緊急会議
あれから一週間。各地に散らばっていたSランクとAランクの冒険者を招集して、王国騎士団を交えた緊急会議が行われようとしていた。
緊急会議の内容はもちろん『魔物達の蹂躙祭』であり、それに対して迅速な行動を行いたいんだが──
「オラッ、スイレンてめぇっ! 今日こそ決着つけてやる。あの時の俺とは違ぇんだっ!!」
「ふっ。やめときなよバーン。君は火属性、私は水属性。どっちが勝つかなんて火を見るより明らかでしょ」
「そこの二人うるさいよ。·····それよりもナリタ。今度お茶でもどうかな?」
「おめぇもあの二人と変わらないぐらいうるせぇよ、ミリオン。お茶なんて行かないし行く柄じゃない」
Aランク冒険者順にバーン、スイレン、ミリオン、ナリタ。
彼らの実力は確かなのだが、バーンは根っからの負けず嫌い。スイレンは煽り能力が非常に長けていて、ミリオンは女の子をよくナンパするチャラ男。ナリタは男勝りな性格で有名な冒険者である。
これにはクリクソンも頭を抑えるばかりだ。
そしてAランク冒険者がもう一人。その実力は四人よりも逸脱しており、完全に上位に位置する男シドウ。又の名を──原始の魔王ミレア。
「ハハッ。我が眼前に敵無し。何故ならばそうっ! 幻獣が封印されし右腕があるからだ」
出身が東の大陸、温泉の街パング。
何を隠そうルーロがあったあの時の厨二病が今現在Sランクに近しい力を持つ者なのだが。
「黙れシドウ」
「グハッ」
「めっちゃ小物感強いよね。なんか強い言葉だけを並べているだけのガキっていうかさ」
「ゲボッシャアッ!!」
「もう見てるだけで痛々しい──」
「もうやめとけよスイレン。シドウのヒットポイントはもうゼロだ」
バーンが制してスイレンの猛攻は終わったが、時すでに遅し。瀕死のシドウ。
もうクリクソンは一週間前に言った「人間の底力」の言葉に信ぴょう性が無くなってきていた。
「これで大丈夫かよ·····」
「まぁそんなに落ち込むなおっさん。私たちが来たんだ。王国の守り神がな」
「じゃあ名前をそろそろ呼んでくれよ」
「駄目だ。おっさんはおっさん。それ以上でもそれ以下でもない」
「·····」
何処かデジャブを感じる会話にクリクソンはため息をこぼす。
彼女は騎士団の団長を務めるローズである。
ちなみにおっさんと呼び始めたのはローズが始まりであり、今ではセリカを始めた高ランク冒険者たちからはそう呼ばれている。
そんなクリクソンを労うように近づいてくる青年は騎士団の副団長を務めるセイノだ。
「クリクソン様申し訳ございません」
「いやもういいさ。諦めたから。それよりも前の冒険者試験助かった」
「いえいえ。僕でよければいつでも力を貸しますよ。団長がいつも迷惑をかけているので」
「迷惑とはなんだ、迷惑とは。私は品行方正な団長だろう」
「品行方正であると言われたいのなら自由奔放な性格と戦闘狂の癖を治してください」
「それは無理だな。何故ならば私だから」
呆れたように指摘するセイノ。だが、ローズの顔色は一向に反省の色が見えない。
だからこそ、セイノもクリクソンも頭を悩ませるのだ。
そんな二人ですら止められないこの状況。それを終わらせたのはハーランの一言だった。
「そろそろ茶番を終えろ」
怒気がこもった声色に、全員が気づく。
──やらかした、と。
「私の目の前でよくもまぁ騒げるものだ。が、寛容である私は許してやろう。ただし、次はない」
「「「申し訳ございません」」」
忘れてはならないのは今回の招集が親睦を深めるものではなく、スタンピードに対する対抗組織としての集まりである。
その重要な点をようやく思い出したところで、緊急会議は始まった。
「さて、クリクソン。魔物達の動向を話せ」
「はい。今回、報告に入ったのは本来団体行動を取らない魔物までも団体で移動しているということ。そしてその魔物達は皆怯えた様子であるということです」
「·····怯えた?」
「そうだ」
ローズの指摘に頷く。
そう今までのスタンピードなら魔物が指揮を取り怯えた様子もなくただ本能的に人間を襲うのである。
が、今回の肝は〝怯えた〟という所にある。
「今回の統率者は今までの魔物とは逸脱した奴かもしくは『魔王の意思』とやらの者かもしれません」
クリクソンの一言に全員がシドウに振り向く。
「我を疑っているのか?」
「いや無いわ。そんな大物じゃねぇ」
「そうだな」
落ち込むシドウを尻目にクリクソンは話を続ける。
「『魔王の意思』とは前回王城に潜入した魔王復活を目的とした集団です。が、それ以外の詳しい事は不明で謎多き集団でもあります」
「·····そうか。で、何故『魔王の意思』と繋がっていると考えたのだ?」
「前回の潜入以降度々報告に入るのが『魔王の意思』という組織であり、今回も関与している可能性が高いと予測しました」
クリクソンの言葉に全員が神妙な顔持ちになる。
それほどまでに『魔王の意思』というのが未知の存在であるからだ。
「よし。大体の話は分かった。·····が、サクヤはどこだ? ここにはルーロも出席する予定だろう? それにエリドは元よりエルサもセリカもいないのだが」
ハーランがこの場にいない者に気づいた。
ハーラン以外はルーロに関して『A級スタートの新人』という情報しかないので小首を傾げる。
「ルーロは、その·····精霊に会いに行ってまして·····」
「「「精霊っ!?」」」
クリクソンの一言に全員が驚愕する。
伝説上の存在である精霊。その詳しい生息地も何もかも不明な正直いるかいないかも分からない存在。
それに会いに行ったという新人というのは一瞬にして注目を集めるには充分過ぎる程だ。
「それでエルサとセリカが?」
「はい。実際に場所を知っているのはあの二人なので」
「そうか。なら、ルーロは帰ってきてから説明しろ。今回のスタンピードの件はクリクソン。お前に一任する」
「分かりました」
その返事に満足そうに頷くとハーランはこれからの進行をクリクソンに譲る。
「さて、魔物達の不審な動向の報告から二週間近くが経過しようとしている。そろそろスタンピードが始まるだろう。ゆえにこれからの指揮にしっかりとついてきてもらう。まずは騎士団。王国全域の見回りに当たって欲しい。これにはAランク冒険者バーン、スイレン、ミリオン、ナリタが同行しろ」
「「「了解」」」
「次にシドウ。お前はエルサ、セリカ、ルーロ一行が戻り次第合流。そのまま魔物の殲滅に協力して貰う。が。万が一アイツらが戻る前にスタンピードが訪れた際には──」
「我が一人で務めよう」
不敵に笑うシドウに頷くと、クリクソンは皆の目に語りかけるように話す。
「このスタンピードを事前に阻止する事が大前提だ。騎士団始めた見回り組は迅速な連絡、そして行動を大切にしろ。以上、健闘を祈る」
こうして緊急会議が終了した。
そしてこの二日後、王国全土に激震が走る大事件『魔物達の蹂躙祭』の幕が上がることはこの時は誰も知る由もなかった。
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