地、固まらせない。
「それにこのこと陽ちゃんに話して、思い人のいる陽ちゃんが笠見さんに浮気すんのも俺としてはいただけないしー」
中谷会長が何気なく口にしたそんな言葉に、思わず私は反応した。
「……思い人、って…………」
「あ、えっ? も、もしかして、笠見さん、陽ちゃんに惚れてた?」
「惚れてません」
もうそのネタはいい。付き合ってない、惚れてない、何もない。
「あーびっくりした。笠見さんがショック受けたのかと思った」
胸に手を当てる中谷会長に軽く厳しい目線を向けると、苦笑いをしながら教えてくれた。
「陽ちゃん、結構前から片思いしてるんだよ。その相手に対して『付き合いたい! そして結婚したい!』って思ってるわけじゃないらしいんだけど。年上の社会人で、……あとまぁちょっと色々カンケイのある人だしねぇ。ただ、すごく憧れて、すごく惹かれるんだってさ。あ、コレ俺がバラしたっての、秘密で内緒の特秘事項ね。シークレットですよ?」
相手は年上の社会人、ということは。
「 じゃないんだ……」
思わず小さくこぼれた言葉は、どうやら中谷会長には聞こえなかったらしい。
良かった。自分の勘違いを知られて笑わ――……
ぽきんと、口の中で細く小さくなった飴が折れた。
「あ」
「ん?」
気付いた。
私だって、夕香と同じだ。
本人の口から聞いてないのに、想像して、勘違いをしていた。
悪気なんてまったく無かった、邪推するつもりも無かった。
でも、勘違いを『してしまっていた』。
そんな私が夕香のことをどうこう言えたものだろうか?
――答えは、自分が一番分かっている。
あぁもうほんとに。
「仲直りして良かった」
今度の独り言は、ばっちりと中谷会長に拾われていた。
先ほど噛んだときに飴が詰まってしまったらしい奥歯に舌を這わせていた中谷会長は、かくんと首を横に傾げた。
「仲直りしてないでしょ?」
今度は何を言い出しますか。
「喧嘩してないなら、仲は壊れてないんじゃない? 壊れてないものは直せないよ」
「まぁ、そうですね」
それ以外に返せない。返しようがない。屁理屈には。
彼の中ではやはり二日前のあれは『喧嘩』にならないようだ。……私としては、嘘くさい河原での殴りあいの方が『喧嘩』と認めたくないんだけど。
こっそりと息を吐き、同時にふと思い至る。
「中谷会長。中谷会長は、土曜日のキャンペーンにはちゃんと出たんですよね」
「出たよ、もっちろん。桜也の分まで頑張りましたとも」
だったら、
「あの土曜日の説明、嘘だって分かっちゃうんじゃないですか」
「あー、大丈夫だと思うよ?」
中谷会長は妙に自信有りげに断言した。
「生徒会がやってることなんて、誰も興味無いし、知らないだろうからさ」
――寂しさを感じる意見である。
だけど、頷けてしまう。私もこの間まで知らないひとだったから。
何と言うべきか悩む私に、中谷会長は軽く笑った。
「ここで『私は知っています、生徒会長の頑張り』って言ってくれると泣ける」
「じゃあ言いません」
「『私は知っています、生徒副会長の苦労』だったら色々な意味で泣ける」
「私は知っています、生徒副会長の苦労」
「うっ……うぅ……」
馬鹿みたいな会話をしつつ、並んで歩道を歩く。
そういえば私と中谷会長と付き合ってるって噂もあったんだっけ。
こういうところを見た人が勘違いするんだろうな。
頭の隅でそんなことを考えていると、
「しっかし噂話もねー。俺に関する噂も、『生徒会長はお飾り』ってんじゃなくてもっと浮ついたような楽しいものでも流れてくれたらいいのに」
と、中谷会長はそう言った後、
「ほら、笠見さんとの噂とかだったら、たっても全然構わないんだけどねぇ!」
なんて言いつつ、ニッと笑った。
……もうたってるんですってのこの天然タラシ会長が畜生め。
これにて本章は終わりです。
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