運命
ゆっくりと時間が流れていく。
少女が倒れていくのを、朔は妙にスローモーションに見えていた。
少女が倒れ、背中にナイフが刺さっていることに、朔はすぐに気付いた。
「ご無事で何よりです」
そんな声が聞こえてきた。
朔は、この声を聞いたことがあった。吸血鬼の館で、ナイフを投げ飛ばして来たメイド。
だが、朔の頭には別の情報が出てきていた。
「・・・プロトか」
朔は十六夜咲夜を睨みつける。その言葉を聞いて咲夜は少し驚いたような顔を見せた。
「記憶が戻られたのですか?」
記憶、というよりは情報に近かった。
朔は流れ込んで来た情報と目の前の情報を照らし合わせる。
見た目は少し変わっているが、情報はほぼ一致していた。
「ま、ちょっとだけだがな」
「それでも良かったではありませんか。自分を取り戻すきっかけが出来たのですから」
咲夜は少女に近づき、ナイフを引き抜く。
少女の身体は空気に溶けるように消え、白い桜の花びらのような物が散った。
「そっちは記憶があるのか?『切り裂きジャック』さん?」
「もちろんです。それとその名で呼ばないでもらえますか」
一瞬、とても怖い顔になったが、すぐに真面目な顔つきになる。
「貴方、お嬢様に仕えませんか?」
「はぁ?」
何の冗談だ、とでも言わんばかりに朔は笑って言う。
「なんだって吸血鬼の所で働かないといけないんだ」
「お嬢様の側にいれば、貴方は『運命』から逃れられる」
笑みが消えた。
「お嬢様の側にいれば、月からの情報に惑わされることはなくなります。何よりお嬢様に仕えることはそれなりに楽しいです。少し無茶振りをされますが」
咲夜の言葉に、朔は納得したような顔をする。
「それが、お前があの吸血鬼に仕える理由か」
「すぐに決めろとは言いません。ですが・・・」
「断る」
きっぱりと、朔は咲夜の誘いを断る。
咲夜は信じられないとでも言うような顔を一瞬した。だがすぐに真面目な顔になる。
「・・・気が変わった時は、いつでも来てください。私からお嬢様に進言致しますので」
その言葉が終わったと同時に、咲夜は最初からそこにいなかったかのように姿を消した。
朔も帰ろうと足を動かそうとして、気付いた。
どうやって帰ると?
「・・・・」
自身の状態を確認する。骨は幾つかやられ、足からは血が凄い勢いで溢れている。
それを頭が認識すると、身体が動かなくなり、意識を失った。
「おめでとう」
パチパチと拍手をされるが、嬉しくもなんともなかった。
黒一色の世界で、朔は元と対面していた。
疑問を元にぶつける。
「なにがおめでとうだ? 今さっき身体がボロボロで倒れて死にそうになってるんだが」
「だからこそおめでとうなんだよ。これでようやく世界は新たなステージに進んだ」
「は?」
「いやー。お兄さん嬉しいから今ならだいたいの事は教えちゃうぞー。なにが知りたい?」
本当に機嫌が良いようだ。朔はそんな言動を見て苦笑いする。
「お兄さんにまずツッコミを入れたいが・・・まぁいいや。じゃあ質問」
「どうぞー」
「彼女は何者だったんだ? あの銃もわからないし」
「あいつは幽霊だ。魂が集まり身体が構築された結果奴が生まれた。銃は貰い物だ」
「だれから貰った」
「それは知らない。その世界は観測てないんだ」
みてないの言葉に少し違和感を感じたが、話を戻す。
「俺はどうするべきだ」
「・・・それはお前が決めることだ。その意思こそが人間の力なのだから」
「・・・俺は何者なんだ」
「月人に誘拐された被害者。その後『博士』に改造され、八意を殺すために地上に送られた。そこはお前も知ってるだろ?」
「・・・今のところ後は何も思いつかん」
なぜだか意識が薄れていく。現実世界で目を覚まそうとしてるのか。
何やら浮遊感と落下感に包まれて来た中、元はふと思い出したかのように言う。
「最後に一つ言っておく。もうすぐ『異変』が起きる。『異変』が起きた時、お前は選択しなければならない」
世界が白く染まり、弾けた。
・・・平穏か、復讐を。




