り上げる男がいた。
妖夢は動くこともできず、男の刀が大地を切り裂く勢いで振り下ろされた。
ガキャン! と男が振り下ろした刀が、とんでもない速度で振られた漆黒の刀によって弾き飛ばされた。
「おい元! 今思いっきり殺すつもりでやったろ!?」
刀の持ち主は、朔だった。
元と呼ばれた男は苦笑いを浮かべながら言う。
「すまんすまん。ついムキになっちまった」
「その勢いで殺すな! ・・・ほら妖夢立てるか?」
朔は言いながら妖夢に手を差し伸べる。ただ妖夢にとってそれどころではなかった。
「朔さん、貴方は・・・・」
「うん?」
その先は、口にはしたくなかった。口にしてしまえば、どうしようもなくなる気がしたから。
「・・・いえ、大丈夫です自分で立てます」
妖夢は朔の手を取らず自分で立ち上がる。
朔が元と呼んだ男の何やら文句を言っていたが、妖夢の中にある声は一つだけだった。
声にならない声で妖夢は呟く。
「・・・朔さんの、殺害」
男の視線が、妙に気になった。




