六十話
その後、何度か怪植物との戦闘を重ねてから森を抜ければ、山壁に辿り着いた。
周囲をぐるりと回って、坑道の出入り口の穴を探す。
『ねえ、リンゼイ』
「なに?」
『ここってさ、坑道とかあると思う?』
「……」
坑道は誰かが掘って初めて出来上がるもの。自然に出来ていたということはあり得ない。
つまり、ここにミノル族が居なければ、ブランキシマ鋼は手に入らないことになる。
この山のどこかに、素材があることは間違いないのに、手に入れることが難しいと言われ、リンゼイは奥歯を噛みしめた。
そして、ふと、思いついた作戦を口にする。
「ないのなら、爆破で探す、ブランキシマ鋼」
『リンゼイ、字余り。じゃなくって!!』
力任せで無茶苦茶な行いはしないようにとお願いされる。一応、セレディンティア王国にも、自然保護条約はあるので、言ってみただけだとリンゼイは主張していた。
全く以て彼女の「言ってみただけ」が信用出来ないリリットである。
「リリット、この辺は視れないの?」
『残念ながら』
「属性的な問題?」
『そうだね』
鉱山付近は残念なことにリリットの『鑑定』の能力は使えない。
よって、地味に目視で探すしかないのだ。
リンゼイはスメラルドにミノル族の住処について訊ねた。小人族とも呼ばれている彼らは地面に穴を掘って暮らすことは共通しているが、家の形状などは個人によって違うので、参考にならないという回答が返って来る。
『例えば~、穴を掘って出入り口には岩を置いて外部との接触を断ったり、木を植えて森の中に溶け込んだり、土を被せてからただの地面に見せていたり』
『うわ、それって発見不可能な感じじゃん~』
探し出すことは不可能なのではと、誰もが思っていたその時、クレメンテが何かに引っかかって転倒をする。足が見事に地面にのめり込んでいた。
すぐに足を穴から引き抜いた。
「ねえ、大丈夫なの?」
「はい、なんとか」
クレメンテが踏んで空けてしまった穴をリリットは覗き込む。
中に向かって『ヤッホー!』と叫んだ。
リリットの声はしばらく経つと反響して返ってきた。
『とりあえず、底なしの穴じゃないみたい』
「もしかして、ミノル族の家とか」
『はは、まさか! そんな簡単に見つかるわけ』
『ラゴーー!!』
「!?」
穴から小さな親父が顔を出す。
小さな穴を取り囲んでいたリンゼイとクレメンテ、リリットは、突如として現れた者の存在に瞠目していた。
『ダレダ・ハノブケサ・テッカムニカナノエイノシワ!!』
中年親父にしか見えない小人に金槌を振り上げられ、威嚇される一行。
リンゼイは下手に言葉を発して相手を刺激しないように、伝心魔術を用いてリリットに話し掛ける。
(ねえ、この人って、ミノル族?)
リリットはそうだと頷いた。
褐色の肌を持ち、白く長いひげを蓄え、三角の帽子と長い外套を纏っている。
自宅の出入り口となっている表面の地面を踏み抜いて、かつ、家の中に向かって叫び声を上げたので、ご立腹という訳だった。
さらに、犯行に及んでいたのが毛嫌いをする人族だったので、怒りも二倍以上だという。
リリットが謝ろうとしたその時、スメラルドがミノル族の前にやって来てにこにこと話し掛ける。
癒し系の猫妖精と話すうちに、ミノル族の親父の眉間の皺は解れていった。最後に、お近づきの印としてムサの実を一つだけ手渡せば、たちまち笑顔となる。
(ねえ、リリット。スメラルドとミノル族はどういう話をしているの?)
リリットも全てを聞き取れている訳ではなかったが、ブランキシマ鋼を探している途中で、坑道へ続く道がなくて困っていると。そういうことを聞けば、坑道への出入り口はミノル族が掘った住宅から繋がっていると話している内容の一部を伝えた。
(ってことは、体の小さなミノル族にしか入れない坑道ってことなの!?)
(そうみたいだね~)
自分達だけでは得ることが出来ないと分かり、肩を落とす。
この先はスメラルドの交渉能力に掛かっている。
もう少し話が分かりそうなミノル族を探せばいいのにとリンゼイは思ったが、この地域では彼がセレディンティア王国に住む最後の一人だということが後の会話の中で発覚をした。
依然としてスメラルドはミノル族と話し込んでいる。傍から見たら世間話を楽しんでいるようにしか見えなかったが、リリット曰くきちんと交渉を続けているとのこと。
『旦那様、奥様、なにか面白い物を見せてくれたら、ブランキシマ鋼を譲ってくれるそうです』
「えっ!?」
交渉が核心にまで辿り着いていることに驚き、また、提示された条件に困惑をすることになる。
「面白いモノって言われても……」
珍しく、困った顔を見せているリンゼイに、リリットは『リンゼイの存在自体が面白いけどね』と言いかけたが、真面目に悩んでいるようだったので、黙っておいた。
クレメンテがセレディンティア王国の国宝である『王妃の指輪』をミノル族の親父に見せたが、珍しくともなんともないと言われてしまう。
「こ、国宝なのに……」
「え? それって複製品でしょう?」
「あ! ああ、そ、そうでした。複製品です。偽物です」
「……」
『……』
危うく指輪が百七十年前の国宝であるということがバレそうになる。油断ならない夫婦だと、リリットとウィオレケはハラハラしていた。
それから、イルが持ち歩いていたスメラルドの絵を始めとして様々な品物などを見せてみたが、齢五百年以上のミノル族の心を揺さぶる品は一つもなかった。
湿地帯の森は抜けたが、それでも付近は湿り気があって暑い。リンゼイは魔術師の外套の袖を曲げる。
『ヌ!!』
「えっ?」
突然、腕を掴まれるリンゼイ。
何事かと思えば、ミノル族は腕に着けていた腕輪に食いついていた。
『奥様、それはなんですか? と』
「なにって、溶岩から作った腕輪だったと思うけれど」
話を聞けば、腕輪自体が珍しい品ではないと言う。
「だったら、何が珍しいっていうの?」
気に入っている品なので、この腕輪が欲しいなら後日買いに行くように伝えてくれと頼む。
『こちらはどなた様からの贈りものですか、と』
リンゼイは隣に居たクレメンテを指差して、数か月前に貰った品だということを話す。
『まあ、旦那様から贈られた品物だったのですねえ』
ミノル族の親父はスメラルドに何か話しかけた後、部屋の中へと入って行く。
『良かったですねえ、ブランキシマ鋼、譲って頂けるようです』
「は?」
『リンゼイの腕輪が、面白かったってこと?』
『はい。腕輪の中に込められていた、贈り主からの『混じりけのない愛』に、感動をしたとおっしゃっていました』
「はあ!? そんなもので!?」
クレメンテの愛を「そんなもの」扱いするリンゼイであったが、言われた本人は照れるばかりで一切気にしていなかった。
リリットがリンゼイに『クレメンテから貰った腕輪、気に入っていたんだね』と言えば、ジロリと睨まれてしまったので、茶々を入れるのを中断する。
しばらく待てば、ミノル族は成人男性のこぶし大程のブランキシマ鋼を持って来た。
真っ白い金属は、薄暗い中でもキラキラと輝いている。
『ダンルクツ・ヲニナ?』
『何をお作りになるのかと』
「毒耐性の効果があるお守りなんだけど」
ミノル族の親父は『鍛冶場があれば作ってやらなくもないが』と言っていた。
彼の家の火戸、素材を加熱する窯が百五十年ほど前に壊れてから、修繕をせずに放置されているらしい。鍛冶の温度に耐えることが出来る鉱物が見つからなかったからだという。
調合用の窯ならば耐火魔術がかかっているので、鍛冶作業にも向いているのではとリンゼイは思う。
「だったら、屋敷に来て作って貰うのは、無理か」
『あ、よろしいみたいですよ』
「本当に?」
「ええ!」
住処に執着を見せるかと思いきや、そんなことはなかった。
この辺りの素材は取り尽くしてしまったので、別の場所に移動をするか百年ほど悩んでいたらしい。
家の中に必要な品を持って来ると言うので、リンゼイは空の道具箱を一つ進呈した。
アイテム図鑑
ムサの実
皮は黄色くて、細長くて、甘くて、栄養価が高い果物。
皮が道端に落ちていたら転倒する恐れがあるので、踏まないように注意をしなくてはならない。




