第19話 検証会
「お邪魔しま~す!」そう言って奈々、直行、和人の三人組は桜子の家にやって来た。
「お前んち、凄いとこに立ってるな。」と直行が言うと、
「お祖母ちゃんの温室も凄いのよ。今日はお祖母ちゃん地方へ行ってて帰り遅いし、私のお気に入りの場所だから、今日はそこで検証会を行いましょう。」と言って桜子が皆を温室へと導いて行った。
ドアを開けて温室に入ると、奥のソファーで人影が動いた。
「ちょっと、桜子、今日あなたのあばあさん…居ないのよね?」と奈々が恐る恐る尋ねた。
「だからそう言ったでしょ。」と桜子が言うと、
「誰か居るみたいよ。」と奈々が続けて言う。
桜子が首を傾げて「マコ兄かな?温室なんて滅多に来ないのに。」と奥に進んでいくと、ソファーの上で誰かが寝ていた。
「幽霊?幽霊なの?私、幽霊やお化けの類はダメなのー」と直行の後ろに隠れたようにして奈々がその後を付いて行く。
「お前、離れろ!こんな真昼間から幽霊なんて居るわけないだろ!」と直行は背中にしがみ付いた奈々を引き離そうとしている。
桜子も、「足のある幽霊なんて居るわけないでしょ?」と奈々をなだめている。
そうすると和人が、「いえ、幽霊にも足は立派にありますし、真昼間でも、真夜中でも出て来る幽霊は出てきますよ。」と言っている。
「おっ、さすがSFオタク!うらめしや~の類はお前に任せた!」そう言って直行は奈々の背中を和人の方へ押した。
そして奈々は今度は和人の背に隠れて、チラチラとソファーの方を見ている。
桜子はソファーの前に回り込んで、「なんだ~直兄かあ~、びっくりさせないでよ。」と安堵の息を付いた。
「え?直兄ってサッカーの?」と直行がヒソヒソと桜子に確認する。
それを聞いた直人が、桜子が答えるよりも早く、
「そうで~す!サッカーやってた直人君で~す。よろしく!」とソファーから起き上がってあいさつをする。
直行は神の様に崇める直人に思いがけず遭遇し、緊張して、
「ハッ!吾輩は城南学園1年サッカー部の古賀直行であります。」と頓珍漢な自己紹介をしている。
それを見て、直人は「ハハハ」と豪快に笑いだした。
「お前、面白いな?」と言う直人に、「光栄であります。」と啓礼した。
それを見ていた桜子が、直行の頭をスパーンと手で叩いて、
「何頓珍漢なあいさつしてるの?あなたバカじゃないの?良くうちの学校に入れたわね。」とあきれている。
「いや、ほら、俺、有名人に会った事なんて無いから…」と繕っている。
「は~???誰が有名人?ただの科学バカの大学生じゃない。」と桜子は辛口だ。
それを見て奈々が「チョットォ~何なのこの美形、ほんとにあなたのお兄さん?」と耳打ちしてくる。
「それ、どういう意味よ!」とボソボソと奈々に返した。
「お兄さん黒髪なんだね。でも見た目はハーフって感じだよね。私達よりは色素薄いけど、桜子よりは濃いね。でも、バランスが絶妙だね。」と奈々はベタ褒めしている。
桜子はハア~と一息ついて、「一番上の兄の直人です。」と皆に紹介し、「彼らは学校の友達で、奈々、和人、そして直兄のサッカー部の後輩のアホ直行!」と兄に紹介した。
「なっ、なんで俺だけぞんざいな扱いなんだよ!」と直行が怒ると、「だって本当のことでしょう!」と桜子がベーと舌を出す。
和人が、「今日は皆でお邪魔して申し訳ありません。」と挨拶をする。
そして奈々が、「よろしくお願いします。」と続いた。
直人はと言うと、「いや~、桜子の友達になるって皆勇気あるな~。ま、よろしく!」そういってまた、ゴロンとソファーに寝転んで読みかけだった本を読み始めた。
「それにしても直兄、いつ帰って来たの? 今週は来ないって聞いてたんだけど?」と桜子が言うと、
「あ~、アパートの風呂が壊れてな、急遽戻ることにしたんだよ。ま、俺はここでまったりとしてるから、君たちはやりたいことをどうぞ~」と言ってあまり気にはかけていないようだ。
「じゃ、遠慮なく。」桜子はそう言って、ガーデンテーブルの周りに折り畳み式の椅子を持ってきて、皆でそこに腰かけた。
「ここ、凄く良いわね~、緑多いし、リラックスできるし、静かだし、集まって宿題や、試験勉強するのも捗りそう~」と奈々は気に入ったようだ。
「私、ここへ来ると直ぐに眠くなるわよ。」と桜子が言うと、横から直人が、
「ま、お前はそうだろうな。それに小さい時かくれんぼした時は、見つける前に眠りに落ちてたしな。」と付け足してくる。
「お前、小さい時から変わってないんだな。」と直行に言われ、当の直人は、「お、直行くん、桜子の事、良く分かってるな!」と言ってまたガハハと笑っていた。
「皆、直兄は無視、無視。さ、この検証始めよう。」そう言って、桜子は魔法陣が書かれたメモを出した。
それを皆で覗き込んで、
「これって、もう一人のお兄さんが書いたんだよね?」と奈々が尋ねる。
「そうらしいよ。自分でそうだって言ってたから。」と桜子が言うと、
「しかし、良く出来たもんだな?」と言う直行に、和人が、「直行君、昨日僕達とミステリーサークルに行ってたら、腰抜かしてたと思うよ。」と言った。
「あ~あの魔法陣を壁に描いたってやつの事か?」と直行が言ったとたん。直人の耳がピクッと動いた。
「ほら、これがその写真よ。」と言って、桜子が現像して引きのばした写真をテーブルの上に乗せた。
それをソファーに寝ていたはずの直人が束さず取り上げ、「お前ら魔法陣について話してるのか?」と聞いてきた。
「何?直兄なんて魔法陣なんて興味ないでしょう?」と桜子が尋ねる。
「いや、最近なんかやたらと魔法陣と言う言葉を耳にしてな。」と写真をまじまじと見ている。
写真の魔法陣を見て直人が、「あれ?これ?」と首を傾げた。
それを見た桜子が、「何?直兄も見たことあるの?」と尋ねると、
「いや、見たも何も、これ、ばあさんの日記にある魔法陣じゃないか?」と直人に言われ、
「えっ?お祖母ちゃん?」と桜子がびっくりしている。
「ああ、間違いないな。お前らはまだ小さかったから覚えてるか分からないけど、小さい時はここで良く遊んでな。」と言って、桜子が、
「あ、それは良く覚えている。」と言った。
「おまえ、ばあさんの温室にある花の絵を描きたいって言って、テーブルの上にあったばあさんの日記を持ってきて開いてるページに絵を描き始めてな、こってりとばあさんに叱られた事があるんだよ。」
「え~。それは覚えてな~い」
「だろうな、お前が5歳か6歳の頃だったからな。」と直人が言うと、
「それじゃこれって、お祖母ちゃんの日記をみた潜在意識が書かせたものだったの?」と桜子ががっかりとした。
「でも、おれ、ばあさんの日記を見たとき、小さいながらも変な違和感を感じたのを覚えてるよ。」と直人が言った。
「それって、どういう意味?」と桜子が尋ねると、
「なんだろう?今ではもう思い出せないけど、その時に感じた違和感だけは今でもはっきりと覚えているよ。」
「お祖母ちゃん、その日記って今でも持ってるのかな?」
「おそらくな、凄い大切にしていたから。ま、ばあさんが帰ったら、聞いてみる事だな。」と直人はそう言って、またソファーにゴロンと転がった。
「おまえの兄貴の話からすると、これはもしかしたら、もしかする代物かもな?」と直行が言った。
「ね、とりあえず、この魔法陣、大きくどこかに書き写してみない?」と奈々が提案した。
「でも、なんでお祖母ちゃんが…」と桜子はまだ実感できないでいる。
「ね、とりあえず月野さんの言う通り、何処かスペースがある所に書き写してみようよ」と和人に言われ、桜子はどこが良いかを暫く考えてみた。
そうしたら直人が、「家続きの方は壁が空いてるから、とりあえずは家側の温室の壁に書いたら? 後はタペストリーか何か掛けて隠しておけばいいし。」と提案してくれて、桜子たちはそうする事にした。
「それにしても、お前って今だに異世界や王子様云々だって言ってたんだな。」と言って、直人はプッと笑った。




