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BLACK D●T  作者: 笹舟
●あがり、それから。
79/87

結果

 

 *


 昼過ぎには雨は上がっていた。結局、持ってきた傘は使わずに済むようだ。

 雨に降られると苛立つけど、傘を持ってきたことが無駄だったと思うと、それはそれで苛立つ。自分勝手だとは思うけど、本心だから仕方が無い。

 


 放課後になって生徒会室を訪れると、その場に中谷会長の姿は無かった。


「今日って、生徒会の集まりがあるんですよね」

 椅子に座って、何か図のようなものを書いていた水内さんに確認をする。

 生徒会室で一人その作業をしていた水内さんは、私に対して詳しく説明をしてくれた。

「はい。今度の弁論大会の投票方法を変更して欲しいという要請が出ましたので、その件についての話し合いをすることになっています」

 首を傾げてどうかされましたかと尋ねられ、私が答えようとしたとき、とんとんと肩を叩かれた。振り返ると、笑顔の矢面さんに頬を指で突かれる。


「いらっしゃーい。どうしたの?」

「中谷会長に、少し用事が」

「あ、アイツなら、さっき帰る準備してたわよ? 滝長に言われてねー」


 矢面さんの答えに目をしばたく。

 滝長副会長が、何を言って?


「何やったんだか、足を腫らしててねぇ。本人は『名誉の負傷』とかって言ってたけど。まぁそれで、お目付け役様が眉を寄せて帰れって言って、歩いて帰ろうとする馬鹿に迎えを呼べって命じて。此処からでも見えるんじゃないかしらー?」


 そう言いながら、矢面さんは窓へと近づいていった。私もそれに続く。

 生徒会室の窓からは入り門がよく見える。その門の前に、白の軽トラックが一台止まっていた。そして、それに向かって歩いている男子生徒が二人。

 一人は明らかに不自然な歩き方をしていて、もう一人は彼の荷物であるスポーツバックを代わりに持っていた。

 

 背中に、さぁっと冷たいものがはしった。


「どうする? 此処から声かける?」

「……いえ、いいです」


 かろうじて返答は出来たけど、私の頭は何も考えられなかった。

 隣で矢面さんが窓を大きく開けているのも、意識の隅にしか浮かばない。


「なぁーかたにぃー。これから居残って難題に頭を悩ませる私たちのことなんてサッパリ忘れてぇー、まぁせいぜいお大事にねぇーっ?」


 窓から半身乗り出して大声で叫ぶ矢面さんに、屋外に居た生徒のほとんどが何事かと振り返る。

 そんな中で、ゆったりとマイペースに「全力で刺してくるねぇー」と手を振り返しながら笑っている中谷会長が見えた。

 その表情がふと驚いたようなものに変わり、


「笠見さん、ばいばーい!」


 すぐにいつものニッとした笑みへと戻った。


 そうか、さっき驚いたのは、生徒会室に私が居ることに、か。

 入学して七ヶ月目に入って、生徒会会員の人と前よりずっと親しくなったとはいえ、私はその集まりに毎回参加するまでではない。――……じゃなくて、ねぇ、中谷会長。


「何が『ばいばーい』ですか」


 思いっきり違うでしょう、言うことが。





 昇降口で、戻ってきた滝長副会長と鉢合わせをした。


「中谷会長の足が腫れたって本当ですか」


 聞いても意味が無いことを、思わず口走る。

 じゃなきゃ帰らせたりなんてしないだろうに。じゃなきゃ迎えなんて呼ばないだろうに。確認するまでも無いことだ。

 落ち着いた様子で頷いた滝長副会長は、

「あれで少し大人しくなればいいんだがな」

 と、冗談なのか本音なのかよく分からない口調で付け加えた。


「どうしたら、……お詫びが出来ますか」

 自分の声が想像以上に落ち込んでいることに驚いた。だけど反面、「そうもなるか」とも何処かで納得していた。

 質問にもならない、懺悔のような私の言葉に、滝長副会長は眉を寄せる。


「どうして笠見さんが詫びる必要があるんだ?」

「中谷会長の足は、今日のあの時、私が階段から落ちたのを助けてくれた時に、捻ったんじゃないんですか」

「……雨里の足が腫れてるってことには、五時限目の前に気付いた」

 眉を寄せたまま、滝長副会長は続けた。


「俺たちのクラスの男子は今、体育でバスケットをしてる。雨里は今日の試合中、激しく転倒した。バスケットゴール前の人だかりの中でな」


 ぽつぽつと、また雨が降り始めた。外を見やって滝長副会長はそれを確認する。

 目線はそうして外に向けたまま言った。


「今日の俺たちの体育は四時限目だった。だから分からない」

「腫れた理由が、ですか」

「あぁ。雨里自身は分かってるかもしれないが、言わないだろう。周りは階段の時のことを知らないから、試合での転倒のせいだと思ってる。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。俺には分からないし、分からなくていいと思う。結果としてはっきりしているのは、雨里の足が腫れたってこと、雨里が無駄に動いて悪化する前に帰らせたってことだ」


 滝長副会長は、「だから気に病むな」と言い、私を残して階段の方へ歩き出す。


「でも、分からないってことは、私のせいかもしれないっていうのも変わらないですよ」

 振り向いた滝長副会長は、先輩らしい大らかな口調で答えた。


「笠見さんのせいだって分かってたとしても、同じことを言ってるさ」


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