歩み止めずに
瞬間的な魔力解放、これを成功させるには一つの問題点があった。
それが、一時的に解放した次の段階の魔力に体が振り回されるということだ。
基本的に俺が<銀滅の拳>を放つ時は<全開出力解放>を使用する。
これは集約した魔力に体が持ってかれないようにするためにその段階で引き出される最大出力を解放して体を補強しているのだ。
そして今回、俺はいつも通り魔力を出来る限り放出して補おうとした。
だが、ファーストとセカンド。その差は離れていて上手くいかなかったのだ。
だけど、ニーアに言われてハッとなった。
補強する方法は何も、放出するだけではない。集約させることも一つの手であると。
「何かを掴んだような顔をしてるけど、あそこに連れていったのは正解だったかな?」
「ああ、ありがとな。おかげで上手くいけそうだぜ」
不敵な笑みを浮かべる。
そう笑みが止まらない。今思いついたことをしたくてうずうずしている。
それは新しい玩具を貰った子供のように、新しいことへの高揚感が高まっていく。
「じゃあ見せてもらおうかな。その閃きとやらを──」
ドラはパチンっと指を鳴らした。
すると一斉に精霊たちが準備をし、そして魔力弾を放ってきた。
「まずは雷属性」
全属性の中で光属性と並ぶ光速を可能している属性。
その素早さには目で追うことは叶わず、直感的に魔力を感じて避けるしかない。
「次に火属性たち、ここも分かってる」
わざわざ口に出して自分が冷静であることを頭の底で理解させる。
焦ったら駄目だ。
ここから先は超高度な魔力操作なのだから──
「全弾避けきったところで隕石が登場」
頭上には自分の何倍もある巨大な隕石。
それを避けるためにファーストを解放する。
「間に合えッ」
滑り込みセーフ。野球界も一目置くような見事な滑り込みだ。
そしてその影に隠れた魔力弾を把握。そして、隕石もスタンバイされていることも理解した。
「ここからだ──<瞬間的な解放>」
瞬間、足に纏った魔力が爆発的に跳ね上がった。
これらを全神経で掌握すると、次にこの足に耐えられるように、元々体にまとっていたファーストの魔力を凝縮、集約する。
「ハハッ。そういう事か、確かにこれは盲点だった」
ドラの笑い声と呟きにも似た講評が聞こえてくる。
そうだろう。俺だってさっき知ったんだ。
「いく、ぜ·····ッ!!」
準備完了。足にセカンドの魔力を纏った。体は凝縮されたファーストの魔力でコーティングした。
さぁ、これから先の全ての魔力弾と隕石を華麗に避けてやる。
「まずは雷属性と光属性。次に火属性や水属性」
目で見て口で説明して、頭に神速の判断を委ねる。
ここから先を避けるにあたって、大事なことだ。
「今日はもう遅い。ここから五分だ。五分凌ぎきって見せてよ」
「任せろッ!!」
ドラの言葉を聞き取るまでに余裕が出来た。
今の俺は確かに<瞬間的な解放>が出来ているだろう。
だけど、まだだ。今はファーストとセカンド。これから先の戦いを見るともう一段階上の瞬間的な解放をしなければならない。
「やってやる──<段階変換>」
足に纏ったセカンドの魔力を全身に回して一瞬でファーストからセカンドに切り替える。
そして、足に纏う魔力をサードにする。
「前回は三分。既に魔力が消耗していたとはいえ、サードを解放出来るのは五分が限度。このやり方で成功すれば、更に戦闘時間が伸びる」
よしっ、今のところは順調だ。
だが、先程までとは違い、操作している魔力の質と量共に桁違いに変わる。
自然と額には汗が伝い、息も乱れてきた。
整った制御から、少し外れてきたか·····?
「ルーロ、ラストだよっ!!」
いや、ここで集中を途切れさせるな。
最後はやっぱり隕石か。
「ドラ、この隕石ってどのくらい強化してる?」
「えっ? 結構強めにしてるけど。多分、最高峰の魔法じゃないと破壊出来ないまでには」
「上等ッ!!」
次は足から腕に纏う。
足に纏っていた時とは違い、今回の場合は踏ん張りが効かないと破壊までには至らない。
だから、セカンドの魔力を濃密に、凝縮して。
「行くぜ──<銀滅の拳>ッ!」
空高く突き出した拳から放たれた魔力は隕石にへと衝突し、そして拮抗が訪れることなくそれを粉々に粉砕した。
「うそ·····強化を打ち破った·····?」
「はぁ、はぁ·····やったぜ」
その場に倒れ込む。
でも、意識がある。魔力はまだ残ってる。ファーストで活動出来るまでに。
「·····成功だ」
「やったね。ルーロ」
「ああ、でもまだ課題は残ってる。魔力操作が段階を上がる事に難易度が上がってるからな」
「ふふっ、でもあの強化を打ち破るのは流石エリドの弟子だけある」
今なら分かる。エルサが言っていたファーストだけを解放して龍と渡り合った意味が。
瞬間的に解放して、その威力を上げてたんだ。
「追いつけるかな·····」
「ん?」
無意識に呟いた言葉に、ドラが疑問符を浮かべる。
「師匠ってばめっちゃ強くてさ。実践の修行でも勝てなかった。しかも、魔力操作抜きで。そんな師匠のしてた事に成功したけど、まだ追いつけそうにない·····」
師匠の背中は追うことすら難しい。ましてや追い越すなんて無理な話だ。
だけど、それをする事が弟子の役目なのだと分かる。
「そんなに無理に抱え込まなくていいよ」
「無理に、か·····」
「ねぇ、先を歩いている人を抜かすのにルーロはどうする?」
突然の質問に、戸惑いながらも答える。
「えっと、走るとか?」
「そう。君はこれから先色んな人に出会い、そして学んでいく。その分ルーロの足は速くなっていくんだ。後はそのまま追い抜かすだけだよ」
「簡単に言ってくれるな。出来るかどうか分からないのに」
「ハハッ。出来る出来ないじゃない。やるかやらないかだ。結果はやらないと分からないもんだよ」
「·····それも、そうだな」
少し弱気になっていた。
成功したけど、まだ課題は残っていて。それを簡単にやってのける師匠の背中に焦った。
でも、俺の人生はこれからだ。
序章『追放から始まった物語』から一章『幼馴染ざまぁ』にきて、そこからサクヤの『王国の罪』。クナイの『化け物と呼ばれた少女』にカグヤの『星喰の記憶』。
そして、今は『精霊が望むのは』かな。
こうして俺の物語はどんどん進んでいく。
色んな人から見て学び、吸収して更に向こうへ。
そして龍殺しを果たして──
「──最強の冒険者になる」
俺はその時まで歩みを止めない。
これで五章は終わりです。
次は第六章、やっと『魔物達の蹂躙祭』が始まります。
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