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18話

 硬化した爪が振るわれる。危なげもなく弾く。返す刀で斬り掛かる。霧状になって逃げられる。後ろから人形みたいなやつが襲い掛かってきた。肘鉄で吹き飛ばし、頭と身体を泣き別れさせた。その間に無数のコウモリが迫る。先ほどできた死体を蹴り上げ、即席の盾にした。盾で防げなかったコウモリを斬り捨て、敵の本体を探す。

 戦闘が始まってから数分が経った。それほど時間が経っていないというのに、恐ろしいまで疲労がたまっていく。二回目の使用ということもあり、対策はしたつもりだ。そのため、多少荒々しく戦ってはいるものの自我を失ってはいない。かなり危険なところまでは来てるけども。ここまでしないと使えないという辺り、やはり『紫月』は他人に渡さなくてよかったと思うばかりである。


 「クッソ、邪魔なんだよ!」


 ティオとリャナンシーもまた戦っているが、どうも手間取っているようだった。それもそのはず、傷をつけてもつけても回復していってしまうのだ。致命傷を与えても徐々に回復していく。回復する速度と能力が違うが、二人が相手をしているのはヴァンパイアの一種なのだろう。リャナンシーが言っていた従者クラスのヴァンパイアかもしれない。

 ティオはまだ戦えてはいる。対してリャナンシーは苦戦しているようだった。彼女は暗殺を得意としている。そんな一撃必殺を常としている戦い方をする彼女に、この相手は相性が悪過ぎるというしかない。それに、数だって多い。二人だけであの数を相手にしなくてはならないという時点でかなり無理をしている。


 「……なかなかしぶとい。だが、それもいつまで保つ?」


 ヴァンパイアが姿を見せる。答えられるだけの理性が残っていないが、話を聞くことぐらいはできた。確かに、あいつが言っていることは正しい。このまま戦い続けても、いずれこちらが全滅する未来があるだけだ。

 まず、一番余裕がありそうな僕が倒れる。『紫月』に振り回されるだけの肉体では、身体が壊される方が早い。いずれ動けなくなり、戦えなくなる。そうなると後はもう次々と倒れていくしかない。どちらを先に殺すかまでは知らないが、苦戦している二人のどちらかを殺す。後は放っておいても時間が解決するだろう。


 「おい、どうにかしろ!早くタクミを助けに行かねえと!」

 「無茶を言わないでください。そんなに急ぎたいのでしたら、あなたがどうにかしてくれればいいでしょう」


 二人が喧嘩するようにお互いを責める。別にどちらが悪いというわけでもない。単純に、努力してもまだ届かなった。それだけのこと。

 ヴァンパイアから距離を取る。『紫月』の本質を知った今だからこそ、どうにか意思を汲み取ってくれるような言い回しを覚えた。使いたくない、使いたくないと言っては結局使ってしまう自分に嫌気が差す。ああ、本当に嫌だ。最後にはこいつを使わなくちゃいけない自分が。そして、何より弱い自分自身が嫌だった。あの頃と何も変わっていないようで、本当に反吐が出そうになる。


 「この世界はクソくらえだよ。そんなことは昔からわかってる」

 「なんだ?」

 「いいことがあるからこそ、悪いことを乗り越えなきゃいけないと思ってしまう。悪いことの方が圧倒的に多いっていうのにね」

 「何が言いたい?」


 ヴァンパイアが怪訝そうな表情を向ける。僕はため息をつく。『紫月』は大人しい。こいつからすれば邪魔する理由がない。だからだろう。

 黒刀を持ち上げる。ヴァンパイアが警戒するように魔力を高めた。そんな彼の予想を裏切るように、僕は。








 ――――自分の手に刀を刺していた。


 「何を!?」

 「タクミ!」


 悲鳴のような声が聞こえた。気がする。急速に周囲の音が遠ざかっていく。意識もさらにぼんやりとしたものになる。本当にクソッタレだな。そんなことを思いながら、僕は黒い衝動に身を委ねた。


※               ※               ※

 雷撃が爆発するかのように放出される。見れば、アマゾネスが鎧の形を変えていた。鎧がより刺々しく、装甲が薄くなったように感じる。鎧の色も大きく変わった。黄色の鎧は淡い紫へと色を変え、バチバチという音を鳴らしている。

 音がだんだんと大きくなる。何が起こるのか。そう思ったときには遅かった。私を含め、誰も反応することができなかった。気付いたときにはあれだけいたヴァンパイアが倒れ込んでいるのみ。立っているのは私とアマゾネスだけであった。


 「これは………」


 奇跡的にヴァンパイアたちは死んでいない。のだが、身体が痙攣している。彼らをよくよく確認してみれば、彼らの身体には無数の雷が纏わりついていた。これが身体を痺れさせ、身体の自由を奪っているのだろう。ただ愚直に突進するだけだったアマゾネスからすれば、かなりの成長である。

 それはともかくとして、すぐに彼の助けに入らなくては。自分で自分の身体に剣を突き刺すなど、何を考えているのかまったくわからない。だが、確実によくはないはずだ。すぐに手当てをしなければ、と駆け寄る。


 「……タクミ?」


 アマゾネスが呆然と彼の名を呟く。私も彼の姿を見た。見てしまった。私は言葉を発することもできなかった。言葉が見つからなかったのだ。

 そこにいたのは黒い鎧だった。声を失うほどに美しく、そして危うさを感じる代物。いつからそこにあったのか。どうしてあるのか。そんな疑問を忘れてしまうほどである。


 「また奇怪なことを………」


 鎧の姿が消える。かと思うと、次の瞬間には元の主の前にいた。あまりの速さに驚愕する。それは元主も同じだったらしい。回避しようとするが、動き出しが遅れてしまう。そこからは悲惨という他ない。私の目にはそれが人でも魔物でもなく。ただ淡々と作業をするだけの何かに見えた。それが何よりも恐ろしかった。

 鎧が元主の鼻を殴りつける。ゴキンッ!という音がして、鼻がへし折れた。痛みで行動が鈍り、後方へと倒れ込みそうになる。だが、倒れ込むことを鎧は許さない。襟首を掴み、顎を殴る。体が浮いたところで更に追撃。鳩尾を殴りつけ、息を詰まらせる。落ちて来る身体を蹴り上げ、両手を合わせて拳のようにし思い切り叩きつけた。


 「ガハッ!」


 ようやく地面に倒れることができた。だが、まともに起き上がることはできない。あの鎧の攻撃によるダメージが大き過ぎた。回復するのには少し時間が掛かる。ヴァンパイアが治せるのは傷であって、痛みではないのだから。普通は少しで十分と言えるだろうが、今は相手が悪過ぎた。そんな時間を与えてくれる敵ではない。

 元主を吊るし上げる。何度も鎧を蹴りつけてはいるが、効果がない。左手一本で大の大人を持ち上げることができる辺り、かなりの力があるのだろう。


 「何を、するつもりなのですか………」


 右手の形が変わる。指先が鋭くなり、まるで一つ一つが剣のようになった。それを構える。何をするか気付いたときにはもう遅い。鎧は一気に元主の胸へと突き立てていた。


 「ぐおっ!……きさ、ま………」


 それでも、貴族クラスのヴァンパイアだ。死ぬようなことはない。身体を変化させようと、手から霧になっていく。ただ、変化する速度が遅い。傷の修復にも力を使っているからだろう。


 「………………」


 鎧が一層深く手を突き刺す。最初は耐えていたようだったが、唐突に顔色が変わる。


 「貴様、まさか!」


 身体の変化が止まる。霧がどんどん実体化していく。何が起こっているのかわからない。


 「この私の魔力をすべて食いつくす気か!」


 脱出しようと試みるが、力が違い過ぎる。もがく力は弱々しくなっていき、遂には両手が力なく落ちた。


 「勝った……のか?」

 「ええ……間違いなく」


 鎧が身体を手放す。元主の身体は地面に落ち、力なく倒れるだけであった。


 「……!いけません!」


 咄嗟に体が動く。鎧はまだ動いていた。鎧の手の中にはあの黒い刀が現れ、倒れ伏した元主を斬ろうとしている。もう勝負はついている。これ以上何かをする必要はないはずであるのに。


 「止まってください!」


 私は元主と彼の間に身体を割り込ませていた。

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