同期との差
レース後に戻ると厩務員の中島がいた。
明らかに不満そうな顔をしていた。
レース前のプランと明らかに違っていたからだ。
『お疲れ様です。高村騎手。』
やはり、不機嫌そうであった。
しかし、ホワイトジェムのことを見るや否やとても驚いた表情になっていた。
『目付きが違う。』
ホワイトジェムはレース前とは明らかに目付きが違っていた。
とても、闘争心に溢れるような。
こんなホワイトジェムを見るのは初めてだった。
そこで全てを察した。
今日の事はこのためにと。
『すみません、勝ちに行ったんですけど、頑固でなかなか走ってくれなかったんですが、それでもエンジンがかかってからは物が違いました。』
清弘はそう答えた。
嫌がってしまうため、調教量が明らかに少なく、仕上がっているとは言える状態では無かった。
そんなホワイトジェムだったが明らかに何かが変わっている。
『どうでした。乗った感じは?』
『これから間違いなく強くなりますよ。』
清弘は笑顔で答える。
『検量がありますので、またこれで。次も乗れる事を楽しみにしたいます!』
中島は胸の中のつっかえが消えていくのを感じた。
検量が終わった後、ジョッキールームに行く。
今日はメインレースまで時間があるため、
先ほどのレースの反省と宝塚記念の騎乗のイメージトレーニングをしていた。
すると、同期の安楽が声を掛けてきた。
『今の新馬戦凄かったな?』
すでにG1 8勝を挙げ、次の時代のトップジョッキーとの呼び声も高い。
この前の皐月賞を勝ち、ついにクラシック勝利まで手に入れた。
清弘も皐月賞、日本ダービー共に騎乗したが見せ場なく敗れている。
安楽は人馬一体の文字がぴったりである。折り合いを付け、完璧なレース運びをする。
馬の呼吸を聞きながら載っている。
清弘もたしかに上手くはなっている。
未だにG1を勝っていない俺との差は歴然である。
『安楽には負けたけどな。』
安楽は2着馬に騎乗していた。
『良い馬に乗せてもらっただけだよ。
それにちょっとかかったし。』
安楽は謙遜して見せたが、俺の目から見たら好騎乗にしか見えなかった。
『そんなことより、高村は今日はどう行くんだ?』
『そんなこと言えるわけないだろ。少なくとも勝ちには行くさ。』
宝塚記念のことを聞いているのであろう。
高村が騎乗する馬は9番人気、安楽は3番人気。
馬の能力はほとんど同じ。これは馬ではなく騎手の差だろうと考えられる物であった。
『負けねーからな。安楽。』
『俺もだよ、高村。』
清弘は必勝を誓った。
ーーしかし、宝塚記念を勝ったのは安楽の乗った馬。
清弘の乗った馬は5着であった。




