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07.訓練所での苦悩

あーっ!? お客様っ、駆け込み投稿はおやめ下さいっ!!

おやめ下さいッ!! お客様、おやめ下さ――

 案山子の前で仁王立ちする女が居た。

 そう――私、一之瀬康葉ことアーネストだ。

 今居る場所は、ギルドの庭に当たる場所に立地した広大な訓練場である。

 周囲では、私同様に駆け出しの装いをした者たちが、設置された案山子に対して攻撃を行っていた。

 ある者は剣で切りかかり、ある者は拳で殴りかかり、ある者は魔法を放っていた。


「ふぅ~っ……私もやるか」


 その光景を見て、私も重い腰を上げることにした。

 左腰に括り付けてある鞘から剣を抜刀し、構える。

 数刻の間、静寂がこの場を支配したが、私は覚悟を決めて動き出した。

 左足から深く踏み込み、剣を上段から勢いよく振り下げる。


「セイッ!」


 掛け声と共に切断音が響き、案山子の右肩から左腰までを、流れるように切り裂いた。

 すると、案山子の近くに「15」と与えたダメージが表示される。

 そのまま動きを止めることなく、連続で攻撃を繰り出し続ける。

 記されるダメージ数は「8」や「10」などの数値を行ったり来たりしており、最初に与えたダメージを終ぞ上回ることはなった。

 一度攻撃の手を止め、バックステップで案山子から距離を取る。

 あれだけ攻撃したはずの案山子は、いつの間にか元通りに修復されていた。


「これだけ動いても疲れないというのは、随分と不思議な感覚だな」


 数分間も動き続けていたというのに、私は息一つ切らしてはいなかった。

 訓練所は特殊なフィールドであり、このフィールドに居るだけで「HP(体力)STM(スタミナ)が減らない」「スキルのリキャストタイムがなくなる」「武器の耐久値が減らない」などの効果が齎されるのだ。

 まさに訓練には打って付けの場所で、所持金の少ない初心者からすればとても有り難い仕様であった。


「しかし、あれだけ攻撃したにも関わらず、初撃の瞬発ダメージを上回らないのは謎だな……与えるダメージは乱数かと思っていたが、もしかして――」


 予想を試すため、先ほど初撃を与えたときと全く同じ行動を取った。

 そして表示されたダメージは――「15」。


「まさかとは思っていたが……この世界にも、相乗効果は存在するのか」


 どうやらこの世界では、現実世界とほぼ同じ物理法則を再現し、それを導入しているみたいだ。

 我武者羅に振った剣と、キチンと型に嵌めた剣……どちらがより強い一撃を出せるかと問われれば、答えは勿論後者だろう。

 所詮はゲームなのだから、もっとふわふわとした物理法則に従っているのだと勝手に予想していたが……流石は大衆が認めたゲームだ。

 詳細設定からグラフィック、物理法則に至るまで……妥協している点が一切ない。

 誰かが言っていたな、「この世界は、もはやゲームの領域を超えている」と……全く持って同感だ。この世界は、当にゲームの領域を超えている。


「実戦前に良いことを知れたな。……次は、攻撃スキルを試してみるとするか」


 【騎士】が初期から持っている攻撃スキルは、『ペネトレイト』というスキルだ。

 名前からして、刺突系の攻撃スキルなのだろう……ならば、少し構えを変えてみることにしようか。

 抜き身の剣を地面と平行に構え、突撃する前のように腰を低め、案山子の胸元へと視線を定めた。

 足を一歩踏み出すと共に、スキル名を口に出す。


「『ペネトレイト』」


 その言葉を口にした瞬間、体にアシストが入った感覚があった。

 少しばかりズレていた剣先が案山子の胸元へと真っすぐと固定され、カァンッ!! と爽快な音と共に、凄まじい勢いで案山子の胸を突き破ったのだ。

 そして、黄色く表示されたダメージ数は……「60」。通常攻撃で与えた最高ダメージの四倍の数値であった。


「今の感覚はまさか……クリティカル、というやつか?」


 爽快な音と手応え。通常は白なのに、黄色く表示されたダメージ数。

 ギルドで聞いた話と全く同じ現象だった。


「たまたまか? いや、しかし……私のLUC(幸運)はステータスの中では一番低いしな……」 


 クリティカルの発生確率は、LUCのステータスに参照される。LUCが高ければ高いほどクリティカルは出やすく、低ければ低いほどクリティカルは出ずらい。

 『ペネトレイト』の詳細情報には、「最適な行動で刺突を繰り出す」と書かれていただけであって、クリティカルの発生云々については表記されていなかったはずだ。

 運良く攻撃スキル使用時にクリティカルが発生した可能性もあるが……その確率は低いだろう。


「先ほどあれだけ攻撃したのに、一度もクリティカルが出なかったからな。それだけで、このステータスでのクリティカル発生の難しさを物語っている」


 そうなってくると……答えは一つしかないだろう。

 私はギルドで聞いた話を思い出しながら、先ほど攻撃スキルを使用した時と同じ構えを取り、『ペネトレイト』を発動させた。

 剣先は吸い込まれるように胸元へと突き刺さり、クリティカルを発生させる。

 どうやら、私の推測が的中したようだ。


「やはり、弱点部位か」


 プレイヤーを含め、MOBには必ず弱点部位が存在している。

 それは、ギルドでモンスターの生態についての解説が行われた時に知った情報だった。

 弱点部位が何処に、何箇所あるかは種類によって変わってくるそうだが……殆どが脳か心臓にあるそうだ。

 この案山子には、心臓に当たる場所に弱点部位の判定が存在するみたいだな。

 先の結果を見ればわかるだろうが、弱点部位に攻撃を当てた場合、確定でクリティカルが発生するようになっている。

 クリティカルには、「発生するダメージを二倍にする」、「敵を一時的にスタン状態にする」と言った能力が存在しているそうだ。


「だが……弱点部位への攻撃は、ハイリスクハイリターンだ」


 当然だが、敵も自身の弱点部位がある位置を把握しているため、攻撃が非常に当て辛いのだとか。

 しかも、明確に判定のある場所を攻撃しなければクリティカルは発生しない為、ベテランでも狙ってやるのは難しいみたいだ。


「まあ、今それを気にしても仕方がないだろう。当たればラッキー程度に留めておくのが一番だな」


 そう結論付けて、再び剣を握り直す。

 まだ試してみたい事が山積みだ。もう少し、ここで体を動かして行くことにしよう。


 ◇


「ふぅ……もういいだろう」


 あれから三十分ほどは、案山子に攻撃を打ち込んでいただろうか。

 これだけ戦えれば、ゴブリン程度なら苦戦せずに倒すことが出来るはずだ。

 幾らSTMが減らないといっても、やはり、精神的な疲れは来るものだな。


「動いてみてわかったことがある」


 様々な動きや検証を重ねて、沢山の利点を発見することが出来た。

 しかし、利点が見つかれば、必然的に欠点も見つかって来るのもまた事実。

 そう、私はこの三十分間――【騎士】の欠点に悩まされ続けていた。


「…………すっごく動き辛い」


 装備が重くて、普通に動き辛い。

 歩く分には問題なかったが、いざ戦闘となると思うように動けずストレスが溜まる。

 兜と盾に至っては視界が遮られるため、端的に言って邪魔だ。


「脱ぐか……いや、しかし。それでは騎士としてのアイデンティティが消えるし、そもそも【騎士】を選んだ意味が無くなるのでは……?」


 私が【騎士】を選んだのには、明確な理由がある。

 それは……ファンタジー世界で凌辱されるのは、女騎士だと相場が決まっているからだ。

 ゲームソフトが届くまでの一週間、私は沢山の下調べをした。

 ファンタジー世界の常識やVRMMORPGについての知識、ネトゲに使われる用語から何まで。

 そしてその最奥にて発見したモノが――「くっ殺」というジャンルだった。

 実際にその手の作品に触れた時は、震え上がるほど沸き立って「羨ましいっ!」と思ってしまったのは覆しようのない事実だ。

 だからこそ私は、【アイディール・オンライン】をプレイする際は、「女騎士のロールプレイをしよう」と心に誓った。

 つまり、【騎士】を選んだ理由を簡潔に表すと……それは、ロマンだろう。

 この世界にR-18要素は無いが……モンスター相手にボロボロにされている姿も、中々にそそるものがあるはず。

 私はそう言う考えの元、【騎士】を選んだのだ。


「これが所謂、板挟み状態というやつか……さて、どうするべきかな」


 装備を外しても職業が【騎士】であることは変わらないが、パッと見では女騎士だとわからなくなるだろう……それだと駄目なんだ。

 考えてみてほしい。溢れ出た乳房を片手で隠し、ボロボロの鎧で肌を開けさせながら必死で戦う女騎士と、そもそも開けるものがない変態全裸(インナー)女騎士なら、前者の方がエロいに決まっている。

 その方が自分も興奮することが出来るし、ボロボロの姿を見て興奮する飢えた獣共の視線を一身に集めることも出来る。

 うん、良いな。性欲に飢えた雄共の視線を背後に、モンスターに蹂躙されてゆく姿は想像しただけで涎が出てくる。

 やはり、ロマンと実用性を取って鎧を付けるべきだろうか…………でも、それだと動きずらいからなあ。


「う~~~~~~ん」


 私はこの答えの出ぬ問答に、盛大に頭を悩ませるのであった。

普通、タンク職なら装備を外すとかいうあたおかな発想には至りません。

そもそもの前提として、康葉ちゃんは痛覚設定をLV:5に設定しているため、通常のプレイヤーより鎧を重く感じています。

確かに、鎧が重いと感じるプレイヤーは少なからず存在していますが、殆どは我慢して着るか軽量化を図ります。

中級者ぐらいになったらもう重量のことは気にしなくなっているはずです。

そして、上級者になると鎧に魔改造を施してよくわからん機能を付け始めたりしだします。

誰だよ、「自爆は悪の醍醐味だ」とかよくわからんこと言ってボスモンスターごと味方を吹き飛ばして何も残らなかったキ○ガイ機能とか考えたの……。

ちなみに、解説役ちゃんはその光景を見て大爆笑してたそうな。


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