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BLACK D●T  作者: 笹舟
●降って、地、固まる?
29/87

知らないことも、まだ多く。

「……やっと見つけた」


 それは、何だかバックに濃い色をしたオーラでも見えてしまいそうな表情の男子生徒の姿だった。思わずぎょっとして息を呑んでしまった。

 そんな私の表情を見て何事かと背後を振り返り、『それ』に気付いた中谷会長が身を引く。

 小さな声で、うげ、と漏らしたのが聞こえた。


「勝手な息抜き中に失礼だが、中谷雨里生徒会長」


 中谷会長を見据えるその人がこちらに寄ってくる。

「そろそろ本気を出して仕事してくれないか。……出来るまで帰さないぞ、冗談じゃなくてな」

 その言葉を聞いて、この人は確か、と記憶を探っていた私の脳が答えを出す。

 

 そうだ、この人は生徒副会長だ。


 生徒総会の時には、司会進行の役をしていた。

 とても気楽そうに――いや、にこやかに朗らかに楽しそうに会場の意見を聞いていた生徒会長の隣で、てきぱきと論議を進めていた。会場を煽る――活発化させる中谷会長に引っ張られて思いの外たくさん出た意見を総合的にまとめる彼の働きが無かったら、あの総会を時間内に終えることが出来たか疑問だ。

 副会長は、はおそらくこの学校で最も中谷会長の面倒を見ている人だろう。

 中谷会長もいつだったかそんなことを自分で言っていたように思う。

 

 中谷会長は副会長に向け、しぶしぶと言った具合に片手を挙げた。


「生徒会の仕事ですか」

「そ。今言ってた、薬物乱用防止キャンペーンの呼びかけ文つくり。ボランティアで参加することになってるんだ。ね、仕事真面目なせーとふくかいちょーさん?」

 

 私への返しの最後、茶化すような言い方で呼び返した中谷会長に、副会長は眉を寄せて答えた。

「それは、当日に用事があって参加出来ない俺への嫌味か」

「まっさか。その日のために桜也は今だって頑張ってくれてるじゃん」

「じゃあその頑張りを実らせてくれ」

 憮然とした表情のまま、副会長は持っていた紙を中谷会長の手に持たせた。途中まで作られた呼びかけ文が書かれているようだ。

「だよねぇー?」

 観念した様子の中谷会長は、手に持つ本を脇に抱え直し、受け取った紙を開きながら私に「じゃ、またね」と笑いかける。


「良かったら、中谷会長の分もパンフレット買ってきましょうか」


 中谷会長が持つ『街灯とサックコート』が眼に入った瞬間、私の口はそう言っていた。


 私は、生徒会がそんな活動をしていることなんて知らなかった。

 きっと今回のキャンペーンだけじゃない、私の知らないところで生徒会が運営していることはもっとあるんだろう。だから労いの気持ちを表したいと思ったのだ。――あと、北一の生徒会長は仕事をしてないんじゃないだろうか、と実は密かに思ってしまっていた謝罪の気持ちも兼ねて。

 

 中谷会長は何度か眼をしばたいた後、


「また代金は払うから、お願いしてもいい? 感想、楽しみにしてるよー」


 ニッと笑い、副会長に引きずられるようにして図書室から出て行った。

 中谷会長が利用手続きをしないまま本を持ち出していったということに気付いたのはその数分後で、図書委員である私は仕方なくその代わりに手続きをしておいた。

 貸し出しカードに書名を書きながら、珍しく気分が高ぶっている自分に気付く。

 

 どうやら、思っていた以上に私は映画を楽しみにしているらしい。


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