第24話 魔法陣から現れた少年
「ちょっと、ちょっと、ギリアンって誰?オーリンって誰?」桜子が混乱している。
「お祖母ちゃん、お祖母ちゃん!」桜子が助けを求める。
そして桜子の方を振り返って、
「あ…彼が現れて瓶を落として割った瞬間、何かを思い出したような気がして…」と言いつつ、加乃が真っ青な顔をしている。
「何を思い出したの?ねえ、お祖母ちゃん、そしてギリアンって誰なの?ねえ!」桜子が少々パニックになり始めた。
「恐らくギリアンってあの銀髪野郎と言ったところだろうな。」そう誠が口を出す。
「え?あのあ祖母ちゃんの夢に出て来るって言う?」と桜子が尋ねると、
「恐らくな。」と誠は返した。
桜子は少年の方を振り返り、「ねえ、あなた誰なの?オーリンって誰?何故ここに?」と跪く少年に尋ねる。
「はっ、オーリン様」と言って少年は跪いたままだ。
「少年!顔を上げて、私はオーリン様ではありません。桜子と言います。」と言うと、少年がそーっと顔を上げた。
「ほらしっかりと見て、私、そのオーリンとかいう人に似てるの?違うでしょう?」そう桜子が言うと、
「あ…髪の色や目の色が…でもオーリン様に瓜二つです…」と言って、少年がジロジロと桜子を見回す。
「違うでしょう?私は桜子、大木桜子って言うの。あなたの名前は?」
「あ、僕の名前はジャン・ルブルーン・ガルマディンと申します。」と言い、ジャンが辺りを見回すと、見知らぬ人々が自分の周りに立ちはばかっている事に気付いた。
「うわ!」と奇声を上げた後で、「ここはどこなんですか?私はシャレーの森にムーアの花の朝露を集めに行くところだったのに…」とぼやいている。
そして、ムーアの花という言葉を聞いて、加乃がピクッと体を震わせた。
「ムーアの花…」そう呟いて、何かを思い出そうとしている。だが、頭がガンガンとして何も思い出せない。
「あなたは誰なの?一体どこから来たの?なぜこの魔法陣から出て来るの?ムーアの花って何?シャレーの森ってどこなの?」と桜子が矢継ぎ早に次から次へとジャンに尋ねていく。
「魔法陣?今、魔法陣と言われましたか?」とジャンが尋ねると、
「そうよ、ほらあなたの後ろにある…私たちはその魔法陣を通って別の世界へ行くはずだったのよ!」と桜子が説明しようとする。
ジャンは後ろを向いて、魔法陣をマジマジと眺めた。
その姿を皆は見守っている。
「これですか?」とジャンが聞いて、
「そうよ、何か問題でも?」と桜子が尋ねると、彼は一言、「これは…召喚用の魔法陣です。この魔法陣でどこかへ行く事は出来ません。彼方より呼び寄せる事は出来ますが…」と言った。
「え?召喚用?どこかへ行くためでは無くて?」と桜子がびっくりしている。
「間違いありません。私は魔法陣を行使する魔法使いではありませんが、これは長の塔のポータルの間につながっている召喚用魔法陣です。恐らく、私が湖へ行くための魔法陣を開いた時に、タイミングよくここと繋がったのでしょう…」とジャンは言った。
「あなた、帰り方分かるの?その時に私達も向こう側へ行けるかしら?」と桜子が尋ねると、
「無理です。私は魔法陣を湖以外からポータルの間につなげる事は出来ません。」とジャンが言った。
それを聞いた直人が、「え~っお前、帰れなくなってどうするんだよ?」と聞いている。
「え?ここに魔法陣を開けれる人が居るんではないんですか?」と尋ねるジャンに、
「あ、いや、居るには居るんだが使える魔法陣がこれだけなんだけど。」と言って、ジャンの目の前にある魔法陣を親指でクイッと差した。
「あの…この魔法陣が使えると言う事は、少なくともこの魔法陣を開いた方は他の魔法陣も開くことが出来るはずなんですが…」とジャンが困惑している。
「それってどういう意味?」と桜子が尋ねると、
「魔法陣を開くことの出来る魔法使いは主に、召喚と、移動の魔法陣を扱うことが出来ます。だから、僕をシャレーの森へ送ってくれる事が可能なはずなのですが…」と言った。
「ねえ、それって桜子が魔法陣を行使する魔法使いって事?」と奈々が尋ねる。
「少なくとも俺にはそう聞こえるな。」と直人が答え、そして続けて、「で?お前何者?魔法陣を知ってるって事は魔法使い?」と尋ねた。
ジャンはコクリと頷いて、「私はお城に仕える魔法使い見習いです。」と答えた。
そのやり取りを聞いた加乃が、「お城の見習い魔法使い…」とブツブツと呟いている。
「ねえ、さっき私をオーリン様って呼んだわよね?オーリン様って誰?」と桜子が尋ねる。
「オーリン様は偉大なる魔法使いでした。オーリン様はずっと昔に亡くなられておられますが、オーリン様は魔法使いの長であられたジーン様の伴侶でした。ジーン様は長を引退して、今ではお二方の息子のダンテ様がその後を継いで居られます。」
「ジーン?ダンテ?」加乃が更にブツブツと言っている。
「はい、オーリン様とジーン様にはもう一人ご子息がおられました。彼の名はギリアンと申されました。」
そこで皆がぎょっとする。
「ギリアン?お祖母ちゃんが叫んだ名前と同じ名前の人が魔法使いの長の息子…?」そう言って桜子が混乱している。
「ねえ、過去形で話してるけど、そのギリアンって人は?」そう奈々が尋ねると、
「もうずいぶん前に亡くなられました。」というジャンの言葉を聞いて、
加乃が「ギリアン…ギリアン…私の愛しい人…」と呟いてその場に倒れ込んだ。
「お祖母ちゃん!」桜子たちが慌てて駆け寄ってくる。
「これはますますギリアンってやつが銀髪野郎だって言う事は、ばあさんの態度を見れば、一目瞭然だな。」と言いながら直人が加乃を抱き上げ、そっとソファーの上に寝かせた。
そして、皆ソファーの方へ移って来て、色々とジャンから聞き出すことにした。
「ね、ここに座って。」そう言って桜子がジャンをガーデンテーブルがある所の椅子に座らせた。
温室を一回り見回してジャンが一言、「ここってシャレーの森に雰囲気が似ていますね。」と。
桜子は温室を見渡しながら、
「シャレーの森も、あなたの説明する人々も私たちは知らないけど、ギリアンって、どんな人だったの?もしかしたら、お祖母ちゃんの知ってる人かもしれないの。」そう桜子が尋ねると、
「私が生まれた時は既にお亡くなりになられていたので、詳しい事は分からないのですが、長の塔にある肖像画からは、ながい銀色の髪と深いブルーの瞳をした好青年だとお身受け致しました。それに、かなりの魔法が使えた人だとお伺いしました。」そうジャンは言った。
「ここまでくると、ギリアンて奴は、ばあさんの夢に出てくる銀髪野郎に間違いないな。だが、既に亡くなっているのか…」とポツリと直人が言った。
「でも、もし、ギリアンって人がお祖父ちゃんだったら、なんだか辻褄が合わない? お祖母ちゃんの記憶とか、私がギリアンって人のお母さんに似ているとか。」と桜子が言うと、
「それだと俺たちが1/4異世界人で魔法使いってことになるな。それも長がひい爺さんかよ。」と誠がポツリと言った。そして、
「なあお前、これが何の花だかわかるか?」と加乃の指輪を見せた。
その指輪を見てすぐさま、「あ、これはムーアの花ですね。」と答えた。
「これってお前の世界では枯れない花なのか?」と直人が尋ねると、「ちょっといいですか?」と言い、指輪に手をかざした。
「あ~この指輪には花が枯れないように魔法がかけてありますね。」とジャンが言った。
「そうか、そんな仕掛けがあったんだな。」直人が納得している。
「な、ところで、ジャンといったっけ?お前さ、全然知らない世界に来て、怖い!とか、不安!とか無いのか?」と直行が聞いた。
「そうですね、どのような事が起きても慌てないよう、冷静に対処するように教えられてますので。」そうジャンは返した。
「一体、お前の世界ってどうなってるんだ?」と直人が尋ねると、
「どうなってるって、どういう意味ですか?」とジャンが尋ねる。
どうやらジャンは、違う世界へ来たことに気付いていないようだ。
直人は、「ま、一見は百聞にしかずだな。」と言って、「ちょっとこっちへ来てみろよ。」と言って、ジャンを温室の外へと誘った。
ジャンは直人について行き、温室の外に出た。
そして直人は、「ほら、見て見ろよ。これが俺たちの世界だ。お前のとは違うだろ?」と言って、向こうに見える東京の街をジャンに見せた。
ジャンはその壮観な眺めに、「こ、こ、ここはジャラルートンでは無いのですか!?」と言ってその場にヘナヘナと座り込んだ。




