閑話 一番は譲らない
一方で──
「さて話を聞きましょうか?」
「(ビクッ)」
極楽湯の女湯。湯船にてサクヤの言葉がやけに明瞭に響き渡る。
最初こそは賑わっていた女湯も、サクヤたちが入ってきたことにより次々とあがっていき今では貸切状態である。
他のお客さんが逃げていった理由は一つ。カグヤを除くサクヤたちの怒気によるものだった。
「いつからかしら?」
「る、ルーロ殿が言うところの星喰の記憶の中からでござる」
「へぇ·····?」
レーデたちの静かな怒りに再度震えるカグヤ。
「カグヤ。単刀直入にルーロの事が好き?」
「··········」
無言の肯定。
確かに頷いたカグヤに、クナイたちは怒りを解きため息を吐く。
「やっぱり思った通りですね」
「ん。様子を見たのが間違いだった」
「そうね」
三人の反応を見て、カグヤは納得がいった。
「やっぱり御三方もルーロ殿の事が好きなのでござるか」
「あの馬鹿のどこに·····って言いたいところだけど、もうそれ所じゃないわね」
さすがのレーデも照れ隠しが裏目に出ていることに気づいたのだろうか。
いつにも増して冷静に、ルーロに好意を抱いていることを肯定する。
「御三方のルーロ殿の話を聞きたいでござる」
「·····ルーロの話」
一番最初に口を開いたのはクナイだった。
「私がルーロと出会ったのは冒険者試験の時。一人で迷っている時にルーロから声をかけてもらった」
懐かしむように、どこか愛おしそうにクナイは語っていく。
「魔力が生まれながらに多くて昔から一人が多かった私に魔力制御を教えてくれて師匠であるのと同時に恩人だった。魔属性である私を認めてくれて、そして初めて·····その·····綺麗って言ってくれた」
ルーロがクナイをあの場で選んだ理由。
一人でいたのもあるが、魔力が綺麗というのが大きな理由だった。
それから、包帯を外せるようになったのもルーロが魔力制御を教えてくれたお陰だし。
水浴びを覗かれることもあったが、基本的にはずっと好感を持てる相手だった。
「『化け物』って言われていた私を受け止めてくれて、立派な女の子って言ってくれて、そして·····守ってくれるって約束してくれた。それからはずっとルーロの事を」
「そんなことがあったのでこざるか」
カグヤは相槌を打ちながら顔をほころばせる。
「ルーロ殿は優しい殿方でござるな」
「·····ん」
次いで語り出したのはサクヤだ。
「私とルーロ様の出会いは最悪でしたね。水浴びを覗かれたのですから」
でも、とサクヤは続ける。
「ルーロ殿には立派な魅力があった。優しいだけじゃない。行動力、判断力。頭の回転の速さっていうんでしょうか。自分の大切な人を助けるためなら全力を注ぐ、そんな彼は素晴らしいと思います」
『王国の罪』の時もそうだが、サクヤが特に魅力を感じたのはクナイが望月家に帰った時だろうか。
「クナイが連れていかれた時、ルーロ様の心が初めて揺らいだ。それほどまでにクナイが大切なんだって思いしらされましたが、でもだからこそ彼に夢中になりましたね」
そこまで愛される人間になりたいと強く願った。
「まぁ、でも一番好きになった理由は『王国の罪』で助けてくれたことですね。私は双子の妹で、生贄として魔王に献上されたところをルーロ様が助けてくれたのがきっかけです」
「サクヤ殿は強いお方でござるな」
「そうですか?」
「そうでござる。生贄にされたから助けられたのではなく、サクヤ殿だからこそ助けられたのだと思うでござる」
カグヤの言葉にサクヤは風呂による赤さじゃない紅潮をみせる。
「·····そうだといいですね」
「きっとそうでござるよ」
最後はレーデだ。
「私は·····そうね。色々な出来事があったわ」
この場においてルーロのことを昔から知っているのはレーデだ。
「故郷での思い出の一つ一つ全部覚えてる。私が風邪を引いた時、ルーロは薬草を森まで取りに行ってくれた。でも帰ってきた時におじさんとおばさんに怒られてたけど──」
昔を思い出すように目を細める。
「『レーデの風邪を治したかった』って言って私のお父さんに薬草を渡してくれたそうよ。当時の私はそんなこと知らなかったけど」
「どういうことでござるか?」
「ほら·····私ルーロに対して当たりが強いでしょ? ルーロは自分が薬草を持ってきたことを私が知ったら薬を飲まないんじゃないかって。だから、お父さんの手柄として譲ったらしいの」
「そんなことが·····」
そしてこれを聞かされたのは、ルーロが村を出ていった時だった。
「多分、最初は好きってのに気づいてなかったような気がするわ。ルーロがいなくなって初めて気づいた·····好きなんだって」
思い返せば言葉に棘のある自分にルーロはそれでも仲良くしてくれた。
そんな立場に甘えていたのだろう。
「御三方の話を聞くとルーロ殿への印象も変わってくるでござるな」
「ん。ルーロは面白い」
「そうね。ただの馬鹿では無いことは確かだわ」
決して優しいだけじゃない。
サクヤとレーデが見たルーロの弱さも。
サクヤが間近でみた強さも。
全てがルーロの魅力で、クナイたちを惹き付ける理由なのだろう。
「いつの間にか長風呂をしてしまったようですね」
「そうでござるな」
浴槽からあがり、そういえばとカグヤが口を開く。
「あっ最後に言っておくでござるが、拙者は両親公認でござるからな」
突然のマウント。額にピキっと青筋の浮かべたサクヤやレーデも負けじと。
「私はルーロ様に〝嫁〟って言われましたからねっ!」
「わ、私はルーロの小さい頃を知ってるわっ!」
そんな彼女たちにルーロをもってメインヒロインと評されたクナイがドヤ顔で。
「私は〝大切〟だから。それに腰に抱きついたこともある」
マウントもここまでに、彼女たちは自分たちの目標。すなわち──
「「「「一番は譲らない」」」」
仲がいいのか悪いのか。
そんな女の子たちのひと時であった。
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