18話
「へー、これティオが作ったんだ」
ようやく立ち直ったティオが食事を勧めてくれたので、遠慮なく食べさせてもらうことにした。実はかなりお腹が空いていたのだ。わざわざ買いに行かなくてもいいのはありがたい。少し怠さも残っているし。
……というか、軽く目眩やふらつきを感じるのだけど。この症状、知ってるなあ。よく知ってる。物作りに集中し過ぎて、よくなりがちだったのだ。またやらかしている辺り、本当に成長がないと思ってしまう今日この頃である。
まずスープから口にすることにした。下手したら死にかねないし。脱水症状を舐めちゃいけないのだ。思い返せば、水を口に含んだ記憶がぼんやりとしか思い出せない。よく生きてたな、僕。
「まあ、な。料理ぐらいはできないと、嫁に貰ってくれるやつなんていないと思ってたし………」
ティオの話を聞いていると、どうやら戦士でありたい!とか、こんなことをやりたい!とかというものはないらしい。正直、裕福でなくてもそれなりの生活でいいのだとか。欲がないというか何というか。
それでも、夢はきちんとある。将来の夢は素敵な男性と結婚して、幸せな家庭を築くことらしい。つまりはお嫁さんになりたいということである。……乙女だ。日本で見かければ、絶対グレてると言われそうな見た目なのに、夢が滅茶苦茶乙女である。なんだか、辛い過去が可哀そうになってくるぐらいにピュアである。
「部屋とか見てる限り、普通の女の子っぽいけどなあ………」
ちょっと夢見がちな女の子、って感じ。気にするようなこともないと思うのだけど。食べてる料理も美味しいし。
「でも、スープはともかくおにぎりの方は知らなかったんじゃないの?」
そもそも、お米が普及してないみたいだし。人族大陸での主食はパンだと聞いている。勿論僕はどっちでも食べるし、そのときの気分に依ってという実に日本人らしくない思考を……いや、ある意味らしいのかな?日本人って物を見たとき、まず食べられるかを気にするとか聞くし。
話が逸れた。ともかく、フェルトに聞いた話だとパンが主食。貧しいとこに行くと芋類に、ごく稀に麺類ぐらいなら遭遇するのだとか。お米は食べたことがないようで、それもまたカレー好きに加速をつけてしまったのかもしれない。
「んー、まあ確かに知らなかったけどさ……えーと………」
しどろもどろといった様子で、視線を彷徨わせる彼女。……予想は何となくついたけど、言っていいものかな?これ。またさっきみたいになるのは勘弁したい。
「……勘がいいっていうのも困りものだな………」
物語だと真っ先に消されそうなタイプである。そりゃそうだ、敵からしたら邪魔でしかない。情報を知られていれば、対処される可能性も高くなるだろうし。
さて、ティオの反応と行動から予測するに、元々食べる気はなかったのだろう。よくわからないものを食べるのには勇気がいる。そう簡単には手が出せないものだったはずだ。
けれど、ティオは恋する女の子である。相手のことを知りたいと思って、近付くのはなんら不思議なことじゃない。そこで、僕が食べているところでも見たのかもしれない。ティオの性格からすれば、好きな相手のことを想って、好物を作ろうと考えるのは想像するに易い。自分で食べて、再現できないかと考えたのだろう。で、できちゃった訳だけど、いつ振る舞っていいものかわからず、今日に至るまで先伸ばしになってしまった。のだと思う。……確認しなきゃ、わからないけど。
「でも、美味しいよ。ありがとう」
「そ、そうか!?それならいいんだ、うん!」
すごく嬉しそうだなあ。見てるこっちまで嬉しくなりそうな、可愛らしい笑顔だと思う。ほんと、こんな子を騙す人の性格を疑ってしまうよ。
そういえば、どれぐらい眠ってたんだろうか?ロメリアさんやルクレースさんのこともある。無事であることぐらいは伝えたいのだが。
『おはようございます、マスター』
「あ、おはよう、ノア。僕はどれぐらい寝ていたのかな?」
『約10時間です。正確に言うのであれば、10時間4分28秒ですね』
「結構寝ちゃってたなあ」
苦笑するけど、それで許してくれるノアではなかった。
『マスター、もう少し身体を大事にしてください。無理のし過ぎです。下手をすれば死んでいました』
「あー……まあ、ね。できる限りは気を付けるよ」
それぐらいしか言えないかな。僕が僕である限り、この性格は死んでも変わりそうにないから。
『それと、騎士団が模擬戦を始めました。データは記録してあります。また、微修正が必要な箇所はこちらで纏めておきました』
「そうだったの?気持ちが押さえられなかったかな………?」
折角だし、僕も見てみたいと思ってたんだけど。やっぱり、逸る気持ちはあったのかな。ひょっとすれば、反撃が可能となったかもしれないわけだし。
『そうではありません。マスターが起きれば、必ず見に行くでしょう。そうなったとき、時間を掛けさせてしまうと判断しました』
「それぐらい気にしないんだけど………」
『マスターには休息が必要です。今は効率を重視する場面だと考えますが?』
そりゃまあ、そうだけども。騎士団の怒りの矛先が魔物に向かわせる方が、今後を考えるといいのだけども。それでも、造った人としての責任ってものがね……どうもノアは僕を神様か何かと思っている節がある。確かに僕はこの子を造ったけど、それだけだからねえ。尊敬できるようなことはしてないと思う。
「わかったよ。その代わり、今……や、今のなし。食後にでもデータと模擬戦の様子を見せてくれるかい?」
『……明日では駄目なのでしょうか?』
「その日のうちにやらないと、どこを弄ったものかわからなくなるじゃない」
ただでさえあの人型兵器はパーツが多いのに、後回しにしていたらどこが悪いのか思いつかなくなる。整備不良で死人は出したくないのだ。
『……了解しました。食後にデータを見せましょう』
「助かるよ」
不承不承といった様子で承諾してくれたノアに微笑み、再び食事に戻る。これから忙しくなりそうだ。
ちなみに、今すぐと言わなかったのはティオに失礼かと考えたからだ。流石に、前と同じ間違いはしたくなかったし。




