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麗人賢者の薬草箱  作者: 江本マシメサ
第四章 夫婦として
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五十九話

 敷物の上に食事が並べられたら、スメラルドが湖面を無表情で眺めていた男性陣を呼び寄せる。

 皆、食事がおいしそうだと言いながら腰掛ける中で、一人だけ立ち尽くしている者が居た。ウィオレケである。


「……もしや、地面に座って、食事をするのか?」

「そうだけど」

「……」


 今まで食卓の上でしか食事をしたことがないので、躊躇をしているのだ。


「課題で森の中を散策に行く時とか、軽食を食べたりしなかったの?」

「しない。食事はいつも街の食堂とかでしか」

「そうだったの」

「あ、姉上は?」

「森の中で食べていたけれど?」

「……」


 リンゼイはいいから座れと、弟の手を引いて座らせた。

 同じ家で育ったのに、どうして感覚が違うものかと首を傾げる姉弟。

 その話を聞いてハッとするリリット。


『あ! リンゼイがそんな感じなのって、小さい頃に木の実とか食べさせていたせいかも!?』

「……そうだっけ?」

『う、うん』


 リリットは幼いリンゼイを連れて、森の中で薬草の名前や薬効を教えたりして遊んでいたのだ。それに加えて、大自然の中では小さいことは気にしてはいけない、という教えも吹き込んだ気がして、額に汗を掻いていた。

 リンゼイの性格の礎となった部分に、自分と過ごした時間が関係しているかもしれないと思ったリリットは、周囲の者達に心の中で謝罪をしていた。


「ま、そんなことはどうでもいいから、早く食事にしましょう」

『ソウダネ』


 リンゼイは木製の皿を取って、パンや揚げた肉などを盛り付けてからウィオレケに差し出す。顔を上げれば、目の前に座っていたクレメンテと目が合ったので、ついでに同じようにパンなどを皿に取って手渡した。その一連の行動を見たリリットは、新妻らしくなったと感心していた。


 食事が終われば、再び移動を開始する。

 『ブランキシマ鋼』があると思われる鉱山の麓には竜が着陸出来そうな開けた場所が無かった。なので、鉱山へと繋がっている森を徒歩で抜けなければならない。


『うわ~、わたし、ああいう湿った森、苦手だな~』

「妖精はそうでしょうね」


 リンゼイとウィオレケはこの森に自生している可能性のある薬草を思い浮かべ、楽しそうにしていた。似た者薬草マニア姉弟めと、リリットは呆れる。


 鉱山にたどり着くまでに越えなければならない森は、鬱蒼とした薄暗い場所である。

 こういう場所には魔物が集まりやすい性質があった。


『ここから先、かなりの数の魔物が居るっぽいね』


 魔物避けもあまり効果がないだろうとリリットは言う。


「隊列はどうしましょうか」

「そうね」


 剣士に魔術師が二名、弓師に猫妖精フェアリ・ケッタという偏った構成である。

 後方からの急襲にも備えるために、前と後ろに配置する近接戦闘員が居ることが理想的であったが、仕方がないと諦める。


 非戦闘員であるスメラルドの特殊能力は『応援』というもの。

 戦闘員の士気や集中力が大幅に上がり、憂鬱な気分を吹き飛ばす効果がある。

 尚、スメラルドの応援に限り、イルに対して効果が二倍になっていた。


 進む順番はクレメンテ、ウィオレケ、スメラルド、リンゼイ、イルとなる。

 イルは時間稼ぎ位なら、近接戦闘も可能だと言っていたので、後方を任せることになった。

 リリットは『鑑定』で森の中を視て、鉱山までの道を割り出す。道案内をしなければならないので、クレメンテの斜め前を飛ぶことになった。


『さて、出発をしますか』

「そうですね」


 魔物の気配が濃かったので、クレメンテは剣を抜いてから進んでいく。

 地面の土はぬかるんでいた。気を抜けば大惨事になるので、慎重な足取りで進む。


『あ!』


 リリットが魔物の存在に気付くのと同時にクレメンテが動き出す。

 草陰から飛び出してきたのは二足歩行をする植物の魔物、『怪植物モンス・フィト』。

 葉は髪の毛のように生い茂り、根の部分は人の体のような手足がある。チカチカと光る紅い目が、意志のある生き物であると言うことを示していた。

 その姿を確認したリンゼイは目を見開いてとんでもない発言をする。


「待って、あれ、一匹欲しい!」

「姉上、怪植物モンス・フィトの生け捕りは難しいから無理」

「ちょっと言ってみただけだって」

「……」


 植物系の魔物中でも凶暴とされる怪植物モンス・フィトであったが、その体は強力な魔法薬の生成に必要な素材でもあった。

 だが、生きている状態の時に葉や茎などを採取しなければ、薬効が消えてしまうという、扱いにくい性質もあった。

 しかも、人との契約には応じない。生け捕りにして、封印の効果がある鉢に植えるしかないのだ。それを魔術師が成し遂げた例は、数件しか報告されていない。


 怪植物モンス・フィトの数は全部で十体程。

 住処を荒らされたというよりは、人間を己の養分にする目的で襲い掛かって来ていた。

 クレメンテは一番前に飛び込んできた怪植物モンス・フィトの根っこの部分を切りつける。移動手段を失くしたからか、今度は手を蔓のように伸ばしてから首元を締めようと狙ってくる。

 何かを察したクレメンテが後方に避けたのと同時に、一直線に飛んでいく火の玉が通過していった。

 リンゼイの放った炎魔術が怪植物モンス・フィトの体を焼き尽くす。


「姉上、義兄上が避けなかったらどうするつもりだった!?」

「いや、大丈夫。なんか避けそうな気がしていたから」


 姉に背を向けて戦いたくないと、心底思うウィオレケであった。


『つ、次の奴、来ているから! 後、葉には毒が付着しているっぽいから気を付けて!』


 横から飛び出してきたものは、イルの毒矢によって木に縫い付けられて、そのまま絶命することになる。

 クレメンテが動きを鈍くさせるように斬りつけて、リンゼイの火の玉が次々と怪植物モンス・フィトの体を焼き尽くした。


 その後も、クレメンテの奮闘とリンゼイの魔術の活躍によって魔物は全て討伐されることになった。見通しが悪い森の中であったが、イルの矢もスメラルドの応援を受けてどんどんと精度を上げ、遠方攻撃ながら、三体の怪植物モンス・フィトの息の根を止めることに成功をする。リリットとウィオレケは解毒や回復魔術など、補助に努めていた。


 まっ黒焦げになっている怪植物モンス・フィトの前にしゃがみ込んでがっかりと肩を落とすリンゼイ。そんな後姿に、クレメンテは声を掛ける。


「リンゼイさん」

「なに?」

「その……」


 振り返ったリンゼイは、クレメンテの手元を見て目を見開く。

 片手に握られていたのは、小振りの怪植物モンス・フィトだった。大人しい個体で、襲い掛かることが出来ずに震えていたところを捕獲したらしい。手足をバタつかせているが、襲い掛かって来る気配はない。


「これ、良かったらリンゼイさんに」

「いいの!?」

「はい。大きな個体ではありませんが」

「嬉しい!!」


 リンゼイは頬を紅潮させて、潤んだ目でクレメンテを見上げる。

 早速拘束をしなくてはと、道具箱の中から紐を取り出して、怪植物モンス・フィトを動けない状態にしていく。


 クレメンテがしっかりと怪植物モンス・フィトを押さえ、リンゼイが紐で巻いて行く。

 それを革袋の中に入れて、暴れないように一時的な封印を施してから道具箱の中に収納した。


 作業が終了した後の二人の表情は、達成感に満ち溢れていた。


「本当にありがとう、クレメンテ!」

「いえ、これ位、なんてことないですよ」

「大切に育てるから」

「はい」


 息が合いすぎている夫婦の共同作業を前に、目を細める者が約二名。


「……あの二人、絶対におかしい」

『うわ、びっくりした。思っていることが思わず口から漏れてしまったかと』


 呆れた視線を向けるのはウィオレケとリリット。

 暖かい視線を向けているのはイルだけであった。スメラルドはイルの衣服の乱れを直すので忙しくしていた。


 クレメンテとリンゼイは家で飼うことになった怪植物モンス・フィトの名前を考えることに気を取られ、周囲の視線など一切気づかないままで居る。


 二人はいつの間にか、大変な変わり者夫婦となっていた。


アイテム図鑑


怪植物モンス・フィト


様々な薬の素材に役立つ魔物。

賢い個体は人間の言葉を解し、喋り出す。

家に持ち込む場合は鉢に植えなければならない。

お部屋のインテリアにもオススメ。


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