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人里にて

 人間の里にも、春が来たようだ。

 桜は綺麗に咲き、人々にも活気が溢れている。

「さて、・・・一人だと帰り面倒なんだがなー」

 朔は里に布団を買いに来たわけだが一人で布団を担いで妖怪だらけの道を行くのは中々疲れるのだ。そのため妖夢を連れて行こうとおもったのだが、今朝の一件のせいでできなくなったのだ。

「む?久しいな朔」

 里を歩く朔に声がかけられた。朔に声をかける人はかなり限られているためすぐに誰かがわかった。

「慧音さんこんにちは。秋の祭り以来ですね」

 腰まで届こうかというまで長い、青のメッシュが入った銀髪。頭には頂に赤いリボンをつけた奇妙な形をした帽子を被っている。

 青い服の胸元には赤いリボンがあり、下半身のスカート部分には幾重にも重なった白のレースがついている。

 上白沢慧音、里で寺子屋で教鞭を振るう獣人だ

「半年か、里に来る時には顔を見せにくればいいものを」

「あまり里に居たくないというのが本音です。やっぱり外来人ですからね」

 と、そこでふと昨夜のことを思い出す。

「慧音さん、八岐大蛇って知ってますか?」

「八岐大蛇? 知ってはいるが・・・」

 慧音は苦笑い気味に言うが、朔はどうもわかってないようだ。

「まあ私が教えるよりは稗田家のを見た方が分かりやすくて良いだろう。今から行くか? ちょうど暇を持て余していたんだ」

「お願いします」

「しかしどうして八岐大蛇なんだ? もしかして八岐大蛇を酔い潰した酒でも欲しいのか?」

「まさか、酒はあまり飲みたくないですよ。ただ少し気になるだけです」

「そうか、まあとにかく行こうか」

 朔は慧音の後ろを付いていく。歩いていると里の人間が元気良く慧音に挨拶をし、慧音はその度に立ち止まり挨拶を返す。

 そうして歩いてしばらく、大きな屋敷に着いた。おそらく里で一番大きい。

「少し待っていてくれ、阿求と話してくる」

 と言って慧音は屋敷へと入っていく。少し待つと慧音はすぐ戻ってきた。

「大丈夫だそうだ。それと私は少し用事できたから失礼する。途中で放り出すようで申し訳ない」

「いえ、ありがとうございました慧音さん」

 慧音に一礼して屋敷に入る。慧音はそれを見届けてから屋敷を離れて行った。



「こちらの資料は貴重なので丁寧に扱ってください」

「どうもありがとうございます」

 大きな部屋に机が一つ、その上に幾つかかの本があるだけの寂しい部屋で朔は少女と向かい合う。

 少女は若草色の長着の上に袖の部分に花が描かれた黄色の着物に赤いスカートを着ている。髪は紫のセミロングで花の髪飾りをつけている。

「あの、阿求さん?」

 朔が渡された本を見ながら少女、阿求に話しかける。

「なんですか?」

 言いながら阿求は覗き込み、苦笑して察する。

「お酒の記述が多いのは気にしないでください、ちゃんと書いてはありますから」

 と言っているが本には八岐大蛇を酔い潰した酒の記述ばかりだった。

 それでも頑張って探しても大したことは書いていない。酒のことばかり書かれている。

「・・・これ書いた人どれだけ酒好きなんだよ」

「あははは・・・」

 他にはもう八岐大蛇は須佐男という神に倒されているのと、尻尾から剣が出た程度しか書かれていなかった。

「しかしなんで八岐大蛇なんか調べるんですか?」

「ちょっと、まあ色々と。しかしまともな情報がなかった・・・」

 疲れたように朔は机に突っ伏す。そこに男の声がかかった。

「そりゃあ記録なんざ勝者が作るもんだし、あの駄々っ子がまともな記録作れるわけねえだろ」

 昨日聞いたばかりの声だった。

「本人来ちゃったよ・・・」

「へ? いつの間にここに・・」

 高篠たかしのげんと名乗った男はいつの間にか部屋へと入って来ていた。ただし分厚く重そうな本を腕いっぱいに持った状態で。

「何してんのお前」

「運び屋?」

 朔が問いかけると元はそう答える。何故か疑問形だった。

 元はマントを着けず、代わりに少し緑を混ぜたような色をした袴を着用している。更に腰に一本の刀を下げている。以前は気にしなかったが髪の色は濃い紫色だ。

 その後ろから少女が顔を出して言う。

「阿求が来なかったから大変だったわよ」

 少女は飴色の髪を鈴がついた髪留めでツインテールにしている。 服装は紅色と薄紅色の市松模様の着物を着て、スカートは若草色で、クリーム色のフリルエプロンをその上から身につけている。

「あ、ごめん忘れてたわ」

「あーきゅーう? ここまで持ってくるのどれだけ大変か分かってる?この人が助けてくれたからいいものを」

「ごめんごめん」

 二人が親しげに話している横で二人も会話している。

「何で普通にいるんだよお前は?」

「里の蕎麦美味しいじゃん? それ食べてさあ帰ろうとしたら危ない本をよいしょよいしょで運んでる女の子がいたら助けるに決まってるでしょ」

「いや、そうじゃねぇだろ・・・」

「それ以外に何が?」

 元は『他に何かあったっけ?』と言いたげな顔で朔を見ている。その顔を見た朔は諦めたような悟ったような顔になった。

「それでは俺たちはお暇しますかね」

 と元は言いながら朔の腕を掴み部屋から出ようとする。突然引っ張られた上に凄い力で引っ張られた朔は抵抗する事も出来ずに部屋から連れ出さた。

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