111.みんなで! 温泉旅行(2)
前回の話
イスラはレティシアの取り巻き令嬢全員で行く温泉旅行を企画した。
長い移動を終えて私達は温泉街に到着した。
前世でレティシアと二人でやってきた、あの宿だ。
馬車から降りた他の面々は王都では見られない、東方風の異国情緒溢れる街並みを物珍しそうに眺めていた。
「それでは私は受付の手続きをして参ります。レティシア様も来ていただいてよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろん」
私は受付を済ませるべく帳場へ向かおうと思い、レティシアに声をかけた。
今回、旅行を企画した際に、レティシアに行先の提案は事前に行っていたが、泊る宿の値段について相談したところ、
『お金は私が出すからイスラちゃんの好きに決めていいわ』
とのお言葉をいただいたので、気兼ねなく高級旅館を貸し切りにさせてもらった。
今回は私達令嬢たちだけでなく、各自の使用人も帯同しているため、かなりの大所帯であり、私もメッツを同行させることにした。
全員合わせると約30人規模での団体となり、見積もりだけでも金貨30枚ほどと言われたが、レティシアは前世でこの旅館を買い取ることを検討するくらいには金を持っている。
私が彼女の金の心配をするなど野暮だと思ったので、お言葉に甘えてレティシアの名前で予約させてもらうことにした。
「今日泊まらせてもらう者だけど、お話は通っているかしら?」
「お待ちしておりました、レティシア・フローリア様。本日はこちらの宿は貸し切りにさせていただいております。気兼ねなくおくつろぎください」
レティシアが帳場でスタッフに声をかけると、礼儀正しい仕草とハキハキした聞き取りやすい言葉遣いで歓迎してくれた。
レティシアは名乗っていないのに、相手の名前を事前に把握しているところを見るに、流石は一流の旅館だといったところか。
私はそのままスタッフから細かい部屋の説明や、注意事項を聞き取り、各令嬢の使用人への共有を済ませた。
そしてようやく全ての説明を終えて、令嬢たちを部屋に案内した。
「お待たせしました。私達が泊まるのはこちらの部屋になります!」
部屋は前世でも泊まったあの一泊金貨10枚の部屋だ。
リビングが3部屋、寝室が4部屋、庭と露天風呂の付いたとても豪華な作りで、7人で泊っても全然狭くない。
私よりも身分が低いノイン、ミレイヌは目を丸くして部屋の豪華さに驚いているのは当然として、伯爵令嬢のユフィー、アンリも興奮している。
そして侯爵令嬢のラスカルも
「確かにこれは中々の部屋ね」
と満足そうにしているのを見て私は安心した。
各自部屋の中を一通り見て回ってから一度リビングルームに集合すると、ラスカルが私に聞いてきた。
「それでイスラさん、ここからの予定は何か決まっているの?」
「まずは早速ですが温泉に入るのはどうでしょう。部屋の露天風呂もありますが、さすがにこの人数だと狭いので、大浴場に行きましょう」
前世でレティシアと二人で来た時は部屋に備え付けの露天風呂に二人で入ったものだが、今回は宿自体を貸し切りにしているので堂々と大浴場に行ける。
私も入ったことがないので、密かに楽しみにしていた。
他の面々からも特に異論はなかったので、全員で大浴場に向かった。
驚いたのは、私、ノイン、ミレイヌ以外の皆は脱衣所に侍女を連れて来ていたことだった。
しかし、そういえば貴族は入浴の際には使用人に手伝ってもらうのが当たり前だったなと思い直して私は自分で支度を済ませた。
そして今まさに浴室に入ろうとしたところで、聞きなれた声が私を呼んだ。
「イスラお嬢様、どうして私にはお声がけして下さらなかったのですか!?」
「メッツ!? どうしても何も私は一人でも大丈夫だから……」
「イスラお嬢様はもっと私を頼るべきです! 今後はこういったことがないようご注意ください」
「ええっと、ごめんなさい?」
どこから聞きつけてきたかは分からないが、突然現れたメッツによく分からない理由で怒られてしまった。
私自身も混乱していたので、とっさにごめんと謝ってしまったが、これは本当に私が悪かったのだろうか。
気を取り直して浴室に入ると、広い洗い場、5種類の内湯と外にも露天風呂があり、思わず気分が高揚してしまった。
手早く体を洗い、一番近くにあった浴槽に入る。
「あぁ~」
思わず気の抜けた声が漏れてしまった。
お湯の温度はそこまで高くないため、ゆっくりつかることができそうだ。
馬車の中で座る時間が長かったからか、大きなお風呂に手足を伸ばして入ることができるのがたまらなく気持ちがいい。
「夏に温泉というのも、思ったより悪くないのね」
ボーっとお湯につかっていると、隣にラスカルがやって来た。
当初、ラスカルは夏に温泉に入ることには懐疑的であったが、いざ実際に入ると満更でもない顔で温泉を楽しんでいるのが伺えた。
「気に入っていただけて良かったです」
「ここまで立派な宿は私もあまり経験がないわ。よくこんなに素敵な場所を知っていたわね」
「たまたま知人から教えてもらいました」
「そうだったのね」
普段は凛とした雰囲気を漂わせていることの多いラスカルだが、流石に温泉の中ではリラックスした様子だった。
「うーん、たまにはこういうのも悪くないわね」
ラスカルはそう言いながら両腕を頭上に上げて体を伸ばした。
背中を少し反らしたその姿勢は胸の膨らみを強調するようであり、なんとも煽情的だと感じた。
私は興味本位でその胸を触ってみた。
レティシアほどではないが、中々の大きさのものが付いている。
「ぁっ、……。……イスラさん……なにをしているの……?」
胸を触られたラスカルは艶めかしい声を漏らしたかと思いきや、すぐに私の方を見て困惑したような表情を浮かべた。
「えっ、えっちなのはだめよ」
そして両腕で自分の胸を隠して私に注意をしたが、弱気な気持ちが目と声に表れているため、まるで威圧感がない。
むしろ逆に嗜虐心を刺激されるような気さえする。
そういえば前世では私はラスカルを娼館送りにしたけれど、その後一度だけ娼館主からの報告書を読んだことがあった。
『この前寄こしてくれた元侯爵令嬢の女は中々の逸材だ。顔や体もさることながら、無自覚に男が好むような誘い受けをするので、客からの評判も上々だ』
要約すると確かこのようなことが書いてあった。
その時の私はラスカルへの興味など完全に消え失せていたので、一読してすぐに捨ててしまったが、今ならばその報告書の意味がよく分かる。
「ラスカル様」
「ひっ」
ラスカルの名を呼びながら意味深に距離を詰めると、ラスカルは怯えたような表情で後ずさった。
これはいけないことだと頭では理解しているが、もう少しこの弱弱しいラスカルの姿を楽しみたい衝動が抑えられない。
さらにジリジリと距離を詰めて……。
「何をしているの、イスラ」
不意に横から名前を呼ばれた。
その声の主はアンリだった。
アンリは呆れたような顔で私を見ていた。
「アンリ……たすけて……」
ラスカルは助かったと言わんばかりにアンリの後ろに隠れてしまった。
「イスラ、あなた本当に何をしたの?」
「ラスカル様のお胸を少し触っただけです」
「馬鹿じゃないの?」
訝しむアンリに事情を話すと、忖度なしに一刀両断された。
確かに冷静に考えると私のしたことは馬鹿だった。
「ラスカル様、すいません。調子に乗り過ぎました」
「……もう触らない?」
「はい」
こうしてアンリの活躍(?)もあり、私は冷静さを取り戻した。
失敗もあったけれど、その結果ラスカルの可愛い姿も拝めた。
切り替えて今後に生かしていくとしよう。
次回投稿予定日:7月28日(日)
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