クレータ島のラビリンスで鳴り止まぬ、ミノタウロスの鼻息
ミノタウロスの迷宮再び?
「ミノタウロスの伝説ってどんなお話なの?」
小較の質問に良美は、即座に隣に居た優子に振る。
「委員長の出番だ」
優子が少し悩んでから説明を始める。
「昔の王様が貢物の牛を気に入ってしまい他の牛を貢物にしてしまったの。それを知った神様がお妃様に呪いをかけて牛の頭の子供を産ませたのが始まりで、その子供が乱暴すぎて手に負えなくなったから迷宮に押し込み、食料のために人を送っていたのだけど、三度目の時に生贄の中に英雄がまざり、退治し、入り口から伸ばした糸車を使って脱出したって話よ」
それを聞いて小較が眉を顰めて言う。
「牛の頭の子供を産む呪いってどんな呪いなんだろう?」
すると優子の口から淫虫の魔王が答える。
「その神様がお妃様に問題の雄牛に性的欲情する様にして、セックスさせたみたいよ」
エアーナが顔を真赤にして言う。
「ミノタウロスってそんな経緯で産まれたんですか!」
智代が少し楽しそうに言う。
「歴史って意外とエロチック」
そんな中、較が帰ってきて言う。
「異種との交わりでの混血児の伝説は、多いね。特に化け物に犯された女が産んだ子供が人と化け物との両方の特性を持っているなんて言うのが多いよ」
雷華が苦笑する。
「でも全部伝説なんだろう?」
それに対して較が首を横に振る。
「八刃の一つ、霧流の始祖は、八百刃獣の一刃、天道龍と人間女性のハーフだよ」
風太が顔を引きつらせて言う。
「嘘だろ?」
較は、真面目な顔で言う。
「本当。遺伝子学的にも龍特有の遺伝子があることが確認されてる。まあ、あそこは、異世界の人達との混血も激しいから、それだけじゃないけどね」
小較が言う。
「それを言ったら、八刃は、全部、遺伝子的には、チンパンジーより人間から遠いって話だったよね?」
遺伝子改造された小較の言葉に較が頷く。
「まあね。だから、ミノタウロスが居たとしてもあちき達は、驚かない。でも、八刃では、ミノタウロスの父親は、近い位置に存在する異界の一つ、人のシルエットをもった獣、人獣の一種だって説が強いけどね」
優子が頭を抱えて言う。
「白風さんと付き合っていると、どんどん自分の常識が歪んでいく気がするわ」
智代が笑う。
「って委員長は、既に淫虫の魔王と一つになってるじゃん」
「五月蝿い!」
怒り出す優子を尻目に風太が言う。
「それで、竜魔玉の持ち主は、解ったのか?」
較は、首を横に振って言う。
「解らない。とにかくこの迷宮に侵入するしかないかもね」
較達の目前には、広大な迷宮が広がっていた。
「前に来たときとは、随分と雰囲気が違うな」
良美の言葉にエアーナが驚く。
「前に来た事があるんですか?」
較が頷く。
「ここは、伝説のミノスの迷宮を再現したものでね。前は、バトルに参加していた闘士が根城にしてたの」
良美が胸を張って言う。
「それをヤヤがぶち破って、勝ったんだよ」
「良美がえばる事じゃないでしょうが」
小較の突っ込むと良美が睨み返す。
「とにかく、バトルの組織も解体、再統合する中、その闘士は、その能力を買われて、あちきのお父さんが組織しているオーフェンハンターに入って、日々命懸けの仕事をしてる筈」
較の説明に風太が言う。
「日々命懸けって言うのが、誇張と思えないことが恐ろしいな」
迷宮を進んでいると小較が較の服の裾を引っ張る。
「ヤヤお姉ちゃん、これってもしかして?」
較が困った顔をして頷く。
「永久迷宮だね」
それを聞いて優子が首を傾げる。
「永久迷宮って何ですか?」
較が質問で返す。
「迷宮の目的って何だか知ってる?」
雷華が答える。
「お宝とか目的の物に接近させないことだろう?」
較が頷く。
「そう。迷宮の目的は、宝を守る事なんだけど、どんなに複雑に作った所で、後から宝物を取り出すなどの前提条件がある限り、到達は、可能なんだけど、これは、そういう条件が設定されていない。始めから到達させないために進んだら進んだだけ新たに迷宮を発生させる、それが永久迷宮」
智代が驚く。
「それって永遠に出られないって事!」
小較が首を横に振る。
「そんな無茶な設定は、出来ないし、例え竜魔玉があったとしても人には、不可能。目的地に近づかなければ広がらないし、逆に出口に向かえば向かうほど出口が近づくんだよ」
優子が納得する。
「あくまで宝を守るのが最優先の迷宮って事ですか?」
較が頷く。
「宝を守るというより、何かを封印する時に使われる事が多い迷宮なんだよね」
雷華が言う。
「なるほどな。それで、何か手があるのか?」
較が困った顔をする。
「それが、永久迷宮を突破する一番簡単な方法は、広がるより早く目的地に向かうことなんだけど」
そこで言葉が止まる。
「あたし達が一緒だと、きついって事か?」
良美の言葉に較が頷くと風太が言う。
「今回ばかりは、ヤヤに任せるしかないだろう。俺達は、ここから脱出しよう」
その言葉に不満そうな顔をする良美だったが優子達の説得で納得する。
「それじゃ、行って来るね」
その一言と共に、信じられないスピードで駆け出す較。
「ヤヤってやっぱり凄いね」
智代の感心する中、良美が複雑な顔をしていたのでエアーナが言う。
「ヤヤだったら何があっても大丈夫だよ」
「何でそんな事が言えるんだよ」
良美の言葉に雷華が言う。
「当たり前だろ、どんな化け物でもあっさり倒してしまうんだからよ」
「ヤヤだって勝てない相手なんていくらでも居る。そんな化け物がこの先に居ないってどうして言いきれるんだ!」
良美の怒声に周りが驚く中、風太が言う。
「少し、過保護じゃないのか?」
良美が首を横に振る。
「ヤヤは、無敵超人じゃない。悩んでるし、苦しんでる。だから、いざって時には、傍に居てやりたいんだ!」
雷華が言う。
「別に良美が居た所で、戦力的には、変わらないと思うがな?」
小較が首を横に振る。
「変わるよ。良美が傍にいるか居ないかでヤヤお姉ちゃんの覚悟は、違うもん。それにヤヤお姉ちゃんは、良美の了解が無ければ、絶対にホワイトファングを使わない」
一同が複雑な表情をする中、優子が言う。
「とにかく今は、この迷宮から出ることに集中しましょう」
良美達が暫く進んだところで、小較が何かを察知して言う。
「永久迷宮が解けたよ!」
安堵の息を吐く優子。
「白風さんが無事に竜魔玉を手に入れたみたいですね」
良美の表情も緩もうとした時、空間が歪んで、良美の姿が消失した。
「良美、何処に行った!」
雷華が怒鳴るが返事は、無い。
「探さないと!」
エアーナが慌てる中、風太は、首を横に振る。
「一度、外に出てヤヤと合流するのが先だ」
小較も頷く。
「ヤヤお姉ちゃんだったら、何とかしてくれるよ」
これといった手がかりが無かった優子達は、迷宮を脱出する事になったのだ。
迷宮の出口で優子達が待っていると、較が一人の中年男性を引きずって出てきた。
「それって、確か、さっきの話に出ていた元闘士のバッケンさんじゃ?」
何度かあった事がある小較が言うと、較が頷く。
「オーフェンハンターの仕事がきつくて、ここに逃げ込んでいたんだよ」
「すいません! これが白風の物だとは、思わなかったんです! だから見逃してください! まだ死にたくないんです!」
バッケンの言葉に較が言う。
「はいはい。泣き言は、迎えに来たオーフェンハンターの人に言ってね」
それから周囲を観察してから首を傾げる。
「ヨシが近くに居ないけど、どうしたの?」
優子達が言い出すのを躊躇する中、風太が前に出る。
「永久迷宮が解けた直後に空間の歪みに消えてしまった。どうしようも無かったので俺の判断で一度迷宮を脱出してきた。責任は、全部俺にある」
その一言と同時に較がバッケンを締め上げて言う。
「どういうこと!」
バッケンが事の重大さに顔を青褪めながらいう。
「多分、空間が元に戻ろうとする力と良美さんの体に吸収されたヤヤさんの肉体の一部が発する力が反発して、復元の際に弾き飛ばされたのだと思われます」
それを聞いて地面を蹴りつけ、大穴を作る較。
「その可能性を考慮に入れるのを忘れてた……」
悔しそうにする較に風太が言う。
「とにかく今は、助け出す方法を探すのが先決だ」
較が頷き、色々なところに連絡するのであった。
半日が過ぎた頃、調査をしていた、空間に関しては、強い能力を持つ霧流の長の妻、八子が言う。
「馬鹿がやった空間干渉の所為で空間の歪みが収まらない。この状態では、特定は、不可能よ」
較が縋りつく。
「八子さんだったらどうにか出来るでしょ? 報酬が足らないとか、必要な物があったらなんでも揃えます!」
八子が首を横に振る。
「そんな……」
地面にしゃがみこむ較を見て、誰もが声をかけられない中、智代が近づいて言う。
「そんなんだから、良美が余計な心配するの解ってる!」
較が驚く。
「ヨシが?」
エアーナが頷く。
「ヤヤが一人でいった後、凄く心配していたよ」
較が泣きそうな顔で言う。
「でも、あちきの力でも何も出来ない……」
すると智代が言う。
「ヤヤは、一人じゃない。全てを一人で抱え込んで、全てを一人で解決しようとしないでよ!」
そして智代が迷宮の入り口に近づき言う。
「ここは、あたしがやる」
智代は、導きの指輪の力を使おうとするのをみて較が言う。
「何度も言っているけど、それは、魂の力を使うから危険なんだよ! 特に今回は、八子さんの力でも駄目な事だから、使う魂の力は、半端じゃない。下手をしたら命に関わるよ!」
「あたし達は、ヤヤだけに戦わせるつもりは、無い。あたし達だって出来る事があったら、命懸けで頑張るよ!」
そういって智代は、導きの指輪を使う。
「ついて来て」
智代が先導する中、較達は、黙って付いていく。
そして、迷宮の突き当たりにつくと智代が言う。
「この壁の先の空間の歪みに良美が居るよ」
そう言い終ると同時に倒れる智代を雷華とエアーナが慌てて支える。
「確かにここね」
そういって八子が力を使うと、良美が目の前に現れる。
「偉い目にあった」
少し疲れている様子であったが、元気そうだった。
喜ぶ一同の中、較一人、暗い顔をしていた。
良美と智代の検査の為によった病院の屋上で較が空を見上げていた。
「あちきってどうしてこんなに弱いんだろう」
「ヤヤが弱いなんて今更な事だよ」
良美の言葉に振り返る較。
「でも、智代に無理をさせた。八子さんが居たから、大事に至らなかったけど、下手をすれば、智代は、死んでいたかもしれないんだよ」
辛そうに語る較の頬を良美が叩く。
「馬鹿! 何度も言わせないでよね! ヤヤ独りで戦っているわけじゃない。それなのに全て自分独りの所為だと思うなんて、あたし達を舐めてるの!」
「そうじゃないけど……」
言葉を濁らす較に良美が言う。
「力が無いから? それともヤヤみたいにコネが無いから? ヤヤがあたしより強いって言うならその拳で証明してみなさいよ!」
戸惑うヤヤに良美の拳が決まる。
「反撃も出来ない弱虫がいい気にならない。ヤヤが弱いなんて事は、あたしが知ってる。だから、あたし達に頼りなさい!」
較が涙を流しながら頷く。
「ありがとう」
次の目的地に向かう為に空港に来た較達。
「お願いだ、辞めさせてくれ! あそこに戻ったら命がいくつあっても足らないんだよ!」
泣きながらオーフェンハンターのメンバーに引っ張られていくバッケンを見送りながら風太が言う。
「もう大丈夫なのか?」
智代が頷き言う。
「もちろん。まあ、これ以上、導きの指輪を使ったら、命の保障は、しないって脅かされたけどね」
苦笑する智代に較が言う。
「使わせないよ」
それを聞いて智代が不機嫌そうな顔をすると較が続ける。
「だけど、他の事で助けてもらうつもりだよ」
智代が笑顔に戻り言う。
「当然。あたし達は、友達で仲間なんだからね!」
頷きあう少女達。
こうして、十個目の竜魔玉を手に入れた較達が次の竜魔玉の探索に向うのであった。




