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麗人賢者の薬草箱  作者: 江本マシメサ
第七章 お宝と迷宮と……
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九十六話

 意を決したクレメンテが、扉の取っ手を引く。

 ギィ、という重たい音を立てながら、戸は開け放たれた。

 扉の先は白く輝いていて、見えないようになっている。


 一歩、足を踏み入れようとしたその時、リンゼイは「待って!」と声を掛けた。


「どうかしましたか?」

「あの、ウィオレケと、手を繋いでくれる?」


 その言葉に、クレメンテとウィオレケの双方が驚いた顔をする。


「姉上、どういう意味があるんだ?」

「それは――さっきみたいに、みんながバラバラになることは嫌なの」


 リンゼイは二層目のようになることを危惧しているのだ。


「リリット」

『ん?』


 近くをふわふわと飛行していたリリットを勝手に掴んで鞄の中に詰め込み、道具箱の中から布を取り出して、怪植物モンス・フィトの体を手早く包んでからウィオレケに背負っておくようにと託した。


「ウィオレケ、この子、お願い」

「まあ、いいけど……」


 クレメンテにも弟を頼むと言った。


「任せてください。必ず、守ります」


 怪植物モンス・フィトを背負っている義弟に手を差し伸べる。

 ウィオレケは素直に差し出された手を握った。


「あの、リンゼイさんは?」

「私は、一人でも、平気」

「ええ、ですが……」

「大丈夫だから!」

「あ、はい」


 クレメンテは空いている手で頬を掻く。

 頭部全体を覆っている兜を被っているので、頬は掻けていなかったが本人は気付いていない。


「姉上、まさか、恥ずかしがっているとかそういう訳じゃないよね?」

「ち、違う!」

「……」


 責められるような視線を姉に向けていたが、言っても無駄かと思って先に行くように言う。


「義兄上、行こう」

「分かりました」


 クレメンテはウィオレケの手を引いて一歩踏み出した。

 しかしながら、またしても別の者に呼び止められる。


『ヤ、ヤダ~~!!』


 突然騒ぎ出したのは、怪植物モンス・フィトである。

 皆が一緒ではないと嫌だと言い出したのだ。


「別に、次も二層目みたいな仕掛けがあるとは限らないし!」

『デモ~、マタ、別レタラ悲シイ~~』

「分かったから!!」

『!』

「手、繋ぐから、大人しくしていなさいね!」

『ハ~イ!』


 リンゼイはウィオレケの手を繋ぐ。


「姉上、どうして、こちらに……」

「……」

「一層目では義兄上に散々くっついていた癖に」

「い、いいから、早く行きましょう!!」


 多少モメたあとで、扉の先に踏み入れることになった。

 白い光に包まれていたが、すぐに晴れる。


「――美食闘技大会へようこそ!!」

「へ?」


 扉の向こうは、何かの受付をする場所のようだった。

 石を詰んで作った城のような場所である。

 地下なのに、何故か外からの風景が見えた。雪が深々を降り積もっている。

 窓や天井の一部は吹き抜けで、冷たい風と雪が吹き付けていた。

 とても寒い場所である。


 トントンと、ウィオレケから手の甲を叩かれて気付く。皆、一緒に来ていた。一人ではない。

 とりあえず、クレメンテは混乱する中で、家族の無事を確認してからホッとする。

 リンゼイは既に手を放しているようだったが、まだ何があるか分からなかったので、義弟の手は握ったままでいる。


 受付のような場所に居る男は二十代後半くらいに見えて、軽そうな雰囲気を纏っていた。

 そんな男にウィオレケが質問をする。


「美食闘技会って何?」

「はい! ご説明をさせていただきます!」


 『美食闘技大会』。

 美食王が主催をする楽しくも愉快な大会である。

 参加できる部門は二つ。

 一つは、食材狩人が集めて来た食材と戦う『食材戦闘部門』。

 もう一つは。新鮮な食材を使って料理の腕を競う『お料理王部門』。


 どちらも、参加は二名からとなる。

 一つの部門につき、最大四名まで登録が可能だと男は説明していた。

 戦ったり、料理をしたりするのは一回のみ。審査員と観客の評価で優勝者が決まる。


 そして、優勝した者には、美食王の晩餐に招かれるという。

 食卓には特別な料理も並ぶ予定である。

 参加概要が書かれた冊子を渡されたが、この場で簡単に決められるようなことでもない。


「あ、えっと、ちょっと考えますね」

「はい! お待ちしております!」


 背後を振り返れば、入って来た扉は無くなっていた。

 代わりに休憩出来る机と椅子が置かれてある。

 そこに座って話し合いをすることにした。

 リンゼイは寒くないように小さな炎の魔石を配った。これを身に着けていれば、寒さを感じない。


 体が温まったところで、話し合いを開始する。


『ここ、竜の肉塊ドラク・ヴィアンド絶対あるよね!』

「間違いないでしょう」

「ねえ、ウィオレケ、美食王って知ってる?」

「いや、知らない」


 美食王の名は初めて聞いたが、竜の肉が美味しいということは世界的にも有名だ。

 長年熟成されて、特別な技法で保存をされた『竜の肉塊ドラク・ヴィアンド』を一度でいいから食べてみたいと夢見る美食家は多い。


 参加要項の中には美食王についての記述はなかった。

 リンゼイはパラパラと、冊子を捲って大会についての情報を把握する。


 『食材戦闘部門』は食材として捕獲してきた魔物と戦うもので、『お料理王部門』は魔物を使った料理を行うというもの。


「とりあえず、参加してみる?」

「そうですね」


 クレメンテとリンゼイがペアを組んで『食材戦闘部門』の参加を決める。


『ウィオレケはお料理部門?』

「いや、魔物料理とか無理だし」


 自分も戦闘部門に参加をしたいと言えば、リンゼイより却下される。


「二手に分かれた方がいいと思うの」

「それは、確かに一理ありますね」

「でも、魔物料理なんか、出来ないから」

筋肉妖精マッスル・フェアリの手を借りるとか?』

「……」


 筋肉妖精マッスル・フェアリならば、未知の食材でもなんとかしてくれそうな気がしていた。


筋肉妖精マッスル・フェアリの召喚って、イクセルン国の王家の人にしか応じてくれなかったんだっけ?」

『いや、来てくれた――ああ、わたしの呼びかけだから応じたのかも』


 こう見えて、リリットは妖精の中でも高位存在になる。多くの妖精達は彼女の呼びかけに応えてくれるのだ。


「だったら、リリットはウィオレケと同じ組ね」

『そういうことになるかな』


 筋肉妖精マッスル・フェアリを二体呼べば、十分な戦力になるだろうと、予想していた。

 申し込みを済ませてから、近くにあった売店でお茶とお菓子を買って、休憩を取る。


「そんなもの、食べたり飲んだりして大丈夫なのか?」

『平気、平気! 鑑定で視てみたけど問題ないよ』

「周囲に居る人々も本物のように見えますね」

『あ!』

「はい?」

『ここって、迷宮内じゃないのかも!?』


 行き交う人々を見ても、きちんと情報が視えた。

 先ほどは幻術で作った紛い物だったので、違いがすぐに分かる。


「別の街と、繋がっているってことなの?」

『……かも』

「ありえないことだ、そんなことは」


 リリットもはじめはそう思っていたが、この場を知ろうとすれば、自身の目には一つの大きな都が映し出されるのだ。

 現在地は半円形の闘技場のような場所だと言う。観客席にはかなりの見物客が居た。


「でも、戻ることは出来ないみたいですから」

「そうね」

「やるしかないってことか」


 若干ヤケクソになりつつ、大会が始まるのを待っていた。

 お菓子とお茶を飲みながら、時間を潰していると、集合の声が掛かる。


 リリットは人の居ない所で『妖精の鐘フェアリ・クロッシュ』を振って筋肉妖精マッスル・フェアリの召喚をした。

 朝、呼びかけに応じてくれた妖精おっさん達が来てくれる。

 雪国仕様なのか、全身を覆う純白毛皮のコートを纏っていたので、リリットはホッとする。


 事情を話せば、妖精おっさん達は快く協力してくれると言った。

 念の為に、人間界なので、触覚と翅は隠しておくようにと言っておいた。


 長い外套に触覚と翅のない姿となった筋肉妖精を見て、リリットは思わず呟いてしまう。


『……とうとう、普通のおっさんにしか見えなくなった』


アイテム図鑑


忘れた草 


リンゼイに大人しくしているように言われたので、ウィオレケに背負われたまま一言も言葉を発しない健気な怪植物モンス・フィト

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