星太:彼が眼帯ウサ吉になった理由
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肝試し大会前の星太の話です。
*25話を読み済みならより分かる内容だと思います。
肝試し大会まであと三日。
ボク達は衣装をどれにするかで二人してうんうんと悩んでいた。
「うーん、眼帯ウサ吉もいいけど猫耳も捨てがたい……」
特別棟のお化け役はあみだクジで決定された。ボク達が引いたのは眼帯ウサ吉の着ぐるみと猫耳の二つだった。眼帯ウサ吉は見た目が可愛いし、猫耳はそれでまた触り心地が良さそうで付けてみたい。
どうせ顔は同じなのでどちらがどちらを着ても構わないのだが、先に着たい物を決めたのは晃太の方だった。
「決めた。ボク猫耳にする!」
「どうして?」
ボクはまだどちらにするか決めかねていた。欲しい物が決まるのはいつも兄の晃太の方が少しだけ早い。
「眼帯ウサ吉だと誰が中にいるか分かんないでしょ? アイリちゃんなら声を出したら分かるだろうけど、あの子はどうだか分かんないし……。どうせならぱっと見で分かる方がいいよね」
また出た。晃太は話の中で時々「あの子」の話題を出す。誰とまでは教えてくれないけど、当てはなんとなくついている。
二つ括りのお下げに黒いリボンが可愛いあの子なんだとボクは思っている。あの子の何がそんなに気に入ったのか、晃太は自分だけのお気に入りを見つけたとウキウキしているのが分かった。
晃太が猫耳を選んだので、自動的にボクが眼帯ウサ吉を着ることが決定した。
特にどちらが着たいとは決めていなかったので文句はなかった。
夜、風呂あがりにママと廊下ですれ違う。
電気をつけていなかったので、ママはボクを「晃太」と呼んだ。
「星太だよ、ママ」
母親でさえ暗いところにいるとボク達を間違える。
(アイリちゃんなら……)
彼女はボク達の区別が完璧につくらしい。これまで、どんなときであっても間違えたことはなかった。
この間、「星太先輩は晃太先輩の影なんかじゃないですよ」と言われたな、と思い出す。
(じゃあ、影じゃないボクってなんなんだろう……)
ボクらは二人で一つ。晃太であろうが星太であろうが、二人でそろっていれば喜ばれた。アイリちゃんには違って見えるようだけど、ボクには何がどう違うのか境界線がよく分からない。多少の好みの違いなんかはあるけれど、みんなにはさして違うことだと認識されてはいないし、実際にボクもそう思っていた。大して違わないことは同一であることと同じだ。
「ごめんねセータ。暗かったからコータかと思っちゃった」
そう言ってママはボクにおやすみのキスを送る。
「セータ。ワタシのヒカリ」
十数年もの間日本で暮らしているけど、ママの日本語はまだまだ拙い。その拙い日本語で、彼女はボク達に向かっていつも「あなた達はワタシのヒカリ」と口づける。
(光は晃太でしょ? だって彼には太陽の名前が付いている。ボクは昼の裏側の夜の名前だから、やっぱりボクは影なんだよ……)
「おやすみ、ママ」
ボクも頬に口づけてあいさつを交わす。
肝試し大会は夜だけど、どうせなら晴れればいいなと思った。晴れれば夜空に星が出る。そうなれば暗い夜でも少しは明るい。
「おやすみ、セータ。愛しているわ。ワタシのヒカリ」
ママはもう一度繰り返して言った。