エデンでありエデンでない
「どうですかお客様·····気持ちいい?」
背中に柔らかでぷにぷにとした肉感的なものが当たっている。
「はい、とても気持ちいいです」
確かに気持ちいい。
これなら溜まりに溜まっているものを解消しやすいと思う。
というか、実際に気持ちよすぎて店員のお姉さんに全てを任せきっている。
「店員さん·····」
「どうか私の事はニーアと呼んでください」
「に、ニーアさん」
「さんも要りませんよ」
「·····ニーア」
「はいっ! なんでしょう?」
少し首を動かせば、非常に整った容姿をした女性がいる。
この人も精霊なのだから驚くしかない。
たわわに実った胸も実に良いっ! 完璧だ。
「でも惜しいッ!!」
「な、何がでしょう?」
困惑したようにニーアが尋ねてくる。
まぁ突然大きな声を上げてしまったんだ。驚かれるのも無理はない。
だが、だがしかしだ。ここはエデンでありエデンでない。
「俺の求めていたものと違うんだよなぁ·····」
「はい? その、気持ちよくありませんか? ──」
「マッサージ」
いや気持ちいいです。本当に。
「ハハッ。気にしないで下さい。独り言です」
「は、はぁ·····?」
あのドラの野郎。ふうぞ·····ゲフンゲフン。溜まっていたものを解消するために連れてきた場所がマッサージだなんて。
いや合ってるよ。うん、疲れが溜まってると思ったんだよね。分かる、うん。
でもさ、年頃的に別のもんを想像しちゃうじゃんか。
実際にその溜まってるし。
「あの本当に大丈夫ですか?」
「はい。もう大丈夫です」
「そうですか。それなら良かったです」
そう言ってマッサージを続けるニーアに、いつの間にかドラへの怒りは消え、再度身を任せ始める。
この人、普通にマッサージが上手いんよなぁ。
「そう言えばお客様って·····」
「ルーロです。ニーアも呼ばせてるんだから、俺のも覚えてください」
「そうですね。ではルーロって人間なのですよね?」
「はい」
俺の返事に目を輝かせるニーア。
「わ、私ドラくんから人間の話を聞かされてずっとファンなんです」
「そ、そうなんですか。ということは、前回訪れたパーティも知ってたりするんですか?」
「はい。ですけど、実際に見れたのは一人だけで、後はドラくんと話して少し過ごして帰ってしまったんです」
へぇ·····というか。
「ドラくんって、ドラの事を知ってるんですか?」
「はい。知ってるも何も夫婦ですから」
「·····ん? 聞こえないな」
「ですから夫婦です」
「あは、アハハっ。おかしいな。夫婦って聞こえてしまった·····よ?」
「はい。合ってます」
「··········」
う、ううううううう嘘だぁっ!!!!!
ちょ、ま、へ?
「ガチ?」
「はい。ガチガチの大マジです」
「うそーん」
ちょ、マジでおかしいくね!?
「夫婦だったんすか?」
「そうですよ。かれこれ百年経ってます」
マジか·····久しぶりにエルサ以来のお姉さん属性だと思ってたのに、まさか人妻だったとは。
「どこら辺に惚れたんですか?」
「ほらドラくんって長いこと生きているのに少年の心というのが抜けてなくて、それが私的にツボで──ハッ。すみません」
「イエイエ、イイッテコトデスヨ」
思わずカタコトになったが、それにしてもドラに奥さんが·····しかもめっちゃ可愛い。
凄い、羨ましい。
「──で、話を戻しますけど。ドラと夫婦なんですよね。前回きたパーティに俺の師匠がいるんですけど、その師匠がドラと何かを話していたみたいなんです。何か聞いてませんか?」
華麗に話をすり替える俺ってば流石。
まぁこの話自体は今思い出したんだが、セリカが言っていた「エリドが精霊王と話していた」というのがなんなのか知りたい。
「ルーロの師匠が誰なのかは知りませんが、ドラくんからは面白い人がいたと聞いてますよ」
「本当ですかっ! 多分、その人です」
別に知らなくても、あとでドラに聞こうとしたので有難い。
「今どき珍しい人らしくて、自分の最期を聞いてたらしいです」
「最期·····?」
ここでシリアスだと·····?
「詳しく」
「はい。これから先大きな事があるからそこで自分は生き残れるのか、生き残るのであれば一体どこでこの人生を終えるのかというのを星を見てくれと頼んだそうです」
「そう、ですか·····」
大きな事──多分だが龍殺しだろう。
結果として生き残った。つまり、龍殺しを果たした師匠が一体どこでその命を終えるのか。それをわざわざ聞いたってのか?
「何かどうしても知りたい理由でもあったのかな·····」
「分からないですが、ドラくんはとても頭の回る人だと言ってました」
「頭の回る人ね·····」
あながち間違ってはないが、まぁ師匠のあの姿は普段からでは見ることの無いものだろうな。
あの人ってばオンオフの切り替えがとてつもなく振り幅があるからな。
「·····でもそうか。ニーアありがとうございます」
「いえいえ。あっ、もうそろそろ時間ですね」
タイマーを見ると、確かに頼んだ時間があと少しで訪れようとしていた。
「では、俺そろそろ修行に戻りますね」
「あっ、少し待ってください。確か、魔力を一時的に解放する修行でしたよね?」
「はい」
突然なんだろうか。
「前回いらした人間を一人だけ見たと言いましたよね。その人が誰なのか分からないのですが、野原で修行をしていたのをチラッと見たんです。魔力操作や制御がとても上手い方でした」
「あっ、師匠だ」
「本当ですか? それならちょうど良かったです。その人がですね。瞬間的に魔力を解放して瞬時に纏っていたんです」
今、俺がやっていることか。
「アドバイスになるか分かりませんけど、その人の魔力がとても密度が凄いんです」
「密度?」
「はい。物凄い魔力を凝縮して薄い膜を全身に纏っているみたいでした」
「凝縮か·····」
「はい。そうすることで瞬間的に膨れ上がった魔力にも対応していたんです」
「·····そうか。そういう事か」
すっげぇ簡単な事だった。難しいことなんて何一つしていない。
ファーストの魔力を凝縮してセカンドの魔力に耐えれば良かったんだ。
要は<銀滅の拳>の応用だ。
「ありがとうございますっ! おかげで掴めたような気がしますっ!!!」
「それは良かったです」




