第94話 最低への信頼
「悪いが、俺は引く気はねぇぞ」
千國が1歩前に歩みでる。
「相手は神様だよ。なんぼ鬼でも勝でるんだが?」
鬼とは日本の伝説の中でもトップクラスの存在だ。
その強さはピンキリではあるが、神様として崇めることでしか抑えられない程の存在も事実いる。
どこまで遡り何を基準としているか次第ではあるが、龍や神とも渡り合えるポテンシャルはあるだろう。
だが少なくとも前戦った時点の千國はその域に達していない。
「勝算はあるのか?」
純粋な疑問、千國は何と答えるのだろうか。
きっと無いだろう、あったとしても気合いとかか。
「お前だ」
「は?」
お前?は?何だっけ?御前崎?尾前?
こいつ今、俺って言ったのか?
まさかな。
「俺は基本テメェの事が嫌いだ!」
「お、おう、そうだな」
「目指すべきものしか見てねぇ、他人を見ねぇ!お前なんて眼中に無いって態度!いや実際眼中に無いんだろうよ!弱い癖によ!ムカつくぜ!!」
え?俺ってそこまで人に興味無いって態度取ってるか?
周りを見渡すと皆して頷いてくる。
嘘だろ、そんなつもりないんだけどな。
いやそりゃ他人に興味津々って訳では無いけどさ。
「だがな、だからこそテメェは間違いなく、厳島ダンジョンでの敗戦を糧にしてる。俺達が思いもよらねぇ方向で!お前がまたこういう存在からただ逃げるだけなんて有り得るかよ」
えーと?
褒められてるってことでいいのか?
「ここまでは勝算、んでここからは私情だ!俺は神はともかくあのクソ野郎からはもう逃げねぇ!逃げて腐るくらいなら死んだ方が余っ程マシだ!」
いやいや、千國よ。
確かに逃げて腐る事を恥じてんのは成長だと思うけど、逃げることそのものは恥でもなんでもないんだが。
まぁ、みなまで言うまい。
これも成長か。
「その保護者の目見てぇなのヤメロ!クソが!本当にムカつくぜ!」
「悪い悪い、それじゃあ任せたぜ千國」
「良いの!?源志くん」
漆原さんが俺たちのやり取りに驚いている。
「大丈夫だよ。少なくとも俺が何かをする時間を稼ぐ自信はあるらしいからさ。てことで漆原さんは一緒に来てくれ、多分間違いなく力が必要になる」
「おい、最高戦力だぞ。漆原抜きでこの存在と渡り合えというつもりか?」
風間さんが珍しく狼狽えている。
敵がそれ程の存在だと認識しているのだろう。
「風間さんなら出来ます。あ、空と輝夜は死なない程度に千國をサポートしてやってくれ」
「ギャウ!」
「お任せ下さい」
「チッ、これで死んだら恨むからな」
流石の風間さんもこのレベルの敵の前では人間味が出るのか。
「そんじゃ千國、でかい一撃頼むぜ、スキルだけ使ったら俺と漆原さんは離脱する」
「テメェに言われなくてもそのつもりだ!悪鬼羅刹派生:形態変化『バーサタイルボディ』!!」
その言葉と共に、鬼化した千國の身体が脈動し、筋肉の質が見た目でわかるレベルで変化し、赤い肌に青と黄色の線が浮き上がってくる。
さっき派生って言ってたが、固有スキルでそんな事ができるのか。
「くらいやがれ!!テメェ何ぞ信仰してやるかよ!!クソ野郎が!!!」
握った机を金棒に変え、荒神の前に躍り出た千國が渾身の一撃を振るう。
だが荒神は変わらず全く避ける気配がない。
まるで大砲でも撃たれたかの様な衝撃音が響き渡る。
しかし、その攻撃を受けてなお、平然とその場に立っている。
ダメなのか?
そう誰もが思った瞬間、1歩、ただ一歩ではあるが、荒神がふらつく身体を支えるために足を動かした。
「「「今だ!」」」
「一視同仁!!」
「後は任せたぜ!千國!」
「はっ!こりゃテメェがなんかする前に倒しちまうかもな」
「油断するな千國、まだ荒神の時間停止を攻略できているのは、人の心のないあいつだけだ」
おっと?可笑しいな風間さん?気の所為かな、すごいナチュラルにディスってくるじゃん。
「我を前になお抗う人の子らよ。鬼の力を借りて尚、歯向かう度胸は良し。首を差し出せ、せめて苦しみなく一太刀で罪を裁こう」
なっ!動けない?
レベル1にしてもこのスキルはやっぱり健在かよ!
つか、やべぇ。
敵と認識してても、俺ですら直接影響与えたら動けないのかよ!
まずいだろこれ!千國が殺られたら終わるぞマジで!
誰か!!
『仕方ねぇな源志はよ』
輝夜から聞きなれた声が聞こえてくる。
微動だにしなかった輝夜が動き出すと、今まさに首を落とされようという千國を抱え、その太刀から救い出す。
「千國!大丈夫か!」
開口一番、風間さんが声をあげる。
「あ、あぁ、どうやら生きてる」
困惑しながらも輝夜の隣で千國も動き出す。
「輝夜、一体どうやって?というかさっきの声、胡貴か?」
そう、輝夜から聞こえてきたあの声は、間違いない。
鎌倉ダンジョンで通信した時に聞いた胡貴の声だ!
『早瀬から話は聞いて状況は理解してる!あいつがスキルを使ったら、俺が輝夜を遠隔で動かして皆を逃がす。それ以外の時は輝夜に動いてもらえば行けるはずだ!』
『等々力くん!ここは私達に任せて!』
離れてても力を貸してくれるとか、本当に最高の仲間をもって俺は幸せ者過ぎるな。
「それじゃあ、あとは任せた!漆原さん、行こう!」
「行くってどこに?」
「このダンジョンの本当の最下層かな」
読んでいただきありがとうございます!
千國の力は一体どこまで荒神に通じるのか、
そして本当の最下層とは?




