第一章第二節
茶色い大地があたりに広がる中、雪とソフィアを乗せた1/2トラックは重いエンジン音を立てながら廃墟の中を進む。
「……師匠、このあとどうやって合流するんだっけ?」
助手席に座る雪は運転しているソフィアに尋ねる。
「えぇ?朝の話もう忘れちゃったの?」
ソフィアは目線は前から離さずにいた。だが、隣にいる雪にわかるくらいに呆れたと言わんばかりの顔をしていた。
ソフィアは大きくため息をつく。
「はぁ、じゃあもう一回言うから耳の穴かっぽじってよく聞きなよ?」
ソフィアは運転しながら雪の耳を引っ張る。
「いっ!!わかったから!ちゃんと聞くから!」
「はぁ……ちゃんと聞いてよ?」
そう言ってソフィアは雪の耳から手を放す。離された雪は赤くなった耳をさすりながら不満そうな顔をする。
「……いい?私たちが乗ってるこの車にはGPSが内蔵されてる。だから基地には私たちの居場所はまるわかりなの。だからこのままとりあえずピルバグのテリトリーを突っ切る。たったそれだけのことなのになんで忘れちゃったの……」
「え!?それだけ!?具体的な方法なんにもないじゃん!どうすんの!?」
雪はソフィアの言葉に驚いた顔をし、右手で顔を押さえる。
「はぁ、師匠があほすぎて辛い……」
「あぁん!?男なのになに女々しいこと言ってんのよ!本隊だってこっちの動きは捕捉してんだからなるようになるでしょ」
雪はソフィアの楽観的な思考にため息が自然と出て、頭をかいた。
二人を乗せたトラックはやがてピルバグのテリトリーへと近づく。
「テリトリーまで残り500.そろそろ警戒始めよう」
「オーケー。こっからは無駄口なしだよ」
その時、前方から地鳴りの音が二人に聞こえる。
雪の表情は恐怖と興奮でぐちゃぐちゃになり苦笑いをしていた。
「……なあ師匠、この音って…まさか」
ソフィアはなにも声を発さなかったが、その表情は険しいものになったいた。
車が前に進むにつれ次第に音は大きくなってゆく。そして二人は車の揺れではない、明らかに地面が揺れているのを感じた。
「……やっぱりそうだ師匠」
二人の車はやがてテリトリーとの境界まで進んでいた。遠くの方には大きな砂煙が上がっていた。
「ピルバグがテリトリーの中心地から向かって来てる!」
前方の砂煙を飛び出してきたのはピルバグだった。
「雪!つかまってな!!」
「ちょっ!?うわっ!!」
ソフィアはブレーキを思いっきり踏み、ハンドルを左いっぱいに回した。二人を乗せた車はドリフトしながら左へと旋回し、廃墟の市街地の中で再び加速する。
雪は突然の減速にダッシュボードに頭が割れんばかりにぶつけ、そして今度は遠心力で右の窓ガラスにぶち当たった。
「っつー。曲がるならもっと早く言ってくれよ!」
ピルバグも自らの足でブレーキをかけ、地面を滑りながら二人を追いかける。その巨躯似合わない爆速でじりじりと二人に迫る。
一般的なダンゴムシの体長は10mm、質量は1gである。体長50メートルの場合、単純計算でもその質量は12500トンである。ピルバグに追いつかれたらどうなるか想像するのは二人にとって容易だった。
「雪!あんた手榴弾いくつか持ってるね!?そいつを全部後ろのストーカーにぶちかましな!」
「意味あるのこれ!?」
「ないよりはましよ!早く!!」
雪は慎重に立ち膝で後ろを向き、ありたっけの手榴弾を手にもった。そして最初の一つのピンを抜き構えた。
「昨日みたいに熱くならないでよ!」
「わーってる!クソッ!これでも食らいやがれ!ストーカー野郎!!」
ピンの抜いてある手榴弾を思いっきり振りかぶって迫りくるピルバグの顔面に向かって力強く投げつけた。
放たれた手榴弾は地面にコンッと音を立て、ピルバグの顔の前へと弾む。
ゴオオンッと爆音が鳴り響き、砂煙が立ち込める。
「やったか!?」
雪の期待を裏切るようにピルバグは砂煙から再び出てくる。爆発でひるんだのであろうか差は爆発前と比べ少し開いたが、そんな差は時期に縮められてしまう。二人に必要だったのはこんな時間稼ぎではなく、決定的な隙と確実にこの場から脱出できる方法であった。
「気を緩むんじゃないよ!こんなんで倒せるなら攻略に手間かかるはずないでしょ!」
雪の表情はこの絶望的な状況を前に気がどうかしたのか、笑顔であった。
「もうこうなりゃやけくそだ!」
そう言って雪は後ろから今度はロケットランチャーを手にした。笑みを浮かばながらも弾を込め終えるとピルバグに向かって銃身を構える。
「ちょっ、雪!?なにしてんの!?」
「こいつをその目ん玉の中にぶち込んでやるから覚悟しやがれ!」
雪は引き金を思いっきり引く。
「ぐっ!」
不安定な姿勢だった雪は発射の衝撃により後ろにのけぞる。
バンッという音と共に発射された弾は煙を発しながら高速でピルバグへと飛来する。
着弾と共にさっきの手榴弾よりもより大きな爆発音と黒い煙があたりを立ち込める。
ピルバグが煙の中から進む様子は二人には見られなかった。その代わり、煙の中から凄まじい轟音と共に左右に広がるビルが一階部分から崩壊をはじめドゴオっと大きな崩壊音があたりを満たした。
さっきまでピルバグの巨躯が生み出していた地響きと鈍い音は二人の車が煙よりも遠ざかるにつれどんどんと小さくなっていく。
雪はピルバグのいた煙の方を見ながら、額ににじむ汗を左腕で拭った。
「ふうーっ。何とかなったな師匠」
座りながら言う雪にソフィアはグーの拳を振りかぶりドコっと鈍い音が雪の頭でした。
「バカ!また勝手に熱くなっちゃって!昨日の失敗をもう忘れたの!?」
「ごめんって!でもこれで安心して帰れるんだ。万事解決でしょ」
「……ったく…」
二人を乗せた車は基地に向かって走り続けた。
次第に周りの景色はオフィス街から住宅街へと変わっていき、車のスピードもピルバグに追いかけられていた時のように爆速ではなくなり二人の顔にも余裕が見えてきた。
ゴゴゴゴゴゴゴ。
二人の後方に鈍い音が響く。




