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竜魔玉  作者: 鈴神楽
9/14

オーストラリアのエアーズロックで聞こえる、アボリジニの笛音

エアーズロックは、誰の者?

 オーストラリアの平原を走る車中で較が説明を開始する。

「今回の竜魔玉なんだけど、少し面倒な所に落ちてるの」

 優子が首を傾げる。

「落ちてるということは、もしかして誰にも拾われていないということ?」

 較が頷き、車の窓から見える巨大な岩、エアーズロックを指差して言う。

「あの岩の裂け目に入り込んで、人の手が届かない状態なんだよ」

「それでもヤヤ達だったら、魔法か何かで何とかなるだろう?」

 雷華の言葉に小較が首を横に振る。

「それが、竜魔玉の力が変に発動してて、駄目なの」

 智代が困った顔をして言う。

「それじゃ、取り出せないって事?」

 それに対して良美が言う。

「あの岩を砕いて取り出せば良いだけだろ」

 風太が眉を顰める。

「おいおい、世界的にも有名なエアーズロックを破壊するのは、止めてくれよ」

 それに対して較が言う。

「あちきだって分別がありますから、やるとしても必要最小限の穴の拡張を予定していて、オーストラリア政府に申し込んだんだけど……」

 言葉を濁す較に智代が言う。

「オーストラリア政府の人に断られたの?」

 較は、首を横に振って言う。

「オーストラリア政府には、話は、ついたよ。でもね、オーストラリア政府は、エアーズロックを借りてるだけなんだよ」

 それを聞いてエアーナが言う。

「そういえば、あれの所有権は、原住民のアボリジニが持っているって聞いた事があるわ」

 較が頷く。

「聖地に踏み入るのも駄目、傷をつけるのは、もっての他だって完全に拒否してきたの」

 するとエアーナが言う。

「でも、確か、登山は、認められて居たと思いますけど」

 較が頬をかきながらいう。

「それには、色々条件がある上、現在アボリジニに宗教儀式の真最中なんだよ」

 それを聞いて風太が言う。

「いっその事、後に回すか?」

 それに対して良美が言う。

「後に回したって穴の拡張が出来なきゃ一緒だよ」

 較も頷く。

「逆に、儀式の最中で、アボリジニが集まっているのを利用して、交渉を行うつもり」

 こうして較は、アボリジニが集まる場所に向かった。



「そちらの儀式を邪魔するつもりもありません。そして、聖なる山に異教徒の物が入り込んでいるのもそちらとしては、不快だと思います。それを取り出すために多少の穴の拡張をお願いしたいんです。あちき達がやるのが反対でしたら、道具をお貸ししますのでそちらでやって、問題の物だけ回収させていただけませんでしょうか?」(英語)

 較が思いっきり下手に出て交渉を行う。

 その様子を見て優子が首を傾げる。

「おかしいわね。白風さんだったら、現地の言葉で交渉を行うと思ったけど、どうして英語なのかしら?」

 それに対してエアーナが答える。

「アボリジニの言葉は、複数あります。それら全てで話しかけるより、英語で話しかけた方が一度で済むと思ったんだと思います」

 すると、アボリジニの長が答える。

「ウルルにその玉が入ったのも神の意思。我らは、神の意思に従い、それをウルルの一部と認める」(英語)

 較は、顔が引きつるのを我慢しながら言う。

「あれは、あちきの家にあったものです。お返し頂く訳には、いきませんか?」(英語)

 しかしアボリジニの長は、受け付けない。

「今は、ウルルの一部。ウルルは、我らアボリジニの物。外から来た者に渡すいわれがない」(英語)

 較は、一度大きく深呼吸してから言う。

「無論、ただとは、言いません。ご迷惑をお掛けしたお詫びとしてこれを受け取ってください」(英語)

 較が差し出したトランクの中のオーストラリアドル紙幣に周りのアボリジニが驚くが、長は、つき返して言う。

「これ以上、我らの誇りを売るような真似は、出来ない」(英語)

 こうして交渉は、完全に失敗した。



 一番近い町の食堂のテーブルに突っ伏す較に良美が言う。

「ヤヤも大人になったな。あんな態度にとられて力尽くの行動をとらないんだから」

 較は、溜め息混じりに言う。

「最初から、交渉する気が無いのがもろに判ったけど、傲慢というのとは、違った気がしたからね」

 智代が不思議そうな顔をする。

「それってどういう意味?」

 優子は、考えながら発言する。

「何処か悲壮な物を感じましたね」

 するとエアーナが言う。

「多分、精一杯の矜持なんだと思います。エアーズロックがオーストラリア政府に貸し出されている事は、話しましたよね?」

 雷華が頷く。

「それがどうかしたのか?」

 エアーナが真剣な顔をして言う。

「もしも富士山をアメリカ政府に貸し出すとしたら、皆さんどう思いますか?」

 それを聞いて智代が手を横に振る。

「それは、絶対にないよ。富士山は、日本の宝なんだからね」

 エアーナが較の方を向いて尋ねる。

「その可能性は、まったく無かったと思いますか?」

 較が首を横に振る。

「敗戦直後の日本で、富士山観光がお金になっていたら、可能性は、あったと思う。実際問題、当時の日本の誇りであった天皇陛下に対してアメリカの将軍が横柄な態度をとっていて、多くの国民がそれを屈辱と感じながらも逆らうことが出来なかったって話もあるくらいだからね」

 優子が言う。

「詰り、アボリジニにとっては、エアーズロックが富士山の様な物で、それを貸し出さなければいけない現状に納得していないって事ですか?」

 エアーナが複雑な表情で言う。

「その可能性があるって事です。最後に言っていました、これ以上、誇りを売れないと」

 相手に同情を感じる不思議な空気の中、食堂のドアが開いて、数人のアボリジニが入ってくる。

「さっきの話は、まだ有効か? お金をくれるんだったら、俺達があんた達の欲しがっていた玉を掘り出してやるよ」(英語)

 較がトランクを目で示して言う。

「それって、長の了解を得ているんですか?」(英語)

 押し黙るアボリジニ達にエアーナが言う。

「貴方達は、平気なのですか? そのお金を受け取ると言う事は、誇りを売ることになると思っているんじゃないんですか?」(英語)

 するとアボリジニ達が言ってくる。

「子供に何がわかる!」(英語)

「俺達もまともな生活がしたいんだ。その為には、金が要るんだ!」(英語)

「娘に綺麗な服を着させて、美味しい物を食べさせてやりたいんだ!」(英語)

 小較が風太に尋ねる。

「アボリジニの人たちって貧乏なの?」

 聞かれた風太が困っているとエアーナが答える。

「彼らは、政府に手厚く保護をされているはずですよ」

 日本語が解るアボリジニが反論する。

「所詮は、生活保護だ! 白人の連中みたいに贅沢なんて出来ない。金持ちは、皆白人だ。アボリジニは、ただ生かされているだけだ!」(英語)

 較は、トランクを突き出して言う。

「持って行って良いよ。それと必要な道具があれば、ここに電話して頼めば用意してくれる」(英語)

 一つの電話番号を渡す較。

 それらを受け取り喜ぶアボリジニ達。

「ありがとう!」(英語)

 較は、何処か不機嫌そうに言う。

「お礼を言われる事じゃない。完全なギブアンドテイクなんだから」(英語)

 去っていこうとするアボリジニだったが、その背中に較が突き刺す一言を言う。

「その罪悪感は、永遠について回るよ」(英語)

 一瞬動きを止めるがアボリジニ達は、トランクを持って出て行った。

「本当に良かったのか?」

 良美の言葉に較がつまらなそうに言う。

「こっちにとっては、願ったり叶ったりの状況だよ」

 そんな較を見て風太が頭を軽く叩く。

「無理に大人のふりをするな。気に入らないんだろう?」

 較があっさり頷く。

「当然、長とは、対立したけどその行動には、信念があった。だけど、あいつらは、目の前のことしか見えてない!」

 他の少女達も頷くのを見て風太が告げる。

「皆が強いわけじゃない。現実に負けそうになる事がある。誇りを売っても良い生活をしたいと思うこともある。それが人間だ」

 エアーナが悲しそうに言う。

「それでも、納得したくありません」



 その翌日の夜、アボリジニから連絡を受けた較達は、エアーズロックから少し離れた場所で待機していると、あのアボリジニ達が竜魔玉を持ってきた。

「これで、あのお金は、俺たちの物だな」(英語)

 それを聞いて、較が頷くとアボリジニ達は、あっさり竜魔玉を差し出し、消えていった。

 なんともいえない空気の中、較が言う。

「もう出て来ても良いと思いますよ」(英語)

 較の声に答え、アボリジニの長が現れた。

 驚いた顔をしてエアーナが言う。

「どうして止めなかったんですか?」(英語)

 アボリジニの長が言う。

「あの者達の気持ちも解る。私とて、あの金額に動揺しなかった訳では、無い」(英語)

 エアーナが戸惑う。

「それでも貴方は、ヤヤの誘いを断った筈」(英語)

 アボリジニの長は、苦笑する。

「単なる痩せ我慢だ。しかし、痩せ我慢だろうと、我々年寄りは、若い者達にアボリジニの誇りをみせつけなければならないのだ」(英語)

 頭を掻きながら較が言う。

「誇りの為に断り、生活の為に見逃す。それで本当に良かったのですか?」(英語)

 アボリジニの長は、較の目を真っ直ぐに見て答える。

「そうだ。アボリジニは、新たな道を進まなければいけない。その為には、誇りを売ることになる事もあるだろう。それでも自分達がアボリジニだという誇りを忘れるわけには、いかないのだ」(英語)

 揺ぎ無い言葉に較も驚く。

 そんな較達に風太が告げる。

「中途半端じゃないんだよ。生きていくために大切な物を捨てずに進む為の決意なんだ」

 去っていくアボリジニの長の後姿は、決して卑屈なものでは、無かった。



 空港で較が言う。

「色々な考えがあるもんだね」

 良美が頷く。

「まだまだあたし達も子供って事だよ」

 そこにエアーナが来て言う。

「そうですね。でも、あたし達は、多くの先人の決意の下にここに生きているんです」

 頷く一同。

「もう出国するぞ、急げ!」

 風太に呼ばれ駆け出す較達であった。



 こうして、九つ目の竜魔玉を手に入れた較達が次の竜魔玉の探索に向うのであった。

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