閑話 火の契約 〜後編〜
「もう始まってるのか?」
「うん。そうだよ。彼女は今、精神世界に引き込まれている」
「精神世界、か·····」
ドラの説明に、無意識に『星喰』を連想させる。
確か、あの時も精神世界っていうかただ真っ黒な世界が広がっていたが。
「多分『星喰』を連想しているのだと思うけど、正解だよ。契約とは魂と魂の繋がり。だからこそ、魂に近い精神世界で契約は行われる」
「やっぱりか·····ということは『星喰』は精霊なのか?」
「いや、厳密には違うかな」
ドラの言葉に疑問符を浮かべる。
「『星喰』は確かに自我が確立している精霊だけど、その本質は道具。彼は魔力の宿った道具。君たちで言うところの──魔道具ってところさ」
「だからスキルがあるのか」
「そう」
そんな会話をしていると、レーデの方で動きがあった。
魔力が荒ぶっている·····?
「今まで制御されていたのに、精神世界で一体何が起こってんだ!?」
「多分、サラマンダーと干渉しているんだろうね。気持ちを揺さぶられて動揺しているのかな?」
「動揺·····?」
「そうっ! あの中で唯一、レーデを契約者として選んだのか。それはあの中で一番の不器用だからさ」
「不器用か。そんな事ないと思うけどな」
昔から教えれば大体のことは出来てきた人間だ。
魔力操作しかりである。
「ふふふっ。そういう不器用じゃないよ。彼女は誰よりも感情──気持ちを表すのが下手なんだ。精霊ってのはそういう人も好きなのさ」
ドラの言うことが何なのか、それ自体は分からなかったが、レーデには頑張って欲しい。
「まぁ僕たちができることは無い。黙って彼女がサラマンダーを契約するまで待つんだよ」
ドラの言う通り、俺はレーデが帰ってくるのを待つことにしたのだった。
✻ ✻ ✻
レーデは目を開ける。
「ここは·····真っ黒な世界·····?」
連想するのは、ルーロが言っていた『星喰』と会ったという真っ黒な世界。
『ここは精神世界だよっ!』
「·····誰?」
レーデの言葉に、衝撃を受けたように固まるレーデの容姿をした何か。
『酷いっ! ミーのこと忘れたの? 冒険者試験の時に手を貸したのにぃっ!!』
「もしかしてサラマンダー·····?」
『そうだよぉっ! もうミーのこと忘れたかと思ってビックリしちゃったよぉ』
ドラもそうだが、あまりにもイメージとかけ離れた口調に驚くが、それよりも気になることを質問する。
「なんで私の姿をしてるのかしら?」
『契約の時はこんな姿になっちゃうんだ。まぁ精霊にとって見た目なんていくらでも変えられるものだから、気にしないで』
「分かったわ。早く、契約を済ましましょう」
そんなレーデの言葉に、しかしサラマンダーは首を振る。
「契約をするのが嫌なのかしら?」
『んーん。契約をするのは構わないよ』
「じゃあ何が嫌なの?」
『ミーってね。魔力を回復するために今まで姿を隠してきたけど、実はしっかりと今までレーデちゃんが見てきたものを一緒に見てきたんだよ』
「一緒に見てきた·····?」
『うんっ! 目の前でサクヤちゃんが連れ去られてルーロくんに八つ当たりしてたね』
「──ッ!」
『他にもルーロくんに気持ちが素直に伝えられなくて、棘のある言葉ばかり口にしてきたよね』
「··········そうね」
そんなレーデの言葉に、サラマンダーは目を細めて問う。
『レーデちゃんって本当はルーロくんのことが好きじゃないんじゃない?』
「え·····?」
『だってそうでしょ。棘のある言葉──悪口が出てくるってことはさ。照れ隠しで言っているとはいえ実際のところそう思ってんでしょ?』
その言葉にレーデは動揺を見せる。
「好きじゃない·····?」
『うん。でもこれは嫌がらせで言っているんじゃないよ。強くなるためには目的が必要不可欠だ。目的とは思いだよっ! その思いである恋心が実は違ったら意味が無い。結果、パーティのみんなに迷惑をかけることになるんじゃないかな?』
「迷惑·····」
『そうっ! だからミーが前もって教えてあげてるんだ。それは恋心じゃないよって。あっ、でも強くなる理由が他にあるなら別にいいよ。ミーはただ知りたいだけなんだ』
レーデは口から言葉が出なかった。
別に怒られたわけでも、怒鳴られたわけでもない。サラマンダーから恐怖は感じないし、実際優しさで注意喚起してくれているのだろう。
それでも言葉を失っていた。
そう口にしているのが他ならぬ自分だから。
あるいはサラマンダーの姿がドラゴンの姿であればこんな事にはならなかったのだろう。
だけど、自分の姿でそんなことを言われたら嫌でも意識してしまう。
自分は一体なんのために戦うのかと。
『目的のない力の先にあるのは破滅だよ。さぁレーデちゃん。君の口からしっかりと聞きたいんだ。君は何のために戦うの?』
「何のために·····?」
ルーロのために·····?
でも、好きでもない人のために何を頑張るのだろうか?
じゃあ最強の冒険者を目指して·····?
でも、自分よりも遥かに上が存在する。それらを出し抜いて最強になれるのか?
「私は一体、何のために戦ってるの?」
そう自問するが、しかし答えは出ない。
『あはっ。まさかここまで効き目があるとは思わなかった。でも、答えが出ないってことは何も無いってことだ。それじゃあさっき言った通り迷惑をかけるし、破滅を招く。契約はなかったことにしよっ!』
そう言って背を向けるサラマンダーに、レーデは何も言えなかった。
ただ遠ざかっていく背中を眺めて、不意にルーロと重ねる。
「また置いていくんだ·····」
弱くて追放されたルーロは自分よりも遥かに強くなって帰ってきた。
かつては並び、そして追い越した背中もいつしか追う形になり、そしてその隣には自分じゃなくてクナイがサクヤがカグヤがいる。
「私が一番弱い·····」
クナイのような忍術と体術。そして機動力もなければ、サクヤのようなサポートに特化した治癒魔法もない。カグヤのような攻撃の要となる剣術も自分にはないものだ。
だけど、たとえそうだとしても──
「絶対追い抜かすんだっ!!」
『──ッ!?』
突然のレーデの雄叫びに、サラマンダーは驚く。
「確かに私は弱いし、ルーロに対して冷たく当たっている」
それでも絶対に言う。いや言ってみせる。
「私の思いは本物で、ルーロの事が好き」
大切なのは相手の言葉に惑わされ、下を向くことじゃない。
「前を向いてしっかりと現実をその目に写す」
そんなレーデの言葉に、サラマンダーは笑みを浮かべて問う。
『もう一度聞くよ。レーデちゃんの戦う理由ってなに?』
「私の戦う理由は──」
他のみんなに負けないように、誰よりも自分が一番凄いんだって見せつける。
「ルーロの隣に立ちたいからっ!!」
たとえ遥か前に立っていたとしても、たとえその隣に誰かいたとしても、関係ない。
「全員追い抜かして、絶対ルーロの隣に立ってみせるっ!」
『いいっ! それだよ。うんっ!』
サラマンダーは満面の笑みで言う。
『それこそミーが求める未来。たとえ運命がなんであろうと自分の将来を掴もうとするその目。うんっ、ミーの大好きな目だ』
そしてサラマンダーは高らかに宣言した。
『ミーはレーデちゃんと契約する。誰よりも不器用で、だからこそ自分なりに頑張るその姿にミーは寄り添うよっ!!』
すると、レーデの右手の甲に焼き付くような痛みが走る。
「──ッ! ·····なに?」
見ると、幾何学的模様が描かれていて、しかしすぐに消えてしまった。
『それが契約印だよ。これで契約は成立だね。レーデちゃんの呼び声にミーは応えるよ。レーデちゃんの求める未来の手助けのために』
サラマンダーは手を差し出す。
『これからよろしくねっ! レーデちゃん!』
「よろしく。サラマンダー」
『ううん。ミーはサラマンダーじゃないよ。ミーの真名は「イブ」』
「イブ·····か。よろしく、イブっ!」
『よろしくね』
そしてレーデの意識は覚醒していく。
新たな決意と力を持って。
イブのミーは「me」で、一人称です。
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