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BLACK D●T  作者: 笹舟
●降って、地、固まる?
44/87

後始末


 *


 ――がりん。

 

 隣の中谷会長の口から、飴が砕ける音がした。

「痛っ」

 どうやら欠片が頬に刺さったらしく、片手で頬を押さえて「くぅー」と呻いている。

 中谷会長がそういう人だということを受け入れてはいるものの、何かもう本当にこの人は大丈夫だろうか心配になる。後輩に心配されないでください生徒会長。


 中谷会長と並んでの帰り道に舐めているのは、昨日夕香と行った津屋で買ってきた、長さ五センチ程の鉛筆型の飴である。

 「学力アップ、かも?」という売り出し文句が書かれた袋に十五本入りで、その名も『勉学舐めたらイカンぜよ』。ちなみに、この商品名は客から募集した案の中から決めたものらしい。イラストはデフォルメ坂本竜馬だ。


「にしても。陽ちゃんと笠見さんがお付き合いねぇ」

「……本当に、絶対言わないでくださいよ、特に陽介さんに」


 痛みから復活したらしい中谷会長に釘を刺しておく。

 陽介さんが、また笑い過ぎて咳き込むのは眼に見えている。呆れた顔で古場さんがその背中をさすってあげるのも。


「言いませんて。口止め料も貰っちゃったしねぇ」

 自分の口を指差して、中谷会長はニッと笑った。

 十五本入り百五十円(税抜き)の中の一本が、口止め料。十円だと思うなら――、安いのか高いのかよく分からない。

 

 夕香と仲直りをした日の放課後、つまり昨日には、中谷会長には、説明したときに『お兄さん』としていた人が陽介さんだということがしっかりとバレてしまっていた。

 喧嘩(?) の始まりであると言える、あのメールを夕香に送った先輩は中谷会長のクラスメイトだったらしく、「ねぇ。これって中谷君のお兄さん?」と、画像を見せながら尋ねてきたんだとか。


 クラスメイトの女子に画像を見せられた中谷会長は、それで理解をしたらしい。



「俺に兄貴は居ないよっつーか、うわぁ……。いつの間に撮ってたの……」

「土曜日の朝。え、もしかしてこれって、中谷君なの?」

「そうだよ。そっか、珍しくバンダナ巻いてたから気付かれなかったワケだねぇ。それとも、あれなのかな? 俺の顔って特徴無い? クラスメイトに気づかれないほど?」

「ちょ、泣かないでよ。横顔と後姿しか私も見てなかったんだし。でも、これが中谷君にしては、背、高くない? 中谷君って何センチあるの?」

「訊くかなぁ、それ。俺、身長のこと結構気にしてんだけど。ま、何センチかはともかく、その写メ撮った時は何か段差にでも乗ってたんじゃないかな? いやいやいやいや、シークレットブーツなんてそんなまさかねぇ?」

「ふーん……。じゃあさぁ、この中谷君の隣に居る子って、私の部活の後輩の友達なんだけどさ、……ぶっちゃけ、どういう関係なの? この日はデートでもしてた?」

「いや実は……、」


 ――そして、私との土曜日の話を捏造してくれた。


「ちょっと欲しい雑誌があってコンビニ行ったはいいけど、……財布忘れてて。レジで気付いて大慌てだよ、レジ担当の店員は仏頂面だしさぁ。そしたら後ろに並んでいた人が、自分の分と合わせて払ってくれて。俺が驚いてるうちに会計を済ませて、『お金は後日返してくださいね』って。そこで俺もようやく、自分も知ってる同じガッコの後輩ってことに気付いたワケ。後輩の目の前でドジっ子ぶりを公開してしまった俺としては、ただもうその雑誌がエロ本じゃなかったことに安堵の息を吐くばかりなのです。以上」



 画像も鮮明なものではなかったことと、陽介さんと中谷会長が似ていたこと、そして――中谷会長の普段の素行をその先輩が知っていることが幸いし、その先輩は中谷会長の話を一応信じたようだったらしい。

 ……ありがたいんだけど、それもどうかと思いはする。

 私にその時のことを説明しながら、「哀れみの眼が痛かったねぇ」と中谷会長は遠い眼をしていた。

 そして中谷会長は、


「もうホント、君の期待していたような甘くて酸っぱい薄桃色の関係じゃなくて申し訳無い。だけどその画像は消しておいてね、後輩にお金借りた日のスナップショットなんて恥ずかし過ぎるから。……じゃないと肖像権云々で訴えます。一応言っておくけど、俺の恥ずかしい一コマをこの世から消すためなら、……俺は本気になれるよ?」


 ついでにそう言って、問題の画像もその場で削除してもらってくれた。

 

 ちなみに、こちらの説明をした後の中谷会長の言葉は


「その時は『私だってクラスメイトの情けない姿なんて残しておきたくないっての』プラス、哀れみの眼だよ。……あいつのパンチ、なかなか効いたぜ」


 というものだった。

 さすがと言うか、――やっぱりさすがと言うか。

 


 うまい言葉が見つからないけど、そのおかげで私が助かったのは事実だ。


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