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魔女的エクアージュ~失恋した腹いせに世界を破滅させる物語~  作者: ゆいレギナ
五幕 落涙戯曲

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怯える相手は魔女か魔王か



 ◆ ◆ ◆



「こんばんは」


 その声に、ルイスは震えあがった。高くもなく、低くもない。そんな普通の女性の声音に、ルイスは布団の中でますます身を固くさせる。


 そんなルイスを見ながら、制服姿のユイは嘆息した。


「そんな怖がられると、さすがの私も傷付くんだけど?」

 

 そう言いながら、ユイは彼の毛布を剥ぎ取ろうと引っ張る。だけど、怯える彼の力強さに毛布は思うように動かない。

 ユイの横に立つナナシが言う。暗闇の中でも浮かび上がるような白髪を下し、黒い外套を身に纏っていた。


「相変わらずか弱いな、エクアージュよ」

「そう言われたって仕方ないじゃない。腕力とか自信ないしさ……あーもう! 早く出てこないと、毛布ごと燃やすわよっ‼」


 ユイが叫んだ瞬間、ルイスの力が一気に弱まる。即座に反応出来ないユイは、勢いのまま後ろによろけたが、その肩をナナシが支える。


「短気だな。だけど、その発想はなかなか良いぞ。短絡的思考が魔女らしい」

「褒められてる気がしないんですけど?」

「別に褒めてはおらんからな」


 淡々と述べるナナシに対して「あーそう」と半眼を返し、ユイはため息を吐きながら立ち直した。

 ベットを見やれば、毛布からヒョッコリ顔を覗かせたルイス。


「今日はお姉ちゃん、具合どーなの?」

「もちろん問題ないわよ。てか、今までだって空間移動、三日に一度しか失敗してないし」


 胸を張るユイに対して、ナナシは淡々と呟く。


「まぁ、怪我しそうな時には私がフォローしているからな。二日酔い程度なら放っておくが、さすがに手足がなくなられてはたまらん」

「そりゃあ、ご親切にどうも」


 空間転移の魔法も少しずつ慣れてきたとはいえ、完全な成功率は高くない。長距離移動も難しいため、なるべくこの部屋に近づいてから、五回に分けて転移してきているくらいである。


 ――正直なところ、今だって気持ち悪くて吐きそうだけどね。


 ユイはそれを誤魔化すように「さて」と大きく息を吐いて、小型通信機(モバイル)を取り出した。


「とりあえず、今日もパスを変える所から始めますか」


 ユイはルイスのベッドに腰かけ、小型通信機(モバイル)を叩く。


「今日のも……観てたんだよね?」


 毛布からかろうじて顔を覗かせたルイスが尋ねてくる。それに、ユイは視線を手を動かしながら答えた。


「えぇ。ナナシの名前であんなに狼狽えてくれちゃってさぁ。堂々としていたらいいものの、あんなに怯えてたら、絶対メグに怪しまれるじゃない」


 ルイスの部屋に設置してある監視カメラは四つ。もとは政府の施設として設置してあるカメラである。

 ユイはそれに、データ転送用の装置を取り付けていた。そして今は、ダミー映像が管理施設には送られるようにしてある徹底ぶり。

 ただ、一日一回は定期的に専用の虫による検査が入る。それを誤魔化すための防波(ジャミング)装置も当然完備。そのアクセスデータも察知されないよう、こうして定期的に変更しているのである。


「おれのこと……殺すのかよ?」


 そう言うルイスの顔は真っ青だった。ユイは横目でそれを見て、鼻で笑う。


「こんな厳重な部屋の中で死んでたら、それこそ大ニュースよ。そんな大事にするメリット、私たちにはないわ」


 そう言って小型通信機(モバイル)をユイは睨む。毎日毎日、少しずつ趣向を凝らし誤魔化してきたが、そろそろパターンが尽きてしまいそうだった。


 ――そろそろ限界かもね。


 ユイは顔を上げた。


「君さ、本当に魔法使えないの? メサイアで魔法の実験体(サンプル)してたんでしょ?」

「だから使えないってば。もう何度も言ってんじゃん。使えたら、こんなつまらない場所で大人しくしてないよ!」


 ルイスの言う通り、それはもう何度も訊いた話だった。


 ルイスの反政府組織(メサイア)での役割――それはただ一介の工作員ではなかった。


 女神から遣わされた救世主メシアの御使い作成――という名の、魔法実験体(サンプル)。科学の髄を極めたエクア政府に対抗するために、魔法の再誕を目指したこの作戦(プロジェクト)は、反政府組織(メサイア)の一番大きな研究らしい。


 ――やろうとしていることは、私と一緒というわけだ。


 かつて、エクアを追い詰めた魔法の力を駆使して、エクアという世界を転覆させよう――それは、ユイたちがやろうとしていることと変わりはない。


 ルイスがユイの沈黙に耐えかねたのだろう。布団の中から叫んでくる。


「だいたい毎日毎日、おまえは何しに来てくるんだ⁉ 反政府組織(メサイア)が世界大戦時に他国が使用していた魔法の力を蘇らせて、この鎖国国家を終わらせようとしていることは、散々話しただろ?」

「えぇ。反政府組織(メサイア)のそもそもの起源が、閉鎖する時に巻き込まれた他国籍住民の反乱で、秘密裏に魔法理論が引き継がれているんでしょ? 大丈夫よ。耳にタコが出来るくらい聞いたから」


 淡々とするユイの態度が気に入らないのだろう。ルイスが布団を撥ね退けた。


「そうだよっ! 根掘り葉掘り、おれが知ってることは全部話したろ? これ以上おれに何を求めてるんだ⁉ もうおれを……兄ちゃんを解放してくれ……」


 布団を握りしめ、泣きそうな顔でルイスは唇を噛みしめている。それを見たユイは小型通信機(モバイル)を閉じて嘆息した。


「ルキノと毎日会ってるからわかるでしょ? 君がいい子でいてくれてるから、私はちゃんと約束守って、危害を加えていないのだけど?」

「怪我の治りが悪いじゃないか! 当初の話では、もう松葉杖なしで歩けてもいい頃合いなんじゃないの⁉」

「それは……」


 ――ルキノの自業自得なんだけど。


 そう言おうとして、ユイは口を噤む。

 彼がこう言ってくるということは、ルキノが自分とルイスの治療費のために、無理をして怪我を悪化させたことが伝わっていないのだろう。


 ――言えばいいのに。


 男のプライドだとか、そんなものはユイには関係ないものの、あえてユイが伝える話でもない。


 そもそも、それを話したところでどうなるものでもないのだ。

 別に、ルイスと仲良くなりたいわけでもない。ルイスの機嫌を取りたいわけではない。


 ――もしそうだとしたら、ルキノの命を盾になんかしてないわよ。


 始めは、ルイス自身も固く口を閉ざしていた。

 だけど、結局一言ルキノの名前を出した途端、彼はあっという間に反政府組織(メサイア)の情報をペラペラと話し出したのだ。


 ――まぁ、この子としても自分を裏切った組織に、義理立てする必要もないんだろうけどさ。


 それでも、表立っては兄とピリピリしている彼が、裏で懸命に兄を守ろうとしているのだと思うと、ユイとしては微笑ましい。


 その苦笑を隠すためにユイが顔を下げると、ルイスがさらに声を荒立てた。


「だいたい、あんたたちこそ本当に何がしたいんだよ⁉ 魔法だって――」

「だから、私はエクア政府とも反政府組織(メサイア)とも関係ないって、何度も言っているでしょう? 私はただ、あんたのお兄ちゃんにフラれた腹いせで、この世界を壊してやろうとしている一般市民よ」

「そんなわけないだろ⁉ そのお姉ちゃんの髪が黒いのだって、マナの実験の成果だったりするんじゃないのか?」

「これは生まれつきだって……」


 言いかけて、ユイは気付く。ルイスが見ているのは、自分ではないことに。

 ルイスは顔を上げて、ナナシを睨み付けていた。


「怪しい薬とかも実験してたんだもんな? そもそもおまえが一番怪しいんだ! こいつも何だかんだ、おまえの実験体(サンプル)だとか言い出すんじゃねーのかよ⁉」


 ルイスの追及に、ナナシは一言も返さない。眉一つ動かさず、その金眼は冷たい光を放っているのみ。造り物のような顔に感情はない。


 ルイスの言葉に、ユイも視線を上げた。


「ナナシ。あんた薬学にも精通しているの?」

「私はエクアにおける全てを学んでいる。それが伝説(レジェンド)などと呼ばれている由縁でもあるな。昔から、私は天才だったのだ。何もおかしなところはあるまい」


 ――いや、そう言い張る自信こそがおかしいと思うけどね。


 かと言っても、ユイは今までの経験から、この男から何かを訊き出せたことはない。

 情報はこの男の語る言葉しかなく、それに嘘も裏もない。


 そんな男が、ユイの味方なのだという。

 ただ、それをユイは信じるだけだ。


「すべてを疑って生きるなんて、さすがにしんどすぎるわ」


 ユイの呟きは耳にも入れず、ルイスは枕をナナシに投げつけていた。


「あと十年だ! おまえの魔女の寿命はもって十年! たった十年で何が出来るんだよ⁉ 政府を滅ぼしたとして、そのあとは? 他に仲間いないんだろう? おまえ一人になって、どうするんだよ⁉」


 ナナシはルイスのことなど見ずに枕を片手で受け取って、横目でユイを見やる。

 少し細まったその鋭い目が、ユイにはなぜか悲しそうに見えた。


「……エクアージュよ。貴様は十年で死ぬつもりか?」


 黒という色は、マナを受容しやすい色。中毒症状になりやすい色彩。

 そのため、反政府組織(メサイア)での実験結果を基にルイスが判断するには、ユイの寿命は十年だという。それは、あの実習の時にも聞かされたこと。


 ――そんなこと急に言われたって、どうすればいいのよ。


 十年。

 それを長いと捉えるか、短いと捉えるか。まだ二十年も生きていないユイにはわからない。

 学生であった十年間はあっという間だった。そして今も、駆け抜けるように最後の一年をこうして過ごしている。だけど、もう一度この十年を過ごしたいかと訊かれたら、ユイは首を横に振るだろう。


 話を振られ、ユイは苦笑しながら首を傾げた。


「そんなのわからないわ」

「だ、そうだ。ならば、私も十年後のことはわからん。そもそも、私が十年後に生きているとも限らんしな」


 珍しくわからないと口にするナナシに、ユイは苦笑する。


「そういえば、あんた今年でいくつなの?」

「期待通りの答えをやろう、わからないな!」


 自信に満ち溢れた笑みを浮かべるナナシ。ユイは自身の額を押さえた。


「うわぁ、そんな答え望んでないし」


 そう言いながら、ユイはナナシと顔を合わせて笑う。そんなやり取りで、ルイスの機嫌が良くなるわけがなかった。


「おかしい……おまえら、おかしいよ! 頭のネジがどっか飛んで行ってるんじゃないの⁉」

「あら、随分古典的な表現するのね」


 ユイは髪を掻き上げた。


「マトモな奴が、世界を破滅させようなんてするわけがないじゃない」


 嘲笑うような顔で言いきって、ユイは続ける。


「そういえば、メグも言ってたわね。私たちが演劇する時、ルイス君も観れるようにするって。そのこと、ちゃんと君の仲間にも伝えておくのよ?」


 ユイの言葉に、ルイスはゴクリと唾を呑む。それに、ユイはますます笑みを深めた。


「もちろん君の仲間(メサイア)ともちょっとだけ連絡が取れるように私が細工するし、普段は面談謝絶になっているような患者も観劇できるって、噂も流しておくけどさ」


 嗤うユイに、ルイスは歯ぎしりを返す。


「おまえ……おれからどれだけ奪えば気が済むんだよ……」

「あら、まだあの団体に心残りがあったの? 裏切られたのに?」

「やっぱり……それでもお世話になった人とか、大勢いるんだよ」


 声を萎ませる少年に対して、ユイは肩を竦め、


「諦めたほうがラクよ?」

「……出来たら苦労しねーよ」

「それもそうね」


 何回目かわからない苦笑を返し、「あ、そうそう」と話を変えることにした。


「そういえば、他にも訊きたいことがあってさ」

「何だよ、もういいだろ――」

「私さ、昔にも君に会ったことある?」


 ルイスは顔を上げる。ユイは純粋に眉をしかめる。


「本当に覚えていないんだね……」


 ルイスは無表情でそう口にしたあと、ふとナナシの顔を見た。そして、すぐさま険しい顔になった後、即座に布団に潜る。


「教えないっ! それだけは死んでも教えてやらないっ‼」


 そう叫ぶルイスの身体が布団越しでも震えているのが見て取れる。


「何それ、余計に気になるじゃない‼」


 ユイが何とか布団を引っ剥がそうと試みている光景を、ナナシは無表情に見つめていた。





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