表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BLACK D●T  作者: 笹舟
たまには、暴風●。
62/87

帰宅と出社


 *


 雨が止んで、矢面さんに傘を返した私と夕香は先に『BLACK D●T』を出た。

 矢面さんの傘は乾かしてから返そうと思っていたけど、本人が、

「いーわよー、別にこのくらい。それに、帰る頃には乾いてると思うし」

 と、古場さんに了承を取ってから店内で広げて乾かしていたので、その言葉に甘えさせてもらった。




 夕香とも分かれ、さっさと歩を進めて、帰宅したのは六時前だった。


「ただいま」

 

 普段は誰も居ない家に自分で鍵を開けて入るけど、今日は土曜日。翔と、珍しく土曜に休みのとれた母さんが居る。

 鞄を置いて手を洗おうとダイニングに入ると、スーツ姿の母さんがコロッケにラップをかけているところだった。


「あぁ、颯子。遅かったわね」

「ん、ちょっと寄り道もしてたから。今日、休みじゃなかったの?」


 夕食を食べるテーブルを囲む四つの椅子の一つに、持っていた鞄を置く。ついでに制服のリボンも外してそこにかけた。


 それがね、と、髪をかきあげた母さんが困ったように言う。


「母さん、これからちょっと出かけることになったから」

「……これから?」

「なんだかね、母さんの担当のお客さんが急にやって来たらしいの。式のことで変更したいところがあるんですって。来週じゃ来店の都合がつかないらしくて。ごめんね」


 母さんの仕事はブライダルコーディネーターで、土曜日の休みが珍しいというのもそれが原因である。

 式や打ち合わせは土日に集中していることが多いのだ。


「いいよ、仕方ないでしょ。いい式にしてあげて」

 気にしてない、と軽く手を振ると、母さんはありがとねと笑った。


「冷蔵庫にサラダもあるわ。あと、お汁は何か作ってくれる? 父さんもそろそろ帰ってくると思うから、母さんのことは伝えておいて」

「分かった。翔は居るんだよね、部屋?」


 何気なく口にした質問に、母さんは動きを止めて真面目な顔になった。


「……颯子。翔が、大阪の方に進学したいって言ったら、あなたどう思う?」

「そう言ったの? この間の三者面談で?」


 今週の始め、仕事を休んだ母さんは翔の三者面談に行ったはずだ。

 母さんはゆっくりと頷いて、「どう?」と回答を促した。


「いいな。あっちの地方って此処よりは雨少ないよね」


 私が正直な意見を答えると、ぺち、と額を軽く叩かれる。

「他人事だと思って。弟の受験のことなのよ?」

 割と本気で睨まれた。


「まぁ、この話はまた時間のある時に翔としなくちゃいけない話ね。翔がどの程度本気なのかも分からないし。とりあえず行ってくるわ。お汁、お願いね」

「行ってらっしゃい」


 母さんは慌しく出て行って、それを見送った私は手を洗うために洗面台へ向かった。


 そういえば、翔のはっきりとした志望校は今まで聞いたことが無かった。

 ――大阪の方……つまり県外か。

 

 弟と仲は悪くもない、むしろ基本的には仲のいい姉としては、「大丈夫?」と心配する気持ちがありながらも、「頑張れ」と応援する気持ちもある。

 

 翔が行きたいところに行きなよ、という、応援に見せかけた放任の気持ちも少し。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ