生徒会ホーム
*
ということで。
「…………え、ちょ、なにこれドッキリ?」
私は今、ぽかんとした顔の中谷会長を前にしている。
中谷会長も、やはり私服姿だ。
「最近のスーパーには笠見さんまで売られてんの?」
なワケがあるか。
「なワケがあるか」
図らずとも、私が心の中で思った言葉と生徒副会長が口にした言葉が同じだった。
初めて入った生徒会室は、真ん中に三つの長机といくつかのパイプ椅子があって、周りの棚には色々なファイルは収められていて、あとはくす玉とか投票箱とか移動式のホワイトボードとか、いわゆる備品がそこここに放置してあった。
イメージは、スペースのある倉庫のような。
「それで? 薄焼きせんべいのほとんどが割れてることも合わせて説明してよ」
あの後、大きめな布袋を生徒副会長に貸して入れ直したんだけど、やっぱり押し詰めたときに割れてしまっていたらしい。
袋から取り出したお菓子を並べながら尋ねたのは、総務委員長だった。
入学してすぐにあった生徒総会で、長い長い一年間の活動予定を読み上げていたのが彼女だったので、私でも覚えている。伏せ目がちにすらすらと言葉を発する総務委員長からは、眼鏡美人でクールな印象を受けた。たぶん他の新入生も同じじゃないだろうか。
……けど、
「あ、こっちおいでー。一年生でしょ? 何がいい? 何から食べる? チョコ好き?」
訂正。クールというより、むしろホットよりだ。
総務委員長に勧められた椅子に座ったものの、本当は生徒会室に居るべきではない余所者の私は少々居心地が悪い。
曖昧に言葉を濁していると、私の様子にきょとんとした総務委員長は、次の瞬間にはにこりと笑って私の背中を叩いた。
「緊張しなくて大丈夫よー、別に無理やり生徒会に引き入れたりしないから」
机の上の紙を手に取り、うんざりしたような顔でまた放る。
「ちょっと頭の痛い問題のことについて考えててね、しかも中谷のお守りしながらだし。もうクタクタに疲れきってたのよね。そこにお客さんが来てくれたんだから、嬉しいの。ねぇ、だってお客さんはもてなさないと。だから休憩ですー。で、何食べる?」
言いながら、総務委員長はもうチョコポッキーの箱を開けている。
えっと――、何と言うか――、――類は友を呼ぶ?
ノリやテンションが、中谷会長と似ているものがある気がする。
「はーい、ちょっと待ってストップ! 『しかも中谷のお守りしながら』って? つーか寝たでしょ、『滝長が戻るまで休憩』ってヤオちゃんさっきまで寝てたでしょ? ついでに言うならチョコポッキーのリクエストしたの俺だよねーぇ?」
私が総務委員長と話している間、中谷会長は生徒副会長の説明を聞いていたらしい。
「桜也に説明頼んだわりには聞いてないしさ!」
と、勢いよく生徒副会長を指差し、そしてすぐに「人を指差すな」と生徒副会長に怒られた。
「あ、中谷のリクだっけ、ごめんごめーん」
総務委員長はチョコポッキーを二本まとめて自分が食べてから、
「はい、中谷、あーん」
「あー」
「美味しい?」
「美味しい!」
「そうよねー、美味しいわよねー、手が止まらないわねー」
そしてまたもや二本まとめて自分の口へ。
……どうしよう、としか思えないんですけど、どうしよう。
そんな光景はもう見慣れてしまっているのか、目の前で繰り広げられた餌付けに何の反応も起こすことなく、生徒副会長は財布からレシートを取り出しながら尋ねた。
「水内は図書室で、西脇はまだ帰ってないのか」
「あー、うん。西脇からは携帯に電話きたんだけどね、安眠妨害だから切ってやった」
「その後で俺にもかかってきたんだけど、電池切れちゃってさー」
画面が真っ暗になった自分の携帯をほらねと振ってみせる中谷会長に、生徒副会長は「俺の番号教えておくべきだったな」とため息を吐きながら呟いていた。
その西脇さんが誰かは知らないけど、事情を知らない私でもそれがいいと思います。
窓の外に視線をやりながら、中谷会長が腰を浮かす。
「まぁそろそろ帰ってくると思うけどねぇ。あ、笠見さんに紹介もしたいし、みずうっちゃんも呼び戻して来よっか?」
あ、それなら。
「私も図書室に行きたいんで、どういう人なのか教えてもらえれば声をかけてきますよ」
私の申し出に、中谷会長が「俺も行くよ?」と立ち上がったけど、その肩を押し付けて強制的にもう一度座らせたのは生徒副会長だった。
「そのチラシを作り終えてからじゃないと、この部屋からは出させられないぞ。だから俺と西脇が買出しに行ったんだろうが」
「痛い痛い痛い痛い痛い。ちょ、関節っ、関節がっ」
どうすればいいのか分からない私に、総務委員長が笑って教えてくれる。
「多分、今なら図書室にはメイだけよー。せっかくだから、お願いするわね」
その手にあるチョコポッキーの袋の中はもう半分以上無くなっていた。




