閑話 努力家な彼女に足りないのは
澄んだ空気がピリつく。
レーデはサヨを目の前にして戦慄した。歴戦の戦士を思わせるプレッシャーに、思わず一歩退いた。
「なんだい、弱腰だねぇ」
「そ、そんな事ないわよ」
「アンタが言ったんだよ。儂に近接戦闘も教えてくれってな」
「··········分かってる」
修行の日々が順調に進んでいく今日この頃、朝から二人して戦闘態勢なのには理由があり、レーデが近接戦闘も修行してくれと直談判したのだ。
しかし、いざとなると足がすくむ。
「·····ふん。赤髪の小娘は何故、修行をつけて欲しいと願った?」
「·····?」
突然、模擬戦を始めるでもなく、サヨは言った。そんなサヨにレーデは緊張が途切れたのか、素っ頓狂な顔をする。
「つ、強くなりたいから·····?」
「何故疑問形になる? 何故、その言葉にすら自信がない?」
「·····そ、それは」
──ルーロを見てるから。
そんな言葉は喉に突っかかったようにレーデの口からは出なかった。
オーガをも葬るその実力。アイシングキャットを〝雑魚〟と評するほどにかけ離れてしまった幼馴染。レーデがルーロに抱くのは何も恋心だけではなかった。
だからか、レーデは自分が強いということに疑問を持ち始める。もちろん、強くなったと天狗になる事は駄目な事であるが、逆に自信が過失しているこの状況も非常にまずい。
その事を知っているサヨはレーデの方を射抜くように見つめ、言った。
「赤髪の小娘は魔力玉でも分かるように〝努力家〟だ。が、小娘のそれが努力であるとはまだ言えない」
「?」
レーデは突然言われた言葉の意味が分からず、サヨを見る。
「努力までに曖昧な言葉はないのだ。例えばだが、二人が試合をする事になった。片方は天才で片方が努力家だ。努力家な片方は一生懸命頑張ったが、天才には及ばなかった」
天才をルーロとし、レーデを努力家と置き換えるなら、今がまさにそれだろう。
「そこで問おう。努力家が負けた敗因とは?」
「えっと、努力が足りなかったから·····?」
「違うさ。努力家は最後の最後まで自分のしてきた事に自信が持てなかったのさ」
サヨの言葉を自分と置き換えてしまい、レーデは自然と顔が下がった。
「結果、努力家がしてきた全てのことが無駄になった。泡と化してしまったんだよ」
「·····」
「小娘は今までしてきた事が無駄であると本当で思っているかい?」
「そんな訳ない」
レーデとて、何もしてないわけが無い。ルーロが居なくなってから今まで全ての時間を修行に打ち込んできた。
「なら、小娘が今すべきなのは下を向いて目の前の現実から逃げるよりも、前を向いてその瞳に儂を写すことだろうに」
「──ッ」
「小娘のしてきた全てを、今まで培ってきた全ての経験を努力であると自分で認めな。それが自信だよ、それが原動力なんだ」
サヨの言葉でレーデは前を向いた。
「儂が教えると認めたのは、その瞳を見たからだ。どこまでも上に行きたいという飽くなき向上心は武器になる。自分が他者と劣っていたってそれでも上に行こうという気持ちが大切なんだ。それが小僧だったんじゃないのかい?」
「──ッ、そうだ」
ルーロは属性適性がない。稀であるそれは、冒険者に一番向かない。それでも、最強の冒険者を夢見て努力してきたルーロは、極致に至った。
「もう迷いはないね?」
「ありがとう」
「別にいいさね。さて、始めようか」
近接戦闘を修行する上で、ついでに戦闘スタイルを見る事となったので模擬戦をする事になった。
故に魔法ありの何でもバトル。
王都の外、広大に広がる大地にてそれが行われようとしてした。
「じゃ、来な」
「『火球』」
手のひらに数球、『火球』を作った。その状態で二本指を揃える。自分で決めたモーションにより、脳内で魔力が連結し、常人の域を達した高速移動法につき、間を詰めた。
「ほぉ?」
「セィッヤ!」
そしてレーデは素手で攻撃した。
「ブラフかいっ!?」
「それもまたブラフっ!」
素手による攻撃を予知してなかったサヨは咄嗟に腕でガードする体制を取る。そんなサヨにレーデは『火球』をぶつけた。
「見せかけの二段攻撃。なかなかにやるねぇ」
「それはどうも、自信がある攻撃なんだ」
ルーロに魔力操作を教えてもらい、可能になった技。以前の弱い身体強化のままであったら、意味の無い攻撃だ。
決して自分の攻撃力に自信がないと打てない技だった。
「その調子だよ。だが、小娘にはまだ足りないところがあるねぇ」
そう言ってサヨは魔法を発動する。
「『拘束』」
「あれ?」
いつの間にか動けなくなっていたレーデは素っ頓狂な声をあげる。
「まずは注意力」
「次に魔法戦闘において重要なところだ」
そしてサヨはレーデの頭上に巨大な火球を作った。
「ちょっ、それは『隕石』ッ!?」
「いや、火球さね」
以前の魔力玉を大きくする要領で、火球を最大限に大きくする。
考え方によってはこれもブラフに使え、戦闘のレパートリーも増えるだろう。
「ほい、解除」
「瞬殺だった·····」
一瞬で形勢が逆転され、負けた。
自信云々の前に、実力の差が圧倒的だった。
「小娘は小僧の『魔力操作』をどう思っている?」
「え·····?」
「小僧の戦い方だよ」
サヨの質問に、レーデは戦闘中のルーロを思い出しながら答える。
「魔物の時は魔力を奪って、人と戦う時は強い人の場合、魔力制御が完璧だからって身体強化で攻撃力を底上げして速攻で倒す」
「よく観察してるねぇ。じゃあ、それを見て思うところはないかい?」
「?」
それでも分からないレーデに、サヨは答えを開示した。
「〝短期〟決戦なんだよ。重要なところは」
「短期決戦」
「魔法戦闘において、一番やってはいけないことは魔力欠乏をしてしまうこと。だから、短期決戦で勝たなければならない」
ルーロのそれは魔力を解放して、速攻で敵を仕留めるものだ。故に合理的で、強い所以でもある。
「だが、小娘は長期決戦な考えをしている。ブラフを上手に使って魔力の消費を抑えている」
「それが駄目なんですか?」
「いや?」
的外れだったようでサヨはレーデの言葉を否定した。
「いいかい? 小娘の考えは武器だよ。周りが短期決戦で戦ってくる中、長期決戦に持ち込んだ場合、勝つのは小娘だ。小娘に足りないのは戦い方だよ」
「·····戦い方」
「そうさね。ブラフを上手く使うのは結構。でもね、相手に長期決戦型だと悟らせるのは駄目だ。だから、攻めているフリをして相手の魔力を奪っていかなければならない」
相手に魔力を消費させて、トドメを刺す。
「それって·····」
「〝卑怯〟とでも?」
「いや、そんな事は」
それでも言いきれないのはそう思っている証拠である訳で、サヨは笑った。
「小娘は意外にも真っ直ぐなんだねぇ」
「意外にもってっ!」
強く言い返せないのは、日頃のルーロへの態度が物語っている。
「別に大丈夫だよ。卑怯と評するのは弱い証拠。しっかりと強い者なら、それがいかに凄い戦法なのかちゃんと見てくれる」
「そう、なんだ」
「小娘はブラフの種類を豊富にしようかねぇ」
今後の方針が決まったところで、模擬戦は幕を閉じた。
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