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麗人賢者の薬草箱  作者: 江本マシメサ
第七章 お宝と迷宮と……
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九十四話

 クライナは少し休憩をして行ってはどうかという提案をして、一行を自らの部屋に案内してくれた。

 迷宮内に仕掛けがあり、解除をしたら扉が出てくる。


「さあ、どうぞ」

「あ、ありがとうございます」


 会釈をしながら入って行くクレメンテ。


「アレ、罠じゃないよね?」

「何か企んでいたら、義兄上が気付くだろう?」

「あ、そっか」


 リンゼイとウィオレケはクレメンテが入って行く姿を確認して、大丈夫そうだと分かったので、後に続いて行った。


『酷い姉弟だ……』

『悪イ気ハ感ジナイカラ大丈夫ダヨ~~』

『そうみたいだね』


 リリットと怪植物モンス・フィトもお言葉に甘えて部屋に上がることにする。


 案内されたのは薄紅の壁に白い家具、本棚には童話や恋愛小説などがある、少女らしい部屋であった。

 部屋には窓があって外では森の中での晴天風景が広がっているが、ここは地下の迷宮内のなので、幻術か何かで作り出したものになる。ウィオレケは気になっていたが、下手に触って術式に巻き込まれたら嫌だったので、近づかないでおいた。


「さあ、お座りになって」


 長椅子を勧められる。

 机の上には焼きお菓子と果実汁が置かれた。

 クレメンテは兜を外してから、お礼を言う。


 数回の戦闘を経ていたので、皆疲労感が表情に浮き出ていた。

 そんな彼らに、クライナはある提案をする。


「ここは客間もありますので、一泊されてはいかがかしら?」

「いえ、そこまでして頂くわけには」

「でも、お疲れでしょう?」

「……それは、まあ、そうとも言えますが」


 現在、迷宮の外は日が落ちて暗闇に包まれる時間帯であった。

 一度、入り口に迷宮の敷いている転送陣を通じて地上に戻ることも可能であったが、そこから近くの村までは竜で一時間ほど。若干の面倒くささがある。気力を振り絞って行っても、今の時間帯ならば、宿が空いていない可能性もあった。


「どうしましょうか?」

「あなたの判断に任せる」

「私も、義兄の決めた通りに」


 クライナからは悪意など伝わってきていない。だが、初対面の相手に甘えて良いものかと、気が引けてしまう。


「このような大所帯で、迷惑ではありませんか?」

「ええ、大歓迎です」


 クライナは申し訳なさそうに言う。

 物語を盛り上げる為に、自分の術のせいで迷惑を掛けてしまった。特に、クレメンテには手荒なことをしてしまったので、お詫びがしたいと頭を下げていた。


「本当に、申し訳なかったと」

「大丈夫です。他の者よりも頑丈なので」

「ありがとうございます」


 どうしても泊まって欲しいというので、お言葉に甘えることにした。


 夕食も作るというので、ウィオレケが手伝いを申し出る。

 リンゼイは風呂の準備をすると言ってクライナに案内を頼んでいた。


 残されたクレメンテは仕込みをしているウィオレケを手伝おうと台所へ行ったが、調理に慣れていない人は邪魔になると言われて追い出されてしまった。

 とぼとぼと、元居た場所へと戻って来る。

 迎えるのは、リリットと怪植物モンス・フィトであった。


『まあ、役に立たない者同士、落ち着いておこうよ』

『ミンナ、仲間ダカラ~』

「そうですね」


 ふと、リリットは気になっていたことをクレメンテに聞いてみる。


「なんでしょうか?」

『いや、さっきの物語の中で、どうやってリンゼイが偽物かと気付いたのかなって』

「ああ、それは――」


 クレメンテは理由を口にしようとして、カッと頬を染める。


『あ、恥ずかしかったら、いいよ、言わなくって』

「い、いえ、懺悔をさせて下さい……」


 ぼそぼそと、本物と偽物の違いが分かった理由を話す。


「リ、リンゼイさんの……」

『うんうん』

「首筋に、ホクロが無くって」

『え?』

「……」


 リンゼイには顎と首の境目辺りにぽつんとホクロがあると話す。皿の上に寝そべっていた女神仕様のリンゼイには、それが無かったと。


『そ、そのお話、懺悔という程のものでもない気が』

「でも、気持ち悪くないですか? 体の特徴を覚えているとか」

『あ、そうか。ニンゲンの女性からしたら、そうかもね』

「……はい」


 他に、香りもいつもと違っていたし、髪の色合いなども別物だったと言う。


『すごいね。わたしはリンゼイにしか見えなかったよ』

「すみません」

『いや、大丈夫。今回そのお蔭で助かったし』


 幻術は偽物だと認識されることに弱い。

 クライナの術が解けたのも、リンゼイが本物ではないと気付いたお蔭であった。


『まあ、この件については黙っておくから』

「いえ、別にお話をしても構いませんが」

『勇気があるね』

「なんだか申し訳なくって」

『いいって。露出している部分だし』


 この話はこの場のだけにしておくと、リリットは言った。

 怪植物モンス・フィトにも黙っておくように注意をしておく。


 風呂の準備が出来たからと言ってリンゼイが戻って来た。

 クレメンテに先に入るように勧めたが、とんでもないことだと首を振る。


「でも、どうせ誰かが入った後は新しいお湯を入れ直すから」

「あ、そうですよね」


 ここに居ても役に立たないので、風呂に入ることにした。


「メルヴさんも一緒に入りますか?」

『イイノ~?』

「はい」

『ヤッタ~』


 クレメンテは怪植物モンス・フィトの体を持ち上げて、風呂の場所を聞く。

 分かりやすい場所にあったので、クライナの案内を断って向かって行った。


『リンゼイ』

「なに?」

『いや、メルヴってお風呂に入れても大丈夫なのかなって』

「……ええ、平気みたい」

『そうなんだ』


 たまに使用人達の手を借りてお湯を浴びている場が目撃されている。


『茹だって萎びない不思議』

「あの子、普通の植物じゃないし」

『そうだったね』


 数十分後、怪植物モンス・フィトは葉はつやつや、根っこ部分は張りがある状態で帰って来た。


 ◇◇◇


 食卓にはたくさんの料理が並べられていた。

 籠に山盛りのパン、野菜と燻製肉のスープ、三角形のひき肉パイ、白身魚の香草焼き。

 上品な盛り付けをされた料理の品々は、なんとも言えない香りを漂わせていた。空腹状態のリリットはごくりと唾を飲み込む。

 一人、申し訳なさそうにするのはクライナである。


「申し訳ありません、お客様に作って頂くことになって」

『ん、どうかしたの?』

「料理の全てを、ウィオレケ様に作って頂きましたの。わたくしはお手伝いをするばかりで」

『え、全部ウィオレケが? 凄すぎ!』

「そんなことどうでもいいから食べようよ」


 昼食を摂ったのは随分と前だったので、皆空腹であった。会話を止めて、食前の祈りを始める。

 無宗教者であるリリットは、目の前にある香ばしい匂いのパンを前に、そわそわと気分が落ち着かない状態でいた。

 地味に頑張った怪植物モンス・フィトにも、リンゼイ特製の『植物魔力活性剤』が用意されている。


「では、戴きましょうか」


 クレメンテの言葉をきっかけに、食事の時間が始まる。

 リンゼイがリリットのお皿に食事を盛り付けてくれる。

 白いパンを二つ、パイを置いて、香草焼きにはバターソースをたっぷりと垂らしてくれた。

 スープはしっかり人間の一人前が用意される。


『リンゼイ、ありがとうね』

「いいえ」

『では、いただきます!』


 まずは匙を両手で持ってスープの具材を確認する。中には角切りにした燻製肉と根菜、葉野菜が入っていた。スープを匙で掬って啜る。素朴な味であったが、疲れた体に温かいスープが染み渡る。燻製肉と根菜を載せて更に一口。肉のほどよい塩気と野菜のホクホク感が相俟って、なんとも幸せな気分となる。

 次は三角ひき肉パイ。

 人の手のひら位の大きさであったので、リンゼイが二つに割ってくれていた。リリットは両手で掴んで噛り付く。

 パイはあつあつサクサクで、中にはぎっしりと具が詰まっていた。香辛料でしっかり味付けされた肉からは肉汁が溢れてくる。夢中になって食べきってしまった。

 白身魚の香草焼きは、何も掛かっていないところはカリカリとしていて香ばしい。ソースはバターの風味が豊かで、ふっくらと焼きあがった魚とよく合う。皿に残ったソースはパンに付けて食べたら美味しかった。


『うわ~、全部美味しかった~~!!』


 パイを掴んで油っぽくなっていた手を拭いながらリリットは言う。

 お菓子作りだけではなく、それ以外の料理も出来るのかと、ウィオレケに尊敬の眼差しを向けていた。


「別に、スープは下ごしらえがしてあったし、パイは挽いてあった肉に適当な味付けをして、作ってあったパイシートに包んだだけ。魚も捌いてあったのを香草を振って焼いただけで、大した調理はしていない」

「そうだったのですね」

「でも、とても美味しかった」


 姉夫婦に褒められて、照れたのか俯くウィオレケ。その様子を眺めるリリットである。


『あ、でも、パイ生地作っていたり、クライナもお料理出来るんだね』

「いえ、私はあまり……。お料理はいつも上の層に住んでいる妖精お姉様が主にしてくれて」

『え、誰?』

「妖精お姉様ですわ」

『ま、筋肉妖精マッスル・フェアリ?』

「そんなお名前だったかしら?」


 食事は筋肉妖精おっさん達が交代でやって来て、甲斐甲斐しくお世話をしてくれたと話す。

 彼女らおっさんは、調理時間を短縮させる為に、しっかりと食材の下ごしらえをしていた。


『パラティエ公、おじさんも来ていたの?』

「いいえ、来ていたのは妖精のお姉様だけですの」

『え~っと、黒髪で髭の生えた妖精っぽい人なんだけど』

「いいえ、来ていませんわ。お姉様達は皆金髪です」

『あ、そっか』


 パラティエ公に聞いていた通り、二人の交流はなかったようだ。

 クライナはお喋りな妖精を見つつ、目を細める。


『どうかしたの?』

「いえ、妖精さんって、リリット様みたいな可愛らしい方もいらっしゃるのね、と」

「い、いや、待って、筋肉妖精マッスル・フェアリは妖精の標準スタンダードじゃないから!!」


 大切なことなので、しっかりと訂正をするリリットであった。


アイテム図鑑


筋肉妖精マッスル・フェアリのスープ


妖精おっさん達が作った優しい味がするスープ。

食事をする喜びを教えてくれる。


◇お知らせ◇

本日より隔日更新になります。

次回更新:10月3日

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